少し前に、「サラリーマンは出世できないとツラい」という話を書きました。
それは一言で言えば、会社員は出世できないと、お金も自由も手に入らないからです。
給与や待遇はもちろん地位にある程度比例しますが、裁量に至っては平社員と上級管理職では雲泥の差です。
「これをやりたい」
「こういう働き方をしたい」
「チャンスに大きく張りたい」
そういった様々な「意思決定」を、上級管理職は個人的なリスクをさほど取らないで行う権限を持っていますし、実際に手足となって働いてくれる部下を利用できるわけですから、これは、ある意味では現代の特権階級なのです。
極端に言うと、会社を「国」社長を「国王」と仮定すれば、いわば管理職は「貴族」であり、平社員は「領民」と言えるくらいの差があります。
ですから、サラリーマンをやるのであれば、どのような形であれ、ひとまず「出世」を目指すほうが、報われる可能性が高いでしょう。
しかし、出世するのは簡単ではありません。
労働政策研究・研修機構の「ユースフル労働統計2022」によれば、全業種平均の管理職率は、部長が3.6%、課長が7.1%と、管理職は狭き門です。
(出典:労働政策研究・研修機構 「ユースフル労働統計2022」役職関連指標)
課長以上になれるのは10人にひとり、部長以上に至っては30人にひとりという割合です。
スポーツ選手や芸術家、起業家ほど厳しい道ではありませんが、甘くはありません。
では、こうした厳しい競争に勝ち残るためのコツはあるのでしょうか?
ウソは付きたくないので正直に申し上げると、成果が重視される会社もあれば、社長とのつながりが重視される会社もあり、残念ながら「こうすれば出世します」という、わかりやすい方法はないのが現実です。
一方で、 「こうなってしまうと出世できない」という典型は存在します。
ちょうど、トルストイの『アンナ・カレーニナ』で述べられている「幸福な家庭はどれも似たものだが、不幸な家庭はいずれもそれぞれに不幸なものである。」という言葉になぞらえると、
「出世できないひとはどれも似たものだが、出世する人はいずれもそれぞれに理由がある。」とでも言うべきでしょうか。
では、出世できない人とは、どんなひとでしょう。
私が観察してきた限りでは、次のような人たちです。
マネジメントの始祖である、ピーター・ドラッカーは著書「経営者の条件(ダイヤモンド社)」で次のように述べました。
(引用開始)これは世間の常識である。現実は企業ドラマとは違う。部下が無能な上司を倒し、乗り越えて地位を得るということは起こらない。
上司が昇進できなければ、部下はその上司の後ろで立ち往生するだけである。
たとえ上司が無能や失敗のため更迭されても、有能な次席があとを継ぐことはない。外から来る者が後を継ぐ。その上その新しい上司は息のかかった有能な若者たちを連れてくる。
したがって、優秀な上司、昇進の早い上司を持つことほど、部下にとって助けとなるものはない。(引用終了)
日本とアメリカでは、慣習に若干のちがいがあることは事実ですが、ここで述べられていることはほぼ日本でも変わりません。
出世の順番は絶対に「上司」→「部下」であり、その逆はないのです。
実際、多くの会社には、部署ごとに「出世できる人の枠」があり、その枠に入るのは上司が先です。
私の損保会社に勤める知人も、上司から「ことしは◯◯さんを出世の対象にするよ。順番に考えるから待ってて、ゴメンなホント。」と言われ「上司がそこまで言うのなら仕方ないか」と思っていたら、上司も出世していた、という落ちがありました。
部下を先に出世させてあげる上司なんて、実際には存在しないのです。
成果を上げ、部署の成績が良いからこそ、上司が出世し、そのあとで自分が出世できる。
上司の足を引っ張っても、いい事は何一つありません。
逆に、上司を出世させることが、自分の出世の近道です。
安易に敵を作る人は、出世できません。
たとえ、周りから総スカンを食っている人物に対してであっても、基本的には公然とその人を批判したり、敵に回したりすることは、長期的に見れば、損失のほうが大きいと言わざるを得ません。
