
円安やインバウンド需要の拡大が長く話題になってきたなかで、2026年に入ってからは「訪日外国人が減っているのではないか」という見方も広がっています。
特に中国からの訪日客の落ち込みが大きく、全体の伸びを押し下げる場面がみられました。*1
ただし、数字を丁寧に見ると、訪日需要全体が一様に弱っているわけではありません。
韓国や台湾、米国などは堅調に推移しており、月によっては過去最高を更新しています。
そのため、足元の動きは「日本人気の失速」というより、「国・地域ごとの強弱がはっきりわかれた状態」とみる方が実態に近いと考えられます。
本記事では、訪日外国人の数は本当に減っているのかを確認したうえで、中国からの観光客が大きく減った背景、2026年通年の見通し、そして「人数は減っても消費額は増える」という足元の変化を整理します。
旅行や消費のニュースを読む際に、家計や地域経済、関連企業の動きをどう見れば良いかもあわせて考えます。
訪日外国人のニュースでは、単月の前年比だけで「減った」「増えた」と受け止められがちです。
ただし、2026年の動きは月によって差があります。
単月で減少した月もあれば、過去最高を記録した月もあり、全体としては「一部市場の落ち込みを他市場が補っている状態」と整理できます。*1 *2 *3 *4 *5
日本政府観光局(JNTO)の速報ベースでは、2026年1月の訪日外客数は359万7,500人で、前年同月比4.9%減でした。
中国市場の大幅な落ち込みが全体を押し下げたことに加え、2025年は1月下旬だった旧正月(春節)が、2026年は2月中旬へずれた影響もありました。*1
もっとも、その後の推移は一直線の減少ではありません。
2月は346万6,700人で前年同月比6.4%増、3月は361万8,900人で同3.5%増となり、いずれもその月として過去最高を更新しました。
一方、4月は369万2,200人で同5.5%減、5月は355万9,900人で同3.6%減となっています。
1〜5月累計では1,793万6,000人で、前年同期比1.1%減でした。*2 *3 *4 *5
つまり、2026年の訪日需要は「毎月減少している」のではなく、中国市場の落ち込みが強く表れた月に全体が前年割れとなりやすい構図です。
単月の増減だけではなく、どの市場が押し上げ、どの市場が押し下げたのかまで見ると、実態をつかみやすくなります。*1 *5
全体が弱いわけではないことは、国・地域別の数字を見るとよりはっきりします。
2026年1月は、韓国が117万6,000人で前年同月比21.6%増となり、全市場で初めて単月110万人を超えました。
台湾と豪州は単月過去最高を更新し、米国、インドネシア、フィリピンなど17市場では「1月として過去最高」となりました。*1
その後も、2月は韓国、台湾、米国など18市場、3月は台湾、韓国、米国、英国などで過去最高水準の動きが続きました。
5月も、韓国、台湾、米国を含む19市場で5月として過去最高を記録しています。*2 *3 *5
この動きは、訪日需要の「総量」だけでなく「構成」が変わっていることを示しています。
中国からの訪日客への依存度が高い小売・宿泊などでは影響が出やすい一方、地方宿泊、体験型観光、欧米豪向けの高単価サービスなどでは、別の需要を取り込める可能性があります。
インバウンド関連のニュースを見る際は、総数だけでなく、どの国・地域から来ているかも重要です。*5 *7 *8
2026年の訪日外国人の動向を理解するうえで、大きなポイントとなるのが中国市場です。
ほかの主要市場が増えても、もともとの規模が大きい中国が落ち込むと、全体では前年割れになりやすくなります。
ここでは、訪日中国人数の減少に影響したとみられる要因を整理します。*1 *5
JNTOの月次資料では、2026年1月、2月、3月、5月にかけて、中国政府より日本への渡航を避けるよう注意喚起があったことが示されています。
実際に、中国からの訪日客は1月38万5,300人で前年同月比60.7%減、2月39万6,400人で同45.2%減、3月29万1,600人で同55.9%減、5月31万3,000人で同60.4%減となりました。*1 *2 *3 *5
中国市場は、旅行消費額の面でも存在感が大きい市場です。
そのため、中国からの訪日客の落ち込みは、訪日外客総数の押し下げにとどまらず、小売、宿泊、飲食など幅広い分野に影響しやすいと考えられます。
2026年1〜3月期の訪日外国人旅行消費額でも、中国の消費額は2,715億円と高水準ではあるものの、前年同期の5,478億円から大きく減っています。*8
中国からの訪日客の減少は、単に「旅行者数が減った」という話ではありません。
消費額の大きい市場の不振という意味で、地域経済やインバウンド関連企業の業績にも影響しやすい点を押さえておきたいところです。
もう一つの要因が、航空便の供給減です。
国土交通省の2026年夏期スケジュールによると、中国路線の便数は前年同期比53%減の597便となりました。
韓国、台湾、香港、マレーシア、インド、米国本土、欧州路線が増えた一方で、中国路線の大幅減が目立っています。*6
JNTOの月次資料でも、中国市場の減少要因として、渡航注意喚起に加えて航空便の減便が挙げられています。
さらに、1月は春節が2月へずれたこと、5月は前年にあった端午節需要が2026年は6月中旬に後ろ倒しになったことも、単月の落ち込みを大きく見せた要因です。*1 *5
この点は、今後の回復度合いを見るうえでも重要です。
旅行意欲が戻っても便数が十分でなければ、訪日外客数の回復は鈍くなる可能性があります。
