
「バブル(経済)」とは、本来の価値(経済の基礎的な条件)から大きく離れて、資産の価格が上がりすぎている状態のことです。
そのため、資産価格が大きく上がる局面では、「これはバブルではないのか」「バブルだとしたら、いつ弾けるのか」が大きな関心事となります。
本稿では、日本の1980年代後半から1990年代初頭のバブル崩壊を事例として、バブルがどのように生まれ、どのタイミングで弾けるのかをわかりやすく整理します。
結論を先取りすると、バブルは、金融緩和による市場への資金流入、過剰な投資や借入、そして「価格はまだ上がり続ける」という期待やそれに基づく投資家の過度なリスクテイキングが積み重なることで発生しやすくなります。
そこに、中央銀行による利上げなどの金融引き締めが加わることで、市場の資金の流れや投資家心理が一気に変化し、価格の急落につながる、つまりバブルの崩壊が起こるケースが少なくありません。
実際、日本のバブル崩壊でも、土地や株価の急騰、金融機関による積極融資、過熱した投資行動のあとに、利上げをきっかけとして市場心理が悪化し、急速な価格下落が起きました。
本稿では、そのような事例をもとに、急激な価格上昇、借入の拡大、過度な楽観論、金融政策の転換といった「崩壊の兆し」をどう読み解けばよいのかを解説します。
まず、バブル経済はどのような状況で生じるのかみていきましょう。
バブルは「泡」という意味で、実態の価値以上の評価(泡の部分)が生じている経済状態のことを指します。*1
たとえば、株、土地、建物、絵画、宝石など各種の資産価格が、投機目的で異常に上がり続け、その結果、資産額が実態の価値以上に膨らみ、大きな評価益が発生しているかのように見える状況のことです。
最近の日本では、1980年代後半から1990年代初頭までの経済状況がバブルに相当します。
1980年代後半の金余りを背景に、地上げによる土地取引の過熱や財テクブームに乗って、地価や株価が高騰しました。
この時期は、東京株式市場の売買額が世界一になり、ノンバンクも含めた土地関連融資が激増しました。
バブル経済は、投資家心理や金融政策、さらには人口構造の変化など、複数の要因が重なり合うことで発生すると、専門家は説明しています。*2
それぞれの要素についてみていきましょう。
まず、将来に対する楽観的な期待がバブル経済形成の大きな要因であると指摘されています。
本来、投資には価格下落のリスクがあります。
しかし、資産価格が上昇し続ける局面では、「地価は下がらない」といった過度な楽観が広がり、投資家はリスクを軽視するようになります。
その結果、投資家は過度なリスクテイキングをし、本来の価値を超える価格でも資産が取り引きされるようになります。
日本のバブル期、株式市場では、企業の業績とは無関係に株価が上昇し、投機的な取引が盛んに行われました。*3
人々の間には、不動産や株式の価格の上昇があれば、経済が成長し続けるという誤った認識が広がっていました。
その影響で不動産や株式市場に多くの資金が流入し、その結果、土地価格が実体経済の成長を大きく上回るペースで上昇しました。
金融緩和政策による資金供給の拡大もバブル形成の重要な要因だといわれています。*2
中央銀行(日本では日本銀行)が低金利政策を続け、そのために実質長期金利が低下すると、企業や個人は資金を借りやすくなり、預金よりも株式や不動産などへの投資が有利になります。
その結果、大量の資金が資産市場へ流入し、資産価格を押し上げ、バブルが生じます。
日本でも、1985年のプラザ合意後に日本銀行が行った金利の引き下げがバブル形成の重要な要素になったと指摘されています。*3
プラザ合意とは、1985年に過剰なドル高を是正するため、アメリカのニューヨークにあるプラザホテルに、主要5か国の財務大臣と中央銀行総裁が集まり、為替レートの調整に合意したことです。
プラザ合意前には1ドルは240円台でしたが、1986年の年末にはドル売りの影響により、1ドル=150円台まで円高が進みました。
この急激な円高への対策として、日本銀行は金利を引き下げました。
その結果、企業や個人はより安いコストで資金を借りることができるようになり、不動産や株式市場への投資が促進され、資産価格が急上昇しました。
政府の規制緩和もこのバブル経済の形成を後押ししました。
金融機関が不動産を担保とした融資を拡大したことで、不動産価格はさらに上昇しました。
この時期には、土地や不動産の価値が上がり続け確実な利益をもたらすという「土地神話」が広まり、不動産投資が加速します。
結果としてこれらの状況は、実体経済の成長率を大きく上回る資産インフレーションを加速させました。
さらに、生産年齢人口の増加といった人口構造の変化も、バブル発生の背景と指摘されています。*2
生産年齢人口が増える時期には、経済成長期待が高まり、住宅や資産への需要も増えるため、資産価格が上昇しやすくなると考えられています。
さらに、生産年齢人口の割合がピークを迎える前後の時期には、足元では景気や成長率が高い一方で、将来の成長鈍化が意識されるため、長期金利は上昇しにくいという状況が生じます。
こうした環境下では、バブルが発生しやすいのです。
これは、1980年代後半の日本のバブルにも合致しています。
次にバブル崩壊が生じる状況を、日本の事例をもとにみていきましょう。
株価のピークは、日経平均株価が最高値をつけた1989年12月29日の38,915円87銭でした。*4
これは歴史的ピークといわれ、その後、2010年の初めまでこのピークを超えることはありませんでした。
