食料品、ガソリン、日用品・・・
生活に必要なあらゆるものが値上がりを続けています。
なぜ、ここまで一気にモノの値上げが続くのか。いつまで続くのか。
物価のしくみを知ると、その実像が見えてきます。
東京商工リサーチの調査によると、2022年に入って大手外食チェーンの約7割がメニュー価格を値上げしています*1。
また、2回以上の値上げを表明した企業も2割以上にのぼりました。
その理由は、下のようになっています(図1)。
図1 値上げの理由
(出所:「大手外食の約7割が値上げ 2度目、3度目の複数回値上げも2割以上に」東京商工リサーチ)
「原材料」「物流」の高騰が理由になっているケースが多いのです。
では、なぜ原材料や物流にかかる費用が高くなっているのでしょうか。
まず知っておきたい基本が、日本は食料品や燃料の値段が不安定になりやすい国だということです。
まず日本の食料自給率を見てみましょう。
令和3年度の日本の食料自給率は、カロリーベースで約38%しかありません(図2)。
図2 日本の食糧自給率
(出所:「日本の食料自給率」農林水産省)
では、足りない部分はどうしているのかというと、輸入に頼っているのです。スーパーなどに買い物にいくと、多くの外国産の食品を見かけることでしょう。食料自給率が4割弱という日本では、輸入食品なくしては私たちの食生活は成り立たなくなっているとも言えます。
製造国が日本であっても、その原材料が輸入品だというのもよくあることです。
よって、海外で起きた出来事によって、輸入食品の値段が大きく左右されやすいというわけです。
同様に、ガソリンなどのエネルギー事情について見てみましょう。
まず、日本のエネルギー自給率です(図3)。
図3 日本のエネルギー自給率
(出所:「日本のエネルギー 2021年度版 『エネルギーの今を知る10の質問』」資源エネルギー庁)
こちらも、日本の自給率は12.1%(2019年度)と非常に低くなっています。
食料品同様、海外で起きた出来事によって値段が大きく変わってしまうのです。
実は、穀物や原油の価格は、国際市場での「先物取引」によって決まっています。
先物取引とは、ある商品(穀物や資源など)を、将来の決められた期日に、取引の時点で決められた価格で売買するものです。
例えば将来の(XX年)1月にこの値段で売買する金額で投資家が購入するものは「原油(XX年)1月物」などと呼ばれます。
こうした先物取引の国債市場で最も大きいのが、ニューヨークのマーカンタイル取引所(NYMEX)です。
ここでの原油価格の取引状況を見てみましょう。
例えば、2023年2月に売買される原油の代表的銘柄の価格は、このように推移しています(図4)。
図4 原油(Crude Oil)2023年2月物の価格変動
(出所:NYMEXデータより描画、2022年12月24日取得)
2020年に入ってから、右肩上がりになっていることがわかります。
これは、新型コロナの流行やロシアのウクライナ侵攻といった、世界を不安定にするような出来事が起きるにつれ、先々原油が手に入りにくくなるのではないかと考える人が多くなり需要が急増したことが、原因のひとつです。
特にロシアのウクライナ侵攻では、まずロシアが一大産油国であるという事情に加え、実際にパイプラインの破損などが発生しています。原油の供給に対する投資家の不安がますます高まり、値段はどんどん上がっていくのです。
こうした先物取引は、トウモロコシなどの穀物でも行われています。
トウモロコシは畜産に必要な飼料です。食料品の価格にも影響を及ぼすことになります。
また、世界的に株価が下がった時に、投資家が株を売って原油などに資金を移すこともあります。よって株価が低いときは原油や穀物の値段が上がるという現象につながることもあります。
さて、2022年10月から11月に進んだ円安については、まだまだ多くの人の記憶に新しいでしょう。
海外の通貨に対して円が安ければ、当然、日本で買う輸入品の価格は上がることになります。
しかし、円高・円安というのは、じつは「1ドルいくらになったら円高(円安)」という決まった数字はありません。
注目するべきなのは、実質実効為替レートと呼ばれる数値です。円の実力を示すものといっていいでしょう。これはドルと円、というような2つの国の間の比較ではなく、ユーロなど多くの国や地域で使用されている通貨をもとに円の力を算出したものです。世界的な円の実力というわけです。
その実質実効為替レートは、2010年の数値を100とした場合、下のように推移しています(図5)。
図5 円の実質実効為替レート
(出所:日本銀行データより描画、2022年12月取得)
近年は右肩下がりになっていることがわかります。
実は2022年に入って、この「円の実力」は約50年ぶりの水準に低下しています*2。この傾向が変わらなければ、輸入品は安くはなりにくいでしょう。
ですから、原油価格に至っては、国際情勢への不安と円安のダブルパンチで跳ね上がっている状態です。
また食料品も、エネルギーなしには製造できません。加熱調理をするという目的のほか、包装にもプラスチックが使われますし、輸送にもガソリンなどのエネルギーが使われるからです。
これらの要素があいまって、現在の物価高につながっているのです。
大手電力会社5社は、家庭向け電気料金値上げを経済産業省に申請しています*3。2023年4月から3-4割という大幅な値上げです。
一方で申請を受けた経済産業省は、値上げの内容が妥当かどうかの審査を始めています*4。コスト削減などで値上げの幅を低くできないかなどの審査です。
とはいえ、値上げの可能性は十分に残っています。
ここまでご紹介してきたように、多くの食料品やエネルギーを輸入に頼っているという日本の状況、そこに加えて円の実力が下がっているという現状が変わらない限り、家計への大きな影響は続きそうです。
特に原油価格はほぼすべての産業にかかわることですから、今後も注目していきたいところです。
値上げについては、以下コラムを参考にしてみてください。
iPhone15の値上げとは?、ハイブランドアクセサリーの値上げとは?
本稿執筆時点における情報に基づいて作成しておりますので、最新情報との乖離にご注意ください。
最終的な投資判断、金融商品のご選択に際しては、お客様自身の判断でお取り組みをお願いいたします。
出所)
*1 「大手外食の約7割が値上げ 2度目、3度目の複数回値上げも2割以上に」東京商工リサーチ
*2 「円の実力50年ぶり低さ 実質実効値、円安進み購買力低下」日本経済新聞
*3、4 「電気代値上げ圧縮へ合理化迫る 経産省、5社の審査開始」日本経済新聞