訪日外客数を見るときは、旅行需要だけでなく、航空便という「受け皿」がどうなっているかも確認したい点です。*6
足元の月次データは強弱が入り混じっています。
気になるのは、2026年通年でどのような着地が見込まれているかです。
現時点で公表されている民間予測では、2026年は前年割れが見込まれています。
ただし、これは日本人気が急に失われるというより、中国・香港市場の落ち込みと、これまでの急回復局面が一巡する影響が大きいと整理されています。*7
大手旅行会社JTBの予測では、2026年の訪日外国人旅行者数は4,140万人、前年比97.2%とされています。
2025年まで続いた急増がいったん一服し、4年ぶりの前年割れになる見通しです。
押し下げ要因として挙げられているのは、中国・香港からの需要減です。*7
ただし、4,140万人という規模自体はなお高水準です。
多くの国・地域では訪日需要が増えると見込まれており、全体が急減するというより、一部市場の減少で前年をわずかに下回るイメージに近いでしょう。
数字の受け止め方としては、「成長の失速」よりも「構成変化をともなう調整局面」と捉えるほうが実態に合っています。*7
同じ予測では、2024年から2025年にかけて訪日需要を強く押し上げた円安や日本国内の相対的な物価安の効果は、2025年まででおおむね一巡すると分析されています。
2026年は、各国・地域の経済成長に伴う海外旅行需要の自然増が、旅行者数の増加を支える主因になる見通しです。*7
これは家計や投資環境を考えるうえでも示唆があります。
これまでは「円安だからインバウンドが増える」と比較的単純に見られた面がありましたが、今後はその見方だけでは不十分かもしれません。
為替に加えて、相手国の景気、航空路線、地政学的な関係、日本側の受け入れ体制まで含めて見る必要があります。
インバウンド関連のニュースや銘柄を見る際にも、為替ひとつで判断しにくい局面に入っていると考えられます。*6 *7
訪日需要の変化を見るうえで、人数と同じくらい重要なのが消費額です。
旅行者数が前年割れでも、消費単価が上がれば総消費額は維持・増加し得ます。
2026年の足元データは、まさにその傾向を示しています。*7 *8
観光庁によると、2026年1〜3月期の訪日外国人旅行消費額は2兆3,378億円で、前年同期比2.5%増でした。
費目別では宿泊費が36.7%で最も大きく、前年同期比では12.1%増となっています。
買物代の構成比は25.2%、飲食費は22.9%でした。*8
つまり、人数の伸びが鈍っても、より多く泊まり、宿泊や体験、飲食にお金を使う流れが強まれば、総消費額は増える場合があるということです。
家計の側からみれば、観光地の宿泊費や飲食価格が高止まりしやすい背景の一つとして、こうした需要構造の変化も意識しておくと理解しやすくなります。*8
付加価値化の流れも見逃せません。
JNTOは、訪日旅行者数の増加だけでなく、訪日旅行消費額の拡大をめざす重点的な取り組みの一つとして、高付加価値旅行の推進を掲げています。
宿泊、食、体験への支出が増えている足元の変化は、こうした方向性とも重なります。*8 *9
また、大手旅行会社の見通しでも、2026年は滞在期間の長い欧米豪客の増加や旅行コストの上昇により、旅行者数が前年を下回っても、訪日消費額は前年比100.6%の9.64兆円とわずかに増えると予測されています。*7
この変化は、観光地や企業にとっても「量」から「単価」へと重心が移っていることを意味します。
個人がニュースを見る際にも、訪日外国人の増減だけでなく、宿泊費や飲食費の伸び、どの国の旅行者が増えているか、旅行者一人あたりの消費額が伸びているかを合わせて見ると、実態を読み違えにくくなります。*7 *8 *9
2026年の訪日需要は、中国市場の大幅減少によって単月では前年割れとなる場面がある一方、韓国、台湾、米国などは堅調で、過去最高を更新する月もあります。
つまり、「訪日外国人が減った」というより、「市場ごとの強弱が分かれている」と見るほうが実態に近いでしょう。*1 *2 *3 *4 *5
そして、より重要なのは、人数が減っても消費額が自動的に減るわけではない点です。
2026年1〜3月期の訪日外国人旅行消費額は増加しており、宿泊費の伸びや高付加価値旅行の推進がその背景にあります。*8 *9
一般消費者にとっても、観光地の混雑や宿泊料金、地方経済の活性化、インバウンド関連企業の業績の見方に関わるテーマです。
今後のニュースを追う際は、総数だけでなく、相手国の景気、航空便の供給、旅行者一人当たりの消費内容まであわせて確認することが、変化を読み解く助けになるでしょう。*6 *7 *8
本コラム執筆時点における情報に基づいて作成しておりますので、最新情報との乖離にご注意ください。
出典
*1 日本政府観光局(JNTO)「訪日外客数(2026年1月推計値)」
*2 日本政府観光局(JNTO)「訪日外客数(2026年2月推計値)」
*3 日本政府観光局(JNTO)「訪日外客数(2026年3月推計値)」
*4 日本政府観光局(JNTO)「訪日外客数(2026年4月推計値)」
*5 日本政府観光局(JNTO)「訪日外客数(2026年5月推計値)」
*6 国土交通省「2026年夏期スケジュール 国際線定期便の概要」
*7 JTB「2026年(1月~12月)の訪日旅行市場トレンド予測」
*8 観光庁「2026年1-3月期の調査結果(1次速報)の概要」
*9 日本政府観光局(JNTO)「高付加価値旅行の推進」
