アメリカでは2024年に入り、大統領選挙にむけた戦いが本格的に繰り広げられています。
アメリカの大統領選挙は日本とは仕組みが異なり、選挙は1年がかりで行われます。
4年に1度の選挙戦で、今年もまた民主党のバイデン氏と共和党のトランプ氏の争いが大きくフォーカスされています。
では、そもそもアメリカ大統領選はどのような仕組みになっているのでしょうか。
そして選挙の結果は、日本経済にどのような影響を与えるのでしょうか。
今回の大統領選では「バイデンかトランプか」という報道一色になっていますが、厳密な意味で言えばまだ2人が候補だと決まったわけではありません。
民主党、共和党で正式に候補者が決まるのはそれぞれ、共和党は7月に、民主党は8月に開かれる党大会でのことだからです*1。
ただ今回はすでに民主党はバイデン氏を、共和党はトランプ氏を候補者として指名することがほぼ固まっているようです*2。
なお、各党が大統領選候補者を選ぶ過程には「予備選(有権者が投票所で個別に投票する選挙)」もしくは「党員集会」があります。
どちらの方式を採用するかは州や地域に任されています。また、予備選と党員集会が多くの州で集中する日は「スーパーチューズデー」と呼ばれ、2024年は3月5日が該当しました*3。
アメリカ大統領選挙の仕組みが日本と大きく違う点はもうひとつあります。「選挙人」と呼ばれる制度があることです。
アメリカ大統領選は全国民がそれぞれの候補に投票する「直接選挙」ではなく「間接選挙」の形を取っています。
そのなかで鍵になるのが「選挙人」と呼ばれる人たちです。
選挙人とはいわば州を代表して大統領候補者に票を投じる役割を担う人です。州の人口に応じ計538人が全米50州と首都ワシントンに割り振られています。
選挙人の数が最も多いのがカリフォルニア州の54人で、ついでテキサス州の40人、フロリダ州の30人と続いています。少ない場所ではアラスカ、デラウェアなど6州および首都ワシントンで3人となっています。
そして有権者は州ごとに「選挙人」を選ぶための投票をする、というわけです。
最終的に大統領候補は選挙人から得る票の数を争うわけですが、ルールは少し変わっています。一部例外を除き、48州と首都ワシントンでは「勝者総取り」方式が採用されています。
その州で相手より1票でも多く選挙人の票を獲得できれば、すべての選挙人を獲得できることになっています。例えば選挙人が40人の州で、19人と21人という僅差であっても、21人の票を得た候補が選挙人40人分の票を獲得できるという形です。
よって、選挙人の多い州を攻略することが重要ということになります。
また中には、勝利政党が変動しやすい「スイング(揺れる)ステート」と呼ばれる州もあります。
JETROによれば、アメリカの主要メディアは今年のスイングステートとして、アリゾナ州、ジョージア州、ミシガン州、ネバダ州、ノースカロライナ州、ペンシルベニア州、ウィスコンシン州を挙げています。
2024年大統領選のスイングステート
(出所:「米国大統領選の仕組み ~スイングステートとは」JETRO)
日本でも地域によって支持政党の傾向があるように、アメリカにも「伝統的な基盤」があります。
青は民主党、赤は共和党が強い地域として記されていますが、紫の網掛けになっているのが「スイングステート」にあたります。
スイングステートでどれだけ票を獲得できたかが当落を左右するため、これらの州の情勢は2024年も注目されるところです。
今後のおもなスケジュールについて紹介します*1。
冒頭にもご紹介した各党の党大会が7月と8月に行われます。
大統領候補としてトランプ氏を指名するとみられる共和党の党大会は7月15日~18日、バイデン氏を指名するとみられる民主党は8月19日~22日に開催されます。
ここでそれぞれの党の候補者が正式に決まります。
そして最終的な投票は11月5日となっています。選挙人が票を投じる日です。
今回の選挙で選ばれた当選者は、2025年1月20日に就任式を迎え、第47代米国大統領となります。