これには、2つ理由があります。
一つは日本の雇用形態がメンバーシップ型であることです。
メンバーシップ型の職場では、能力よりも「気持ちよく一緒に働けるか」が重視されます。
ですから、敵を作る人、他者に対して攻撃的な人、反抗的な人物は、幹部としては敬遠される傾向にあります。
そしてもう一つは、往々にして事業には波があるからです。
例えば、「ある時成果が全く出なかった人」が急に成果を出すようになることが、実際にあるのです。
普段から敵を作り、恨みを買っていると「あの時はよくもやってくれたな」と、主力事業に返り咲いた人たちに仕返しをされ、急に左遷されてしまう事も。
特に日本企業ではオーナー社長以外は「波風立てない」ことが最も出世に近いことは間違いありません。
上では「事業には波がある」と書きましたが、現代では一つの事業の寿命は10年あればよいほうです。
一つの事業にとどまっていると、いつの間にか世の中の波に乗り遅れていた、という事が良くあります。
これを避けるためには、自分が携わる事業の「未来」を先取りしていくことが必要です。
つまり、「新しいこと」に自ら名乗りを上げ、時に主力事業から離れて、次世代の事業の芽を作っていくことに、身を投じなければなりません。
もちろん、これにはリスクがあります。
新しいことは、上手くいくかどうかわからないからこそ、価値があるのですが、自分にとってそれがいつも有利に働くとは限りません。
しかし、既存事業の栄枯盛衰と一蓮托生になるよりは、はるかにそのほうがマシです。
起業や転職をするほどのリスクは取れない、でもある程度のリスクをとって、名乗りを上げたい、というチャレンジ精神が無ければ、組織の中で上に上がっていくことはできないのです。
最初に紹介したように、上司の出世に貢献できれば、確実に上司からは気に入られるでしょう。
しかし、それだけでは出世することはできません。
往々にして「上司からは気に入られているけど、後輩たちからは嫌われている」というパターンが存在するのです。
こうなると、昇進をするときに、必ず足を引っ張ったり、悪い噂を立てる人間が出てきます。
もちろん、ある程度部下から悪い噂を立てられるのは「できる人」であればしかたがありません。厳しく成果を上げようとすれば、部下に優しくしてばかりはいられないからです。
しかし会社の中で上に行けば行くほど、「成果」は競争相手の全員が当然のようにあげている状態になりますから、差がつきやすいのが「人望」となります。
その時に「悪い噂」が多い人と、「徳がある」と言われる人と、どちらを優先して出世させるかと言えば、当然後者です。
成果を出してもおごらず、後輩の悩みに応え、新人をサポートして成長させる。
こういう気配りが、管理職に昇進するときに有利に働くのです。
運がない、という言い方をすると、「そんなもの、気を付けたってしょうがないじゃない」と言う方もいるでしょう。
しかし「運」というものは、往々にして自分の力である程度コントロールできるのです。
そして、これを知らないと、出世を逃します。
具体的に言いましょう。
「運の良さ」は、平たく言うと、偶然を味方につけることを言います。
その本質は「試行回数が多い人は運が良い」です。
つまり、何度もトライするうちに、偶然が重なってうまくいってしまう、という事が実際にあるのです。
例えば、さいころを3つ降って、ゾロ目を出してください、と言われた時に、試行回数が多ければ、運よく3つの目がそろう可能性は上がるでしょう。
それと全く同じで、試すことが多い人は、運を引き込むことができるのです。
以上が「出世できない人」の特徴です。
実力はあるのに出世できない、と言う人は、珍しくありません。
しかし、細かく見ていくと、出世は実力の賜物ではなく、どちらかというと
「普段の行い」の方が影響が大きいのです。
知ってさえいれば、「良い行い」を積み上げて、サラリーマン人生をより充実したものにすることは、そう難しいことではないのです。
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