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年収を上げたいなら、まず「引っ越し」を考えよ
年収を上げたいなら、まず「引っ越し」を考えよ

年収を上げたいなら、まず「引っ越し」を考えよ

2023/10/15・提供元:安達裕哉

お金の話、すきですか。


嫌いという方もいるでしょうが、実際には「お金」の話に無関心でいることはできません。

「お金になんて興味がない」と装っているあの人も、実際には家計のことや将来のための貯金などに心を砕いているかもしれません。


結局のところ「お金」は、生活のクオリティに直結するため、現代人の最大の関心事の一つとなっています。


では使える「お金」を増やすにはどうしたらよいでしょう。


会社の業績と同様に、手段は二つあります。

一つは、コストを下げること。

そしてもう一つは収入を増やすこと。


コストを下げることについては「家計のプロ」たちが、様々なアドバイスをしており、皆様もいろいろと参照できる情報が多いのではないかと思います。


しかし「収入を増やす」についてはどうでしょうか。


まず考えられるのは「転職」あるいは「副業」といった選択肢です。

あるいは社内で「出世」を目指すという考え方もあるでしょう。

ただし、何れの施策も「本人の能力やスキル」が重要となります。



しかし、もう少し異なった角度から「どうすれば収入を増やせるのか」についての考察があります。

それが本稿のタイトル「引っ越し」です。



その引っ越しですが、引っ越し先には指定があります。

片田舎に住んではいけないし、旧来型の製造業が主体となる都市でもダメです。

イノベーション産業が集積する都市への引っ越しでなければなりません。



これらは、カリフォルニア大学バークレー校教授のエンリコ・モレッティによる研究であり、最終的に彼は「年収は住所で決まる」との研究結果を発表しています。


いったいなぜ、給料は住むところで決まるのでしょうか、給料を上げたいなら何を気にしなければならないのでしょうか。





実は、2000年代の初頭には、これと正反対の意見がもてはやされていました。


ジャーナリストのトーマス・フリードマンはグローバル化をテーマにしたベストセラー「フラット化する世界」で、webやテレコミュニケーションの手段が普及することで、ある人が地理的にどこにいるかは大きな意味をもたなくなったと主張したのです。



しかし、エンリコ・モレッティは、現実の世界ではこれと正反対のことが起きていることをデータで示しました。


例えばアメリカにおいては

  • 上位都市=高技能の働き手が数多く居る都市
  • 下位都市=高技能の働き手が少ない都市

の比較において、

「上位都市の高卒者は、下位都市の大卒者よりも年収が高い」

という逆転現象が発生しているのです。



彼は、職務経験や教育レベル、IQ(知能指数)の違いを考慮に入れて比較をおこないましたが、それらの条件をすべて考慮しても、年収の格差は同じように存在するのです。



ここから得られる重要な知見は、働き手自体の資質はあまり大きな収入の違いを生み出さないということです。



違いを生み出すのは、その人が働いている地域の経済のあり方、とくにその地域の高技能の働き手の数なのです。


もちろん、上位都市の中心は大変に住宅コストが高いので、生活水準が劇的に上がるか、といえばそうではありません。

しかし、逆に考えれば、低技能労働者であっても、住宅コストの安い、上位都市の郊外に住めば、十分な恩恵をうけることはできるのです。


この話は、地方の若者たちが都市を目指して移動する現状とも一致します。



上述したエンリコ・モレッティは、「これらの現象の根本の原因は、機械装置ではなく、「人の能力」が主体となる産業の勃興」と位置づけています。

要するに、GAFAM等の巨大テクノロジー企業が原因だ、と言っているのです。



フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEOは「本当に飛び抜けた人材は、まずまず優秀な人材より少し優れているという程度ではない。一〇〇倍は優れている」と述べています。


彼の言葉が象徴しているように、イノベーション産業の台頭にともない、企業がどのくらいの経済的価値を生み出せるかは、これまで以上に人材の質に左右されるようになったのです。


