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脱炭素化の切り札となる「水素」とは? 成長著しい水素関連市場や研究開発の動向を紹介
脱炭素化の切り札となる「水素」とは? 成長著しい水素関連市場や研究開発の動向を紹介

脱炭素化の切り札となる「水素」とは? 成長著しい水素関連市場や研究開発の動向を紹介

2023/09/14に公開
提供元:Money Canvas

気候変動問題の解決に向けた取り組みが世界各国で進む中、脱炭素化のカギとして近年、CO2を排出しないクリーンなエネルギーである水素が注目を集めています。


2050年における世界全体の水素関連の市場規模は約2.5兆ドルになることが見込まれているなど、投資家にとっても非常に魅力的な市場と言えます。*1


一方で、水素関連市場は発電部門や輸送部門など多岐に渡るため、投資を始めるにあたってどこから検討すればいいかわからないという方もいるのではないでしょうか。


そこで今回は、水素の特徴や今後実用化が期待される水素技術の研究開発の動向等についてご紹介します。



環境に優しい水素

H原子が2つ結びつくことで生成される水素(H₂)。このH原子は、水や化石燃料など様々な化合物の状態で存在しています。そのため、水素は多様な資源から生成することが可能です。*2


例えば、水に電気を流して水素と酸素を生成する水の電気分解によって、水素を生成することができます(図1)。*2


水素エネルギー

図1 水の電気分解による水素の生成

引用)「『水素』ってどんなエネルギー? 水素をエネルギーとして活用する意義とは?」資源エネルギー庁


様々な方法で作ることが可能なため、その作り方によって水素自体をいくつかに分類できます(図2)。*3


水素エネルギー1

図2 作り方による水素の分類

引用)「次世代エネルギー『水素』、そもそもどうやってつくる?」資源エネルギー庁


化石燃料をベースにして作られた水素は「グレー水素」と言います。また、同じ化石燃料ベースでも、排出されたCO2を回収後貯留・利用することで、排出量を抑えて生成された水素は「ブルー水素」と呼ばれます。


現在、工業用途で使用される水素の99%は、化石燃料ベースで生成されたグレー水素やブルー水素です。一方で、残りの1%にあたる再生可能エネルギー等を活用して生成された「グリーン水素」と呼ばれる水素も存在します。*4


グリーン水素は、製造工程においてCO2を排出しないクリーンなエネルギーであるため、脱炭素化に有効なエネルギーです。一方で、水の電気分解の原理を活用した製造方法は、製造時に大量の電力が必要となるため、実用化に向けてはコスト低減が課題と言えます。*3


水素の活用促進に向けた国内外の動向

脱炭素化に向けて、世界各国が水素、特にグリーン水素の普及に向けた水素戦略を策定しています(図3)。*5

世界各国の水素戦略

図3 世界各国の水素戦略

引用)「「福岡県水素グリーン成長戦略」福岡県) p.3


水素戦略における目標達成に向けて、各国で投資計画等が検討されています。例えば、ドイツ政府は、水素関連分野へ2年間で90億ユーロを、イギリス政府は2030年までの間に40億ポンドの投資を計画しています。


国内でも、2017年に水素基本戦略が策定されて以降、燃料電池車の普及など様々な取り組みが行われています。また、政府は2023年に、同戦略を6年ぶりに改定しました。*6


改定された戦略では、今後15年で官民あわせて15兆円を超える投資を行い、2040年の水素利用量を現在の6倍(1,200万トン)程度まで引き上げるとしています。


水素を活用した技術開発・活用の動向

世界各国で投資が進む水素について、その市場は水素の製造から利用まで多岐に渡ります(図4)。*2

水素サプライチェーン

図4 水素サプライチェーン

引用)「『水素』ってどんなエネルギー? 水素をエネルギーとして活用する意義とは?」資源エネルギー庁


また、利用時においても、燃料電池自動車や家庭用燃料電池(エネファーム)、水素発電など様々な分野での取り組みが行われています(図5)。*2

様々なシーンでの利用が期待される水素

図5 様々なシーンでの利用が期待される水素

引用)「『水素』ってどんなエネルギー? 水素をエネルギーとして活用する意義とは?」資源エネルギー庁


ここからは、グリーン水素の製造段階や、水素を活用した移動手段・水素発電など利用段階における近年の動向をご紹介します。


グリーン水素製造技術の開発動向

グリーン水素の作り方には様々な方法がありますが、その一つに、水を電気分解して水素を作る「水電解装置」を使った製造方法があります。先述したように、グリーン水素はコスト低減が課題となっていますが、その克服に向けて現在、水電解装置を活用して水素を大規模に製造する実証事業が進められています。*3