一方、土地の価格である地価は、東京圏では1988年、大阪圏では1990年にピークを迎えました。
上述のように、バブル当時、土地は値上がりし続けるという「土地神話」のもと、銀行は土地を担保に貸付を拡大させました。*5
一方、企業は本業のかたわら、さらなる利潤を求めて株式運用や新たな土地の取得・開発を行う「財テク」を活発に行いました。
その結果、土地は値上がりを目的とした転売によって価格が異常に吊り上げられ、それを裏づけとした債務バブルも企業を中心に1990年頃まで急激に膨らんでいきました(図1)。
図1 借入残高ベース
出典)三菱UFJ信託銀行 「大恐慌は繰り返すか ~金融危機をどう見るか~(後編)」p.5
債務による投資の場合、資産価格が下落する局面では、担保となる資産は、債務者の「債務を早急に返済しよう」とする群集心理によって投げ売りされ、さらに資産価格が下落することになります。
そのことによって債務負担が拡大し、ますます投げ売りが加速するため、資産は不良化します。
銀行も傷つき、資産価格下落がデフレを引き起こすことで実質金利の上昇を招くという負のスパイラルによって、債務負担がさらに重くなります。
このように、債務バブルは、バブル崩壊につながる要因となります。
日本銀行は、インフレを抑制し経済の過熱を冷ます目的で、1989年末から金利を段階的に引き上げました。*3
1990年夏までに連続利上げする過程で、まず株価が下落を始めました。*5
1990年3月、大蔵省(当時)が土地投機抑制を目的として、不動産向け融資の流れを制限したことによって、土地の価格も続いて下落に転じることになりました。
金利が引き上げられると、企業や個人が資金を借りる際に支払う利息が増加するため、不動産や株式への投資に関する人々の意識にも変化が生じます。*3
バブル時には、多くの人々が価格上昇を前提に投資や消費を拡大していましたが、一転して、過剰な価格上昇や投機的な行動は続かないのではないかという危機感が広がります。
この認識の変化によって人々は資産を売却し始め、それが市場全体に連鎖反応を引き起こしました。
こうして、バブルは崩壊過程に入っていきます。*4
東証一部の株式取引の一日平均売買高をみると、バブル期の1988年には10億株を上回っていた売買高が株価下落とともに急速に減少しました。1992年には2~3億株にまで落ち込み、株式の取引そのものが非常に低調になりました。
下の表1は、土地・株式のキャピタルゲインとキャピタル・ロスの推移を表しています。
キャピタルゲインとは、土地、株式、公社債などの資産の値上がりによって得られる利得のことです。*6
たとえば、土地や株式が購入時よりも値上がりした場合、その値上がり部分がキャピタル・ゲインです。
それと反対に、値下がりによる損失をキャピタル・ロスと呼びます。
表1 土地・株式のキャピタルゲインとキャピタル・ロス
出典)内閣府経済社会研究所 「バブル/デフレ期の日本経済と経済政策」第1巻『日本経済の記録-第2次石油危機への対応からバブル崩壊まで-』>「第3部 第2章 バブル崩壊と景気後退」p.377
表1からわかるように、日本のバブル期である1980年代後半には、多額のキャピタル・ゲインが発生しました。
一方で、バブル崩壊が生じた1990年代初頭には、多額のキャピタル・ロスが生じました。
これまでみてきたように、バブル崩壊の兆しは、単に「資産価格が高い」ことだけでは判断できません。
重要なのは、資産価格の上昇が実体経済とかけ離れていないか、また、その上昇が過剰な借入によって支えられていないかをみることです。
たとえば、企業業績や賃金の伸び以上に株価や不動産価格が急騰している場合には注意が必要です。
さらに、「まだ上がる」「土地は下がらない」といった過度な楽観論が広がり、借金をしてまで投資を行う動きが増えると、バブルは過熱しやすくなります。
加えて、中央銀行による金融引き締めの動きも重要なサインです。
低金利によって膨らんだ投資は、金利上昇によって一気に逆回転することがあります。
実際、日本のバブル崩壊でも、利上げや不動産融資規制をきっかけに市場心理が悪化し、株価や地価が急落しました。
価格の上昇率だけでなく、「借入の拡大」「過度な楽観」「金融政策の転換」を合わせてみることが、バブル崩壊の兆しを読み解く重要な視点といえるでしょう。
本コラム執筆時点における情報に基づいて作成しておりますので、最新情報との乖離にご注意ください。
本コラムの内容は、特定の金融商品やサービスを推奨あるいは勧誘を目的とするものではありません。
最終的な投資判断、金融商品のご選択に際しては、お客さまご自身の判断でお取り組みをお願いいたします。
出典
*1 金融広報中央委員会 知るぽると 「バブル経済(bubble economy)とは」
*2 内閣府経済社会研究所 「特別論文 バブルの発生・崩壊からデフレ克服まで>四半世紀の日本経済とマクロ経済政策:バブルの発生・崩壊からデフレ克服まで」pp.173-176
*3 三菱UFJ銀行 Money Canvas 「1980年代のバブル経済の成り立ちと崩壊の歴史から学ぶ投資の教訓」(2024年7月25日)
*4 内閣府経済社会研究所 「バブル/デフレ期の日本経済と経済政策」第1巻『日本経済の記録-第2次石油危機への対応からバブル崩壊まで-』>「第3部 第2章 バブル崩壊と景気後退」p.375、377
*5 三菱UFJ信託銀行 「大恐慌は繰り返すか ~金融危機をどう見るか~(後編)」p.2、pp.5-6
*6 金融広報中央委員会 知るぽると 「キャピタル・ゲイン(capital gain)とは」
