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中国の不動産バブルはなぜ崩壊? 経緯と先行きについてわかりやすく解説
中国の不動産バブルはなぜ崩壊? 経緯と先行きについてわかりやすく解説

中国の不動産バブルはなぜ崩壊? 経緯と先行きについてわかりやすく解説

2025/01/26に公開
提供元:清水沙矢香

中国では不動産バブルが崩壊し、経済の先行きが不安視されています。

中国の景気減速は以前から懸念されていましたが、特に不動産バブルの崩壊で高層ビルが未完成のまま放置されている姿などの報道を見て「ここまで景気が悪いのか」と思った人は多いことでしょう。

実際、大手不動産企業が相次いで資金繰りの限界を迎え、デフォルト(債務不履行)に陥るという事態が起きています。

中国の不動産バブル崩壊には経済構造も指摘されるなど、様々な見解があるようです。

日本にとって大きな貿易相手である中国の動向は見逃せません。また、日本の株価への影響も指摘されています。

そこで、なぜこのような事態になったのか、今後どうなるのかについて解説していきます。


中国不動産バブルの経緯

まず、今回の不動産バブルがどのように発生し、崩壊したのか、経緯を説明します。


もともと個人で住宅を買う仕組みはなかった


社会主義の中国では、もともと住宅は個人が買うものではなく、国有企業などが国民に「支給」するものでした。*1
しかし1990年代後半から個人で住宅を売り買いできるようになります。かつ固定資産税も相続税もないために富裕層が家賃収入などの投機目的で住宅をどんどん購入し、住宅の急激な値上がりが始まりました。

中国では貯蓄や財産を増やす方法が限られていたというのも、個人の不動産投資を活発化させた理由のひとつです。*2


価格統制も効果なし

しかし、あまりの価格高騰に今度は住宅を買えない人たちの不満が募っていきます。

そこで政府は2010年から2011年の間に数回にわたり、住宅ローンの貸し出し条件を厳しくしていくという方法で住宅価格高騰の抑制をはかろうとしました。


0

2010年以降の住宅ローン貸し出し条件に関する通知

出典)国士舘大学学術情報リポジトリ「何が中国の住宅ブームを支えているのか」


2011年には、3軒目以降の住宅購入に対するローンそのものを禁止しています。それでも住宅価格の高騰は止まりませんでした
習近平国家主席は2016年に「住宅は投機ではなく住むためのもの」と宣言、住宅価格に上限まで設けましたが、それでも値上がりは続き、2018年から2019年ごろに住宅価格はピークに達します。*3


過熱する市場に冷や水を浴びせた出来事とは

しかし2020年から、住宅市場に大打撃を与える出来事が続きました

まずコロナの拡大です。取引が激減し、住宅の着工も、それまで右肩上がりだった販売も一気に落ち込んでしまいます。


1

中国の住宅着工・販売件数の推移

出典)経済産業省「通商白書2024」


さらに同じ2020年の夏には、不動産開発企業への融資規制が導入され、不動産大手の資金繰りは厳しくなってしまい、各地でマンションの建設が中断されるという事態に発展しました。*4
同時にアメリカとの貿易摩擦の悪化なども加わって中国経済の変調が顕在化しました。


2

中国の新築住宅販売価格の推移

出典)経済産業省「通商白書」


上のグラフの通り、2021年ごろには多くの都市で不動産価格の下落傾向が明らかになっています。


「値下げ禁止」が逆に業界にトドメ

それだけではありません。さらに市場を混乱させる出来事が生じます
不調が見えてきた経済の中で住宅価格相場の下落を阻止しようという動きが始まったのです。
最初は2021年8月、湖南省岳陽市が「新築住宅のネット取引での成約価格を制限する通知」を出します。事実上の「値下げ禁止」です。不動産市場の先行きを懸念する多くの都市が追随しました。

しかし、これが仇となってしまいます。
というのも、政府が値下げ禁止令を出すということは、住宅価格はこれから値下がりしますよ、と公言しているようなものなのです。
そこで多くの中古住宅オーナーは売り急ぎに走ります。すると住宅を買いたい人は新築よりも安い中古住宅を選ぶようになります

こうして住宅価格はさらに下落していきました。


不動産大手が相次いで経営危機に

この混乱の結果、不動産会社は限界を迎えていきます。住宅価格が下がって収益が減れば、株価も下落していきます

まず話題にのぼったのは、業界大手の中国恒大集団(エバーグランデ)です。

大手格付け会社のS&Pグローバルは2021年12月、中国恒大集団を正式に「デフォルト(債務不履行)」と判定しました。*5

2021年後半から株価は崖から落ちるように下落し、ピーク時には25.80香港ドルだったものが現在は0.16香港ドルになっています(2024年12月10月時点)。*6

さらに2024年1月には香港の裁判所が、中国恒大集団に対して清算(企業の試算を差し押さえて売却する手続き)の命令を下しました。
負債は約48兆円にのぼっています。*7

次いで不動産大手の碧桂園控股(カントリー・ガーデン・ホールディングス)も大きな負債を抱え、2024年2月には債権者が香港の裁判所に清算を求める裁判手続きを始めています。*8
2024年4月には、予定通りに決算発表ができなかったことなどを理由に株式の売買が停止されました。*9


不動産バブル崩壊で中国経済は今後どうなる?