例えば、2020年3月には、世界有数の水電解装置をそなえた「福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)」が福島県浪江町に開所しました。*3


本研究フィールドでは、水電解装置の大型化や装置への優れた部材の実装等を通じて、装置コストの低減(最大6分の1程度)を目指しています。また、政府の発表によると、本フィールドについて2026年度から本格的な水素の供給をはじめ、商用化を進める予定です。*7


民間企業による取り組みも活発化しています。例えば、大林組は、2021年に大分県九重町及びニュージーランドにおいて、地熱を活用した水素製造の実証事業を開始しました。*8


九重町で生成された水素は、トヨタ自動車や水素燃料自動車用の水素ステーション等に供給されており、今後更なる普及が期待されています。


燃料電池を活用した次世代の移動手段

燃料電池とは、水素と酸素が化学反応した際に発生した電気を取り出す装置のことです。この原理を利用して、自動車やフォークリフトなど様々な移動手段における水素の活用が進んでいます(図6)。*2


燃料電池の仕組み

図6 燃料電池の仕組み

引用)「『水素』ってどんなエネルギー? 水素をエネルギーとして活用する意義とは?」資源エネルギー庁


自動車について近年、北海道室蘭市や東京都等の自治体が、燃料電池自動車のカーシェアリングサービスの普及支援を図っています。*9


例えば、東京都では、都民の利用機会創出を目的に、オリックスと連携して、通常の約50%の価格で燃料電池自動車のカーシェアリングサービスが提供されています。また、東京都中野区では、トヨタモビリティサービスと協定を結び、区民向け特別料金でレンタルサービスを提供しています。


また、工業分野における移動手段の燃料電池化も進んでいます。例えば、豊田自動織機が製造した燃料電気フォークリフトは、環境省の事業によって導入が広がっており、その導入件数は2023年3月時点で55件です。*10


発電時にも活用される水素

移動手段だけでなく、発電時の燃料として水素を用いる「水素発電」の研究開発も活発化しています。水素発電には、ガスタービンの燃料として水素を用いるものや、燃料電気を用いるものなどがあります。*11


ガスタービン発電について、三菱重工業は2022年から兵庫県高砂市で、水素製造から発電まで一気通貫で検証できる設備を建設し、長期実証運転を実施しています。また、イーレックス株式会社も2022年から山梨県富士吉田市で、国内初となる水素のみを燃料として発電する発電所を運転しています。*12


海外での実証事業も進んでいます。例えば、三菱パワーはオランダのマグナム発電所において、燃料を水素に転換するプロジェクトに参画しており、2025年頃の商用運転を計画しています。*1


また、三菱パワーはアメリカユタ州においても大型水素発電プロジェクトでガスタービンを受注しました。同発電所は、2025年に水素混焼率30%による運転を開始し、2045年に100%の専焼運転を目指すとしています。


まとめ

国際エネルギー機関(IEA)によると、世界全体で2070年にカーボンニュートラルを達成するために必要な水素需要量は約5.2億トンとされています。これは最終エネルギー消費の約13%にあたり、今後大きな成長が見込める市場であると言えます。*1


環境に配慮した取り組みに対して投資を検討したいという方は、成長が期待される水素関連市場の動向を調べてみてはいかがでしょうか。


SDGs達成の鍵となるグリーンファイナンスについて、あわせて読んでみましょう!


本稿執筆時点における情報に基づいて作成しておりますので、最新情報との乖離にご注意ください。


出典
*1資源エネルギー庁「水素社会実現に向けた大規模水素サプライチェーンの構築について」p.2, p.4, p.8, p.18, p.36
*2資源エネルギー庁「『水素』ってどんなエネルギー? 水素をエネルギーとして活用する意義とは?」
*3資源エネルギー庁「次世代エネルギー『水素』、そもそもどうやってつくる?」
*4日本バルブ工業会「2030年温室効果ガス排出量26%削減への道 #22」
*5福岡県「福岡県水素グリーン成長戦略」p.3, p.4
*6 NHK「水素エネルギー普及へ 政府が基本戦略決定 官民15兆円超投資へ」
*7 NHK「浪江町の水素製造施設 政府が2026年度から本格的供給へ」
*8新エネルギー財団「資源エネルギー庁長官賞【分散型新エネルギー先進モデル部門】」
*9環境省「燃料電池自動車の普及状況」p.1
*10環境省「燃料電池フォークリフトの普及状況」p.1
*11資源エネルギー庁 燃料電池推進室「水素発電について」p.2
*12環境省「水素発電の実証状況」p.2

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