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FRB議長のパウエル氏、なぜ解任?交代の時期はいつ?
FRB議長のパウエル氏、なぜ解任?交代の時期はいつ?

FRB議長のパウエル氏、なぜ解任?交代の時期はいつ?

2026/05/13に公開
提供元:清水沙矢香

米FRBのジェローム・パウエル議長をトランプ大統領が幾度も批判していたことから、議長が解任されるのではないかという噂が持ち上がりました。
実際に米メディアがパウエル議長の早期解任について報じた時には為替相場が大荒れし、世界がFRB議長について今後どうなるのかを固唾を飲んで見守っています。

なぜトランプ大統領がパウエル議長への批判を繰り返していたのか、実際にパウエル議長は解任されるのかどうかについて解説していきたいと思います。


大統領とFRB議長の関係

まず最初に、FRBの議長というのはどういう存在かを解説します。

FRB(連邦準備制度理事会)はアメリカの中央銀行であり、日本で言えば日銀のような存在にあたります。議長はそのトップにあたりアメリカの金融政策の舵取り役です。物価の安定と雇用の最大化という2つの課題解決を目指し、同時に金融システムの安定や金融機関の規制・監督、安全な決済システムの構築という役割も担います。*1

アメリカ経済そして基軸通貨ドルの番人ということで、その発言や挙動は常に世界の注目の的となっています。

議長は大統領が指名し、議会上院の承認を経て正式に決定します。日銀もそうですが各国の中央銀行と同じように、政治からの独立性が重視されています。
なお、議長の任期は4年です。


解任騒動はなぜ起きた?

では今回の解任騒動を振り返っていきましょう。


FRB本部の改修と金利政策での対立

いま、FRBではワシントンにある本部の改修工事が進められています。*2
この改修は2017年にFRB理事会で承認され、2021年に着工しました。しかし2019年に想定されていた費用は19億ドルだったものが、工事が開始されると想定以上のアスベスト使用などがあり、追加の費用が必要になったため予算が25億ドルに膨れ上がってしまいました。

これに対してトランプ氏はパウエル氏を批判しています。

さらに、記者からそれは解任に値する行為かと問われると「ある意味そうだ」と答えています。

また、トランプ氏は金利の引き下げを要求してきましたが、FRBは慎重な姿勢を取り金利を据え置く決定をしているため、トランプ氏の怒りを買っているという経緯があります。金利政策に対して両者の考えがすれ違っているというわけです。
このような背景がある中、トランプ氏はパウエル氏に対し厳しい言葉で批判を繰り返してきました。*3

実はトランプ氏のパウエル氏批判は今に始まったことではありません。
第一次トランプ政権の時にも、議長解任を検討したと報じられています。


早期解任報道で為替市場がパニックに

そして2025年7月16日、米CBSテレビがトランプ氏が共和党議員との会合でパウエル氏解任に言及したと報じ、さらに米ブルームバーグ通信などはホワイトハウス関係者の話として「早期に解任する見通しだ」とまで踏み込んだ報道を展開しました。

この報道を受けて、為替相場は乱高下状態となります。*4
ドルを売って円を買う動きが加速し、一時は2円近い円高・ドル安が進みました。

ドルが売られた理由はこうです。
正当な理由なくFRB議長が解任されれば中央銀行の独立性が損なわれて適切な金融政策の運営が難しくなり、インフレ制御に支障を来すのではないか。そしてドルに対する信用も傷つく、との見方も多くありました。

結局この日はトランプ大統領が即座にテレビカメラの前で、パウエル氏の解任について「非常に可能性は低い」と語ったことでドル相場は反転し、なんとかその場は収まりました。


大統領に議長を解任する権限はある?

今回の騒動やパウエル氏への度重なる批判はトランプ氏のFRBに対する過度な干渉ではないかと感じられる部分もあります。
そして実際に、トランプ氏の一声でパウエル氏を解任できるかというと、実はそう簡単な話ではありません。

FRBの議長は大統領の指名と議会上院によって選任されています。しかしアメリカの多くの憲法学者は政府による議長の解任は困難である、と見ています。*5
FRB議長はFRBという組織のトップであると同時に、政策の意思決定をするFOMC(=連邦公開市場委員会)の議長でもあります。

そしてFOMCの議長は、FOMCの参加者の投票によって選出されます。議長を選ぶ組織が違うのです。
よってFRBという組織のトップでなくなったとしても、FOMCの参加者がパウエル氏を支持すれば、金融政策のトップの意思決定者であり続けるため、政策決定の権利を握っていることに変わりはないのです。

なお、連邦準備法はFRB議長の解任に関して具体的に言及していないほか、過去に同様の事例が裁判で争われたこともなく、現状ではFRBの議長解任について明確な法解釈は示されていません。

しかし、もしトランプ大統領がパウエル氏をFRB議長のみならず、理事からも解任を目指した場合はどうでしょうか。パウエル氏が理事の職からも外れてしまえば、FOMC参加者から選出されるFOMC議長に留まり続けることはできなくなってしまいます。
ただ、大統領がFRB理事を解任するには「正当な理由」が必要で、政策金利の妥当性は「正当な理由」には含まれません。
そこでトランプ氏は、パウエル氏がFRB本部の改修に必要以上のお金を使っていると強調し、解任の理由にしたかった、という可能性があります。


今後のFRB運営はどうなる?

では今後について見ていきましょう。

実はパウエル氏は2026年5月15日に、4年間の任期が終了します。*6
トランプ氏はすでに後任として、元FRB理事であるケビン・ウォーシュ氏を正式に指名しています。

しかし議会上院の承認を得られるかはまだ不透明です。
というのは、FRB本部の改修工事や、これに関するパウエル議長の2025年6月の議会証言について、司法省が刑事捜査を進めていることが明らかになったからです。
そのため捜査が決着するまで、FRBの新たな指名人事は行わない方が良い、と考える議員もいます。

確かにFRBの混乱は世界経済にまで影響しますから、落ち着いた環境の中で人事を行うべきとの考え方は納得できるものでしょう。
また、この捜査そのものが政府によるFRBへの過度な干渉と捉えることもできます。
捜査の行方は今後のFRB運営を誰がどう担っていくのか、そして中央銀行の独立性をアメリカが守っていけるかの試金石にもなることでしょう。



本コラム執筆時点における情報に基づいて作成しておりますので、最新情報との乖離にご注意ください。


出典
*1 日本経済新聞 「FRB議長とは 米金融政策かじ取り、物価の安定・雇用の最大化目指す」
*2 CNN 「トランプ氏、FRBの巨額改修費用めぐり、パウエル議長の解任理由に当たると示唆」
*3 BBCニュースジャパン 「トランプ氏とFRB議長が言い争い、本部改修費めぐり 「予算超過だ」「承知していない」」
*4 日本経済新聞 「FRB議長「解任騒動」で円が乱高下 揺れるドルの信認、続く疑心暗鬼」
*5 第一生命経済研究所 「パウエルFRB議長の解任を巡るQ&A」
*6 ブルームバーグ 「トランプ米大統領、次期FRB議長にウォーシュ氏を正式指名-政権発表」


清水 沙矢香

2002年京都大学理学部卒業後TBSに入社、主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として国内外の各種市場、産業など幅広く担当し、アジア、欧米でも取材活動にあたる。その後人材開発などにも携わりフリー。取材経験や各種統計の分析を元に各種メディア、経済誌・専門紙に寄稿。
趣味はサックス演奏と野球観戦。

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