アメリカの大統領選の結果は、日本経済にどんな影響をもたらすのでしょうか。
アメリカは日本にとって、外交的にも経済的にも深い関係にあります。よって、それぞれの候補がどのような政策をとるかにより日本経済への影響は異なります。
民主党のバイデン氏の再選であれば、政策の方向性は現状維持が続く可能性が高まるでしょう。
なお、世論調査では、「各党の支持者層がどのような政策を求めているか」について下のような結果もあります。
民主党支持者では中絶問題、気候変動対策、人権問題、といったトピックスが上位に挙げられているのに対し、共和党支持者では第一に「経済対策」が挙げられています。
共和党支持者は、トランプ氏の経済政策に強く期待していると見ることもできるでしょう。
各党支持層が望む経済政策
(出所:「再選をめざすバイデン政権の政策とその評価」三菱UFJリサーチ&コンサルティング)
日本経済への影響を考える上で、まずはバイデン氏・トランプ氏それぞれの主張する経済政策を見てみましょう*4。
現大統領・バイデン氏の経済産業領域での主張の柱のひとつは、半導体メーカーに積極投資し国内での開発・生産体制を整えることです。
また、低所得者層や中間層の底上げのための財源確保として、法人税の最低税率引き上げや富裕層の所得税の引き上げを掲げています。
一方のトランプ氏は、新たな減税策を実行に移すとしています。また、バイデン政権がEV=電気自動車の推進のために公表した自動車の排気ガスに関する規制を撤廃する方針を示しています。
日本の株価への影響を考えてみましょう。
日本の株価は、アメリカの各種マーケットの影響を受ける傾向があります。
そのため、大統領選挙の結果を受けて変動する可能性があるマーケットの動きについて、注視する必要があります。
選挙前であっても「どちらが優勢」という報道に応じ、関連するマーケットの数字が動きます。
特に「スイングステート」の情勢についての報道に、市場は敏感になる可能性があります。
上述している、両氏が経済政策として言及する業界の場合、株価を含めて強含み・弱含みの動きが活発になるでしょう。
これらは経済政策に限った話ではありません。
どちらかの勝利が確定すれば、上記支持層の希望が政策に反映されていくことになります。
そうすれば、関係する業界の活動が活発になり、関連するマーケットも大きく動くことになるでしょう。
そうなれば、日本企業であっても株価を含め、影響が出る可能性があります。
バイデン氏、トランプ氏いずれの勝利であったとしても、支持層の求める政策に注目する必要があるのはこのためです。
政策の傾向が決まると、少なくとも4年間、アメリカではそのような方向に政治が動きます。
株価を含め、中期的なマーケットの動きとして把握する必要がある情報と言えるでしょう。
すでに盛り上がりを見せている大統領選ですが、本投票日の11月までにはまだ時間があります。
それまでの間に世界では何が起きるかはわかりませんし、それぞれの出来事によって国民が支持する相手は変わるものです。
なお、2024年6月13日時点では各陣営の選挙人獲得状況はこのように分析されています。
2024大統領選の情勢
(出所:「2024 RCP Electoral College Map」RealClearPolitics, 2024年6月13日取得 )
現在のところトランプ氏が優勢のようですが、長い選挙期間では接戦も予想されます。
まずは両者が何を語るのか、日々のニュースをチェックしてみましょう。
他人事とは言い切れない部分も出てくるのが、アメリカ大統領選です。
ぜひ注目し、経済の動きと合わせて注視して下さい。
本コラムは執筆時点における情報に基づいて作成しておりますので、最新情報との乖離にご注意下さい。
出典
*1「アメリカ大統領選挙の主要なスケジュール」NHK
*2「アメリカ大統領選特集2024」NHK
*3「基礎からわかるアメリカ大統領選挙」読売新聞オンライン
*4「アメリカ大統領選挙特集2024 政策比較 経済・産業」NHK