二〇世紀の主流企業、つまり製造業は、基本的に生産設備をはじめとする、物的資本の獲得合戦でした。しかし今日、競争の帰趨は、優れた人的資本の持ち主をどれだけ引きつけられるかで決まるようになっています。


ですから、40年前は「豊かな地域」は、機械などの物的資本が集約される場所でした。

しかし現在、個人の給与金額に大きな影響をおよぼすのは、物的資本ではなく、「人的資本」=「有能な人々」なのです。




したがって、巨大テック企業は、その地域に波及効果をもたらします。

教育レベルの高い住民が多い都市は、その都市で住民が就くことのできる仕事の種類が増えて、労働者全体が稼ぎやすくなるのです。


その結果、高学歴の働き手のみならず、低学歴の給与も高くなる。つまり「トリクルダウン」が都市単位で発生しているから、都市間の比較において、低学歴>高学歴の逆転現象が発生するのです。



また、モレッティの指摘によれば、

  • 教育レベルの高い同僚と一緒に働くと、高い技能を持たない人たちの生産性も高まる
  • 教育レベルの高い働き手が居ると、企業が新しい高度なテクノロジーを導入しやすくなる

というメリットがあり、高技能労働者と低技能労働者は補完的な関係になれます。


例えば、高技能労働者を相手にするような上位都市のサービス業(マッサージやヨガ教室 など)は、下位都市のサービス業より効率的なオペレーションを求められるでしょう。

また「スマホで予約」など、新しいテクノロジーを顧客が使いこなせていれば、より生産性の高いサービスを提供できます。


その結果、低技能労働者の給与水準も高くなるのです。



また、「能力ある人」は集まることで更に能力が倍加される、という現象も見られます。

なぜなら、アイデアの本質は「組み合わせ」だからです。


エンリコ・モレッティは著書の中でその様子を次のように述べています。


”人と人が交流すると、その人たちはお互いから学び合う。その結果、教育レベルが高い仲間と交流する人ほど生産的で創造的になる。教育レベルの高い人に囲まれているだけで、経済的な恩恵を受けられるのだ。”


さらに、高技能の労働者にとって、労働市場は大きければ大きいほど、有利です。

なぜなら「マッチング率」つまり双方が相手を見つけやすく、理想に近い相手と巡り合える確率が高いからです。


たとえばあなたが特定の技能を持つ特殊な労働者で、そのテクノロジーを必要としている企業を探しているとしましょう。

当然、多くの企業が集まっている都市のほうが、特殊な専門技術を必要とし、それに金を払おうという企業が見つかる確率がほかの都市より高いでしょう。



こうして、「勝ち組」の都市は益々多くの高技能労働者をひきつけ、「負け組」の都市は上位層が次々と流出し、ますます没落していく、という図式が、現代の都市に起きているのです。


これが「引っ越し」が収入を上げるメカニズムです。

東京に頭脳とカネが集中するのは、必然なのです。


また、これらの傾向は当分、解消される見込みはありません。

日本が世界的な地位を保とうとすれば、「イノベーション産業」の育成は不可欠だからです。




したがって低技能労働者ほど、実は「高技能労働者」が集まる都市に移住するほうが良いのです。


しかし、統計によれば、学歴の低い層ほど地元に残る傾向が強いといいます。

したがって、今のままではおそらく「東京」と「その他の都市」の格差は、拡大する一方となるでしょう。


とかく「格差」は「学歴」や「能力」、ときには「意欲」などについて語られやすい傾向にあります。


しかし、真の格差はそういった個人の問題ではなく、「住む場所」に紐付いているものである蓋然性が高いのです。



安達 裕哉
あだち ゆうや

1975年生まれ。デロイト トーマツ コンサルティング(現アビームコンサルティング)に入社後、品質マネジメント、人事などの分野でコンサルティングに従事。その後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサルティング部門の立ち上げに参画。
大阪支社長、東京支社長を歴任したのちに独立。現在はマーケティング会社「ティネクト株式会社」の経営者として、コンサルティング、webメディアの運営支援、記事執筆などを行う。


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