アメリカ大統領選挙の最終投票が11月5日に迫りました。
アメリカの大統領選挙は日本とは仕組みが異なり、選挙は1年がかり で行われます。
4年に1度の選挙戦で、今回は民主党のハリス氏と共和党のトランプ氏の一騎打ちとなりました。
アメリカは海外に様々な影響を与える国というだけあって、大統領選挙は毎回、世界の注目を集めています。
それら選挙の仕組みと、 大統領選の結果が日本経済にどのような影響を与えるかについても解説していきます。
今回の大統領選は、当初は前回と同じ「バイデン氏vsトランプ氏」という構図でしたが、2024年7月21日になって バイデン氏が大統領選からの撤退を表明するという異例の出来事が起きました。
現職の大統領が再選出馬を断念するのは56年ぶりのことです。*1
アメリカの大統領選挙では二大政党がそれぞれ夏に党大会を開き、それぞれの党から誰を大統領候補に立てるか決定するのが通例です。よって7月になってからの撤退表明は混乱を招きました。*2
共和党ではすでにトランプ氏が、バイデン氏の撤退表明より先の7月18日に党の大統領候補指名を正式に受諾する演説を行っていました。*3
そしてバイデン氏が撤退を表明した民主党は急遽なんとか党をまとめ上げ、8月22日の党大会で、 カマラ・ハリス氏が党の大統領候補としての指名を正式に受諾しました。*4
ハリス氏は検察官としてのキャリアを重ね2011年にはカリフォルニア州の司法長官に就任し、のち2017年に上院議員となりました。バイデン政権では女性として、また、黒人としても、アジア系としても、アメリカ史上初めての副大統領に就任した人物です。*5
アメリカ大統領選挙の仕組みが日本と大きく違う点はもうひとつあります。 「選挙人」と呼ばれる制度があることです。
アメリカ大統領選は全国民がそれぞれの候補に投票する「直接選挙」ではなく「間接選挙」の形を取っています。
そのなかで鍵になるのが「選挙人」と呼ばれる人たちです。
選挙人とは、いわば州を代表して大統領候補者に票を投じる役割を担う人です。州の人口に応じ計538人が全米50州と首都ワシントンに割り振られています。
選挙人の数が最も多いのがカリフォルニア州の54人で、ついでテキサス州の40人、フロリダ州の30人と続いています。少ない場所ではアラスカ、デラウェアなど6州および首都ワシントンで3人となっています。*6
個々の有権者は州ごとに「選挙人」を選ぶための投票という形で大統領選に参加している、というわけです。
そして最終的に大統領候補は選挙人から得る票の数を争うわけですが、ルールは少し変わっています。一部例外を除き、48州と首都ワシントンでは 「勝者総取り」方式が採用されています。
相手より 1票でも多くの票を獲得できれば、すべての選挙人を獲得できることになっています。
よって、選挙人の多い州を攻略することが重要ということになります。
また中には、 勝利政党が変動しやすい「スイング(揺れる)ステート」と呼ばれる州もあります。
JETROによれば、アメリカの主要メディアは今年のスイングステートとして、アリゾナ州、ジョージア州、ミシガン州、ネバダ州、ノースカロライナ州、ペンシルベニア州、ウィスコンシン州を挙げています。
2024年大統領選のスイングステート
(出典:「米国大統領選の仕組み ~スイングステートとは」JETRO)
日本でも地域によって支持政党の傾向があるように、アメリカにも「伝統的な基盤」があります。
青色が民主党、赤色は共和党が強い地域として記されていますが、網掛けになっているのが「スイングステート」にあたります。
スイングステートでどれだけ票を獲得できたかが当落を左右するため、これらの州の情勢は今年も注目されるところです。
では現在の情勢をみていきましょう。
アメリカの主要メディアに世論調査などのデータを提供しているRealClearPoliticsによれば、各候補への州ごとの支持は下のようになっています。
2024大統領選の情勢
(出典:「2024 RCP Electoral College Map」RealClearPolitics, 2024年10月21日取得)
グレーで示され「Toss Up」となっているのは「五分五分の状態である」州です。
それらの地域を除き、 現在のところ獲得するであろうと考えられている選挙人の数は、ハリス氏が215人、トランプ氏が219人と拮抗状態にあります。
「スイングステート」と呼ばれる地域は今回の選挙でも、まだどちらの支持に回るのか明確になっていないことがよくわかります。
また、こうしたスイングステートでは、バイデン氏が立候補を断念してから民主党の支持層が一時的に増えたものの、現在はもつれた状態になっているところが多くみられます。
ペンシルベニア州を例にとると、下のようになっています。
ペンシルベニア州での各候補支持率の推移
(出典:「2024 Pennsylvania: Trump vs. Harris」RealClearPolitics, 2024年10月21日取得)
バイデン氏の撤退表明時期が縦線で区切られており、そこから民主党(青線)への支持が急上昇していることがわかります。
最後まで目が離せない選挙戦が続いています。
さて、アメリカの大統領選の結果は、日本経済にどんな影響をもたらすのでしょうか。
アメリカは日本にとって、外交的にも経済的にも深い関係にあります。よって、それぞれの候補がどのような政策をとるかにより日本経済への影響は異なります。
それぞれの候補が表明していることを、日本に関係がありそうな部分を中心にみていきましょう。*7*8
まずハリス氏の掲げる経済財政および対日政策を要約すると、以下のようになります。
といったところです。
一方のトランプ氏です。以下の点を表明しています。
また、どちらの陣営が勝利するかで日米の貿易がどう変化するかという分析もあります。*9
国際貿易投資研究所は、 トランプ氏が当選した場合「アメリカ・ファースト」を主張し、貿易赤字を改善するために、海外からの輸入について高関税政策を取る可能性が高いとしています。
特に中国に対しては60%の関税を主張しています。これは中国だけでなく、日本企業の中国子会社を介した対米輸出に大きな影響を与えるとも考えられています。
一方で ハリス氏が当選した場合、国際的な持続可能性を目指した経済パートナーシップの枠組みを推進する可能性が高いとしています。
11月5日の最終投票を経て、2025年1月20日には第47代米国大統領が就任式を迎えることになります。
関連する企業がどのような対応をしていくのか、チェックしていきたいところです。
本コラムは執筆時点における情報に基づいて作成しておりますので、最新情報との乖離にご注意ください。
出典
*1 日本経済新聞「バイデン氏撤退、現職出馬断念56年ぶり 当時は民主敗北」
*2 NHKニュース「民主党 バイデン大統領を党の候補者に前倒し指名へ 異例の展開」
*3 BBCニュース「【米大統領選2024】 共和党のトランプ大統領候補が指名を正式受諾 銃撃後初の演説」
*4 BBCニュース「【米大統領選2024】ハリス副大統領「国民のために」大統領候補の指名受諾 民主党大会」
*5 NHKニュース「アメリカ大統領選2024」
*6 読売新聞オンライン「基礎からわかるアメリカ大統領選挙」
*7 NHKニュース「アメリカ大統領選2024」
*8 NHKニュース「アメリカ大統領選2024」
*9 一般財団法人国際貿易投資研究所「ハリス政権誕生ならばどのような政策が日本に影響を与えるのか~その2 ハリス副大統領が打ち出す通商政策に日本企業はいかに対応するか~」