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お金の問題は、命の問題
お金の問題は、命の問題

お金の問題は、命の問題

2023/07/06・提供元:安達裕哉

お金の問題は、命の問題です、と言われて、どう感じるでしょうか。


知っていた、という方もいるかもしれません。
あるいは「そうかもしれないけど、実際はどうなの」と疑問を持つ方もいるでしょう。


しかし、これに関しては明確に「YES」と言えるだけの根拠がそろっています。


金持ちの国は、高い平均寿命であり、貧乏な国は、平均寿命が低い

例えば、世界的なベストセラーとなった著作「FACTFULNESS(ファクトフルネス)」は、「お金」と「寿命」の相関を正面から取り上げています。

単純に言えば、「金持ちの国は、高い平均寿命であり、貧乏な国は、平均寿命が低い」のです。

事実、WHO(世界保健機関)は「健康格差」を生み出す4つの要因の一つとして所得を挙げています。


例えばひとりあたりGDPが1000ドルから2000ドルの国々は、概ね平均寿命が60歳から65歳に位置しているのに対して、同GDPが3万ドル以上の欧米の国々は、平均寿命が80歳前後となっています。*1

これは「お金の問題は、命の問題」と言う主張の根拠の一つになります。


また、同じ国の中でも経済的要因が健康状態や寿命の格差につながっているという報告もあります。


例えば、日本老年学的評価研究(Japan Gerontological Evaluation Study,JAGES)プロジェクトが、65歳以上で要介護認定を受けていない人、約2万8千人を4年間にわたって追跡調査したところ、その間に死亡した男性高齢者は、高所得の人が11.2%なのに対して、低所得の人はその3倍の34.6%だと報告しました。

男性に限った話ではありますが、低所得者の死亡率は、高所得者のおよそ3倍だというのです。*2


アメリカの研究でも、世帯所得が年間7万ドル以上の世帯に比べ、1.5万ドル以下の世帯では死亡率が3.03倍、2万ドル以上、3万ドル以下の世帯でも2倍となっており、世帯の年収が低くなると、急激に死亡率が上昇します。*3


あるいは、所得水準が健康に影響を与える事例として、「糖尿病」があります。低所得者は、糖尿病の患者の割合が多いのです。

これの根拠として、低所得者は、炭水化物の過剰な摂取が多く、健康に悪い生活習慣が多いという説があります。*2


実際、2014年の厚生労働省の国民健康・栄養調査*4では、所得の低い世帯では、所得の高い世帯と比較して、穀類の摂取量が多く野菜類や肉類の摂取量が少ない、習慣的に喫煙している者の割合が高い、健診の未受診者の割合が高い、歯の本数が20歯未満の者の割合が高いなど、世帯の所得の違いにより差がみられたと報告されているのです。


同調査では、低所得の人は、高所得の人に比べ、精神疾患で3.4倍、肥満や脳卒中でおよそ1.5倍発症のリスクが高いという研究もあります。


所得格差は、健康の格差

一方で、寿命に大きく関係する「医療」には、供給より需要のほうが大きいため、高額の費用が掛かる場合があります。


私が覚えているのは、女優のアンジェリーナ・ジョリーが2013年に、両乳房の切除手術を受けたことです。

彼女は乳がんの大きなリスクを抱えていることを、遺伝子検査で確認済みだったためですが、遺伝子検査だけでも費用は約30万円と高額なものでした。手術費用も数百万円と報道されていたと記憶しています。


これ以外にも、医療とお金にまつわる話は絶えません。


中国の北京においては、腕のいい医者の予約券はきわめて高額で転売されており、病院側もまた、特別窓口で、高額な予約券を販売しています。


また、アメリカでは多くの医師が「コンシェルジュドクター」として医療を提供しており、年間1500ドルから2万5000ドルの年会費を支払えば、24時間体制でサービスを提供してくれます。*5


日本ではこうしたあからさまな「カネで医療を買う」と言った行為は目立ちませんが、私が知人から直接聞いたのは、「地方」と「都市」のちがいです。


同じ健康保険料を払ってはいますが、都市の病院には有名医者と良い検査機器が集中しており、難病の治療を受けるのであれば、都市の病院のほうが良い、と知人の医師はいうのです。


しかし、都市は生活コストが高く、結局「高い金を払って都市に住む人が、良い医療を受けられる」という構造になってしまっていると、彼は言いました。


こうした「健康格差」ともいうべき状態の議論は、近年頻繁に提起されています。


ハーバード大教授のイチロー・カワチは、著作の中で、健康格差には「とばっちり効果」があり、一部の層だけ健康を悪化させることが、社会全体の健康レベルを下げることにつながり、中流や上流階層の健康も脅かす、と警鐘を発しています。*3


同大教授のマイケル・サンデルはこうした状況に対して、「いやな感じが付きまとう」と述べ、批判をしています。*6


AIそして遺伝子操作技術

しかし、こうした格差は収束するどころか、ますます拡大する様相を呈していると主張する人もいます。


その一人が、イスラエルの学者である、ユヴァル・ノア・ハラリです。
彼は、AIと遺伝子操作技術によって、一種のディストピアが生まれるのではないかと危惧しているのです。*7


ハラリは著書の中で「無用者階級」と呼ばれる人々を仮定しました。


無用者階級とは、AIが仕事を代替していった結果、「経済的価値や政治的価値、さらには芸術的価値さえ持たない人々、社会の繁栄と力と華々しさに何の貢献もしない人々」です。

この「無用者階級」は失業しているだけではなく、雇用不能なのだとハラリは説きます。


無用者階級が出現する一方で、社会の中枢にいる人々は、遺伝子操作技術によって「自らを生物学的にアップグレードする」ことを試みるかもしれません。


ハラリは彼らを「超人」と定義し、「前代未聞の能力と空前の創造性を享受する。彼らはその能力と創造性のおかげで、世の中の最も重要な決定の多くを下し続けることができる。」と述べています。


豊かな人と貧しい人が富だけではなく、本当の生物学的格差によっても隔てられることになったときに、世の中にいったい何が起きるのでしょう?


ハラリは、「二〇七〇年には、貧しい人々は今日よりもはるかに優れた医療を受けられるだろうが、それでも、彼らと豊かな人々との隔たりはずっと拡がることになる。」と言います。


もちろん、この話は、我々の世代ではなく、我々の子供たち、あるいは孫たちの世代の話かもしれません。


しかし、最近登場した「ホワイトカラーの仕事を奪う」とされるChatGPTをはじめとする生成AIの性能を見るにつけ、こうしたSFのような話が、あながち的外れでもないような気もするのです。


出典

*1 日経BP「FACTFULNESS(ファクトフルネス) ハンス・ロスリング」

*2 講談社現代新書「健康格差 あなたの寿命は社会が決める NHKスペシャル取材班」

*3 小学館「命の格差は止められるか イチロー・カワチ」

*4 厚生労働省「平成26年「国民健康・栄養調査」の結果」

*5 McDonough P, et al.Income dynamics and adult mortality in the United States,

*6 早川書房「それをお金で買いますか マイケル・サンデル」

*7 河出書房新社「ホモ・デウス ユヴァル・ノア・ハラリ」


安達 裕哉
あだち ゆうや

1975年生まれ。デロイト トーマツ コンサルティング(現アビームコンサルティング)に入社後、品質マネジメント、人事などの分野でコンサルティングに従事。その後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサルティング部門の立ち上げに参画。大阪支社長、東京支社長を歴任したのちに独立。現在はマーケティング会社「ティネクト株式会社」の経営者として、コンサルティング、webメディアの運営支援、記事執筆などを行う。


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