さて、不動産不況に連動するように、中国では消費者物価、生産者物価も下がっています

3

中国の消費者物価・生産者物価の推移

出典)経済産業省「通商白書2024」


また、証券行政トップの更迭とみられる人事も発表されて投資家の心理を冷やし、中国の投資マネーは国外に流出しているともいいます。*10

先行きはどうなるのでしょうか。
まず中国を代表する株価指数である上海総合指数の動きを見てみましょう。


4

上海総合指数の推移

出典)三菱UFJモルガン・スタンレー証券、2024年12月10日取得


2024年に入って持ち直しのような動きもみられます。これには政府による景気刺激策が一時的には関係していると考えられます。

一方で、長期的な見通しについてはいくつかの意見があります


「リーマンショックより厳しい」

政府は地方政府の債券発行枠を増やしたり、鉄鋼、電気自動車、車載用バッテリーなどの分野に補助金を出し、低価格のモノを生産し輸出競争力を高める方針を取りました。*11
しかし中国企業の収益状況は悪化しているようで、世界最大手の国有企業の中国宝武鋼鉄集団のトップは、「リーマンショック時よりも状況は厳しい」との認識を示しています。

また、慶應義塾大学の小幡績教授は、中国経済の成長がこの10年は完全に内需主導であること、それも個人消費のほとんどは不動産投資収益、含み益により、ぜいたくをしてきた消費者による部分が大きいことなど指摘します。そのツケは、かつての日本のバブル崩壊よりも大きいとしています。*12


楽観視に対する揶揄も

一方、2024年の2月、中国共産党の機関紙「人民日報」は政府の政策を「人民の幸福感は大きく改善した」と賞賛する記事を掲載しました。
しかしSNS上ではこの記事とともに下落が続く上海株のチャートや株価ボードなどのスクリーンショットを載せ、記事の内容をやゆする投稿が相次いだといいます。*9


日本の経済や株価に影響する国の動きに注視

中国は日本にとって米国に次ぐ貿易相手国であり、その景気は日本経済にも大きな影響を与える存在です。中国株に見切りをつけた投資家のマネーが日本の株式市場に狙いを定めているとの見方もあります。

いま、中国では様々な景気刺激策が打ち上げられていますが、内閣府は2024年前半の中国の景気動向を「政策効果により供給の増加がみられるものの、景気は足踏み状態」としていて、不動産市場は停滞が続くと指摘しています。*13

実際、中国政府が2024年5月に打ち出した低金利融資枠住宅在庫の住宅買い取り策も、枠全体の4%しか利用されていないという現状があります。*14

様々な要素が絡み合うなか、中国経済がどのように推移していくのか、短期的な材料だけでの判断は難しいですが、日本の経済や長期的な株価への影響を見極めるためにも、中国で発表される指標に注目すると良いでしょう 。



本コラム執筆時点における情報に基づいて作成しておりますので、最新情報との乖離にご注意ください。
最終的な投資判断、金融商品のご選択に際しては、お客さまご自身の判断でお取り組みをお願いいたします。

出典
*1 日本経済新聞「中国不動産バブルの深層 地方政府があおった投機熱」
*2 ロイター通信「コラム:中国住宅改革で先頭走る深セン、垣間見える理想と現実」
*3 NEC business leaders square wisdom 「次世代中国 一歩先の大市場を読む 中国不動産バブル、いよいよ最終局面ついに「値下げ禁止」を諦めた中国政府」
*4 産経新聞「中国で広がるマンション工事中断 購入者はローン返済拒否、不良債権拡大も」
*5 ロイター通信「S&P、中国恒大をデフォルト判定 ドル建て債の利払い不履行」
*6 ブルームバーグ 3333:HKチャート
*7 BBCニュース「中国不動産大手の恒大に清算命令 香港の裁判所」
*8 ブルームバーグ「碧桂園の清算巡る審理、来年1月20日に延期-再編協議に半年の猶予」
*9 ロイター通信「中国碧桂園、23年の決算発表を延期 4月2日から株式売買停止」
*10 NHK NEWS WEB「「1人負け」の中国株 逃避マネーは日本に【中国発経済コラム】」
*11 ダイヤモンド・オンライン「「リーマンより厳しい」中国不動産バブル崩壊の惨状、習近平政権の「ズレてる」政策で不況悪化か」
*12 東洋経済オンライン「中国不動産バブル崩壊が深刻化する「5つの理由」」
*13 内閣府「世界経済の潮流 2024年 I」
*14 日本経済新聞「中国、住宅在庫の削減策不発 資金枠利用4%止まり」


清水 沙矢香
しみず さやか

2002年京都大学理学部卒業後、TBSに主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として各種市場・産業など幅広く取材、その後フリー。取材経験や各種統計の分析を元にWebメディアや経済誌などに寄稿中。

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