2024年10月1日から、一部の処方薬について「選定療養」と呼ばれる制度が導入されることになりました。
この制度は、簡単にいうと「患者さんが先発医薬品を希望した場合、先発医薬品と後発医薬品(ジェネリック医薬品)の差額の4分の1を患者さん自身が負担する」という内容のものです。
この制度が導入されたのは、後発医薬品の使用を促進して医療保険財政を改善し、現在そして将来の国民皆保険制度を維持していくためであり、けっして医療機関や薬局を儲けさせるためではありません。*1
後発医薬品の使用が促進されて薬剤費が抑制された場合の経済効果は決して小さいものではなく、内閣府の調査によると、後発医薬品に置き換えなかった場合の先発医薬品の薬剤費と後発医薬品の薬剤費との差額は毎年1兆円を超えることが明らかになっています。*2
出典)内閣府「改革工程表2022(社会保障分野)の進捗状況について -分割版5」を基に筆者作成
とはいえ、家計を守るために支出は増やしたくないものです。
そこでこの記事では、選定療養によって患者さんの負担額が増えるケースと増えないケース、上乗せされる負担額の計算方法、薬にかかる費用を抑えるためにできることなどを解説します。
厚生労働省のホームページでは、今回導入される「後発医薬品がある先発医薬品の選定療養」について、「令和6年10月から後発医薬品(ジェネリック医薬品)があるお薬で、先発医薬品の処方を希望される場合は、特別の料金をお支払いいただきます。」としています。*3
もっとも、すべての先発医薬品で「特別の料金」が必要になるわけではありません。また、医師・薬剤師の判断や薬局側の都合で、先発医薬品を使っても支払額が変わらない場合もあります。
ここでは、どのような場合に「特別の料金」が必要になるかをより具体的に解説します。
特別の料金が必要になる先発医薬品は、以下の条件を満たすものです。
この条件に該当する先発医薬品は、2024年9月24日現在で1,096品目あります。*4 *5
なお、具体的な対象品目については、厚生労働省が発表したリストで確認できます。
選定療養の対象となるのは、医療保険に加入している方全員です。国や自治体の公費負担医療制度で一部負担金が助成されている場合(例:子ども医療費助成など)でも、例外なく対象となります。*6
一方、医療保険の適用がない方(生活保護法により生活保護を受けている方など)は、今回の選定療養の対象とはなりません。
生活保護を受けている方については、生活保護法第34条第3項で、医療上の必要がない場合は後発医薬品を処方または調剤することとされているため、「特別の料金」を徴収するケースは生じないとされています。*7
今回導入された選定療養の制度で患者さんの負担額が増えるのは、「医療上の必要性がない」にもかかわらず先発医薬品を希望する場合です。
「医療上の必要性がない」と判断されるのは、使用感(外用薬の塗り心地など)や味など個人の嗜好で先発医薬品を希望する場合などです。*8
一方、以下のような場合は先発医薬品を使用しても負担額は増えません。*9
など
「医療上の必要性がある場合」としては、以下の場合が考えられます。*11
「後発医薬品の提供が困難な場合」とは、医薬品メーカーの都合で後発医薬品の供給が滞り、医療機関や薬局に在庫がない場合などが該当します。
「バイオ医薬品」については、後発医薬品に該当する「バイオシミラー(バイオ後続品)」というものがありますが、バイオ医薬品を選択しても負担額は増加しません。*12
これは、バイオ医薬品とバイオシミラーは同等・同質であるものの、まったく同じものを作るのは困難であるためです。*13
先発医薬品を使用した場合に負担額が増すケース・変わらないケース
今回の選定療養制度の導入により追加で負担することになる「特別の料金」は、先発医薬品と後発医薬品(価格の最も高いもの)の価格差の4分の1相当です。「特別の料金」は課税対象であるため、消費税も支払わなくてはなりません。
一方、医療保険の対象となるのはもともとの薬価(国が定めた薬の価格)から「特別の料金」を引いた価格になります。
したがって、患者さんが負担する薬剤費は、
(A)「特別の料金」×1.1(消費税)
(B)「もともとの薬価から特別の料金を引いた価格」×保険負担割合
を合わせた額になります。*14
出典)厚生労働省「後発医薬品のある先発医薬品(長期収載品)の選定療養について」
例えば、先発医薬品の薬価が500円、後発医薬品の薬価が250円、保険負担割合3割の場合、薬剤費は以下のようになります。
■令和6年9月以前に先発医薬品を希望した場合
500円×0.3=150円
■令和6年10月以降に先発医薬品を希望した場合(医療上の必要性がない場合など)
● 特別の料金
(500円-250円)×1/4=62.5円
消費税込みの料金
62.5円×1.1=68.75円……(A)
● 医療保険の対象となる範囲
500円-62.5円(特別の料金)=437.5円
3割負担の被保険者が負担する料金
437.5円×0.3=131.25円……(B)
● 被保険者が負担する薬剤費
68.75円(A)+131.25円(B)=200円
■後発医薬品を希望した場合
250円×0.3=75円
ちなみに、今回の制度改定で変更になるのは薬剤の負担に関する部分のみなので、それ以外の費用-診察にかかる費用や調剤にかかる費用-などの負担は今まで通りです。
なお、先発医薬品を希望した患者さんが支払うことになる「特別の料金」については、今まで保険者が負担していた薬剤費を患者さん自身が負担するようになっただけなので、医療機関や薬局の収支は今までと変わりません。消費税についても国に納付する“税”なので、医療機関や薬局の売り上げ増加にはつながりません。
医療機関や薬局へ支払う医療費を増やさないためには、以下の点を心がけるとよいでしょう。
など*15
医療機関で支払う金額を抑えることは、家計を守るだけではなく、日本の医療保険制度を維持するという社会貢献にもつながります。
この機会に、医療機関で処方されている薬剤をジェネリック医薬品に変えることを考えてみてはどうでしょうか。
本コラム執筆時点における情報に基づいて作成しておりますので、最新情報との乖離にご注意ください。
出典
*1 厚生労働省「「長期収載品の選定療養」導入Q&A」
*2 内閣府「改革工程表2022(社会保障分野)の進捗状況について -分割版5」
*3 厚生労働省「後発医薬品のある先発医薬品(長期収載品)の選定療養について」
*4 厚生労働省「長期収載品の処方等又は調剤に係る選定療養の対象医薬品について」
*5 厚生労働省「(対象医薬品リスト)※令和6年9月24日更新」
*6 厚生労働省「長期収載品の処方等又は調剤の取扱いに関する疑義解釈資料の送付について(その1) 」
*7 厚生労働省「長期収載品の処方等又は調剤の取扱いに関する疑義解釈資料の送付について(その2) 」
*8 厚生労働省「後発医薬品のある先発医薬品(長期収載品)の選定療養について【窓口での案内チラシ】(裏面)」
*9 奈良県立医科大学付属病院「長期収載品の選定療養費について」
*10 協和キリン「バイオ医薬品とは」
*11 厚生労働省「長期収載品の処方等又は調剤の取扱いに関する疑義解釈資料の送付について(その1) 」
*12 千寿製薬株式会社「バイオシミラーとはなんですか?」
*13 千寿製薬株式会社「バイオシミラーは本当に先行バイオ医薬品と効果や安全性が同等と言えるのですか?」
*14 全国健康保険協会「長期収載品の選定療養について」
*15 座間市「適正受診で医療費節約」