近年、気候変動など様々な環境問題が深刻化しています。環境問題の解決には、多くの資金が必要となるため、政府や企業はそれらをいかに調達するかが課題となっています。*1
この課題の解決策の一つとして、グリーンファイナンスと呼ばれる資金調達方法が近年注目を集めています。グリーンファイナンスには、グリーンボンドやグリーンローンなど様々な手法があり、グリーンボンドには個人が購入できるものが増えています。
そこで今回は、グリーンファイナンスの手法や普及状況、活用事例についてご紹介します。
グリーンファイナンスとは、
「環境的に持続可能な開発に向けて、環境に良い効果を与える投資へのファイナンス」
のことです。*1
再生可能エネルギーの促進からインフラの低炭素化まで、グリーンファイナンスの対象分野は多岐に亘ります(図1)。*1
図1 グリーンファイナンスの対象セクター例(出所「グリーンファイナンスとは」大和総研)p.3
グリーンファイナンスは、公的資金だけではいずれ不足すると考えられています。国連が策定した「持続可能な開発目標」(SDGs)の達成には、2030年まで年間5兆〜7兆ドルのグリーンファイナンスへの資金が必要と試算されました。目標達成に向け、民間資金の導入が注目されています。
家庭用発電や脱炭素化の切り札となる「水素」についてはこちらの記事を参考にしてください。
グリーンファイナンスには、グリーンボンドとグリーンローンなど、様々な資金調達手法があります。
グリーンボンドとは、企業や自治体等が国内外のグリーンプロジェクトに要する資金を調達するために発行する債券のことです。*2
発行条件(利率や償還期間等)を提案・調整する証券会社などの機関を通じて、投資家から原資を調達する方法です(図2)。*3
図2 グリーンボンド発行の一般的スキーム(出所「発行スキーム」環境省)
世界を見渡すと、2013年に150億米ドルだったグリーンボンドの年間発行総額は、2021年に6,366億米ドルまで増加しました(図3)。*4
図3 グリーンボンド発行体の地域別の発行実績(2023年6月18日時点)(出所「市場普及状況(国内・海外)」環境省)
発行する市場規模の拡大に伴い、発行地域も多様化してきました。近年では欧米諸国のみならず、アジアで発行される割合が増えています。*5
2014年に日本政策投資銀行が国内初のグリーンボンドを発行したことを皮切りに、国内でも発行額が増加しています。*5
2020年に年間発行総額が1兆円を突破し、2022年には2兆円を超えました(図4)。*4
図4 国内企業等によるグリーンボンドの発行実績(2023年6月19日時点)(出所「市場普及状況(国内・海外)」環境省)
グリーンローンとは、企業や地方自治体等が、国内外のグリーンプロジェクトに必要な資金を調達するために用いる融資のことです。*6
グリーンローンは、借り手と貸し手に加えて、環境性に関する外部レビュー機関が関与し環境への改善効果などの確認をするという点が一般的なローンと異なります。従って、貸し手である金融機関には、グリーンプロジェクトの環境改善効果等を適切に見極めて融資を実行することが期待されています(図5)。*7
図5 グリーンローン組成の一般的スキーム(出所「発行スキーム」環境省)
2014年から2022年にかけて、海外ではグリーンローンの年間融資件数が増加しています。実際、2022年には年間融資件数が224件、融資額は519億米ドルと過去最高となりました(図6)。*8
図6 世界のグリーンローン組成額の推移(2023年6月18日時点)(出所「市場普及状況(国内・海外)」環境省)
また、国内でも2017年以降、再生可能エネルギーやグリーンビルディングへの資金を目的としたグリーンローンを中心に普及が拡大しています(図7)。*8
図7 国内のグリーンローン組成額の推移(2023年6月19日時点)(出所「市場普及状況(国内・海外)」環境省)
現在、国内では様々な自治体によってグリーンボンドが発行されています。
例えば、三重県が令和4年度に発行した「みえグリーンボンド」は、環境・社会・ガバナンス要素に考慮し、ESG投資に関心の高い投資家を開拓することを目的とした債券となっています。*9
個人による購入も可能となっており、調達された資金は、信号機のLED化や水害対策などの事業に活用されています(図8)。*10
図8 みえグリーンボンド充当事業例(出所「個人向けみえグリーンボンド」三重県) p.1
自治体のみならず、企業による取り組みも活発化しています。例えば、日本郵船株式会社は、環境に配慮した船舶・設備の導入のため、グリーンボンドによる資金調達を実施しました(図9)。*11
図9 日本郵船株式会社によるグリーンボンド活用事例(出所「先行事例(グリーンボンド発行モデル)」環境省)
プロジェクト資金は、CO2やSOx(硫黄酸化物)等の排出削減に寄与するLNG(液化天然ガス)燃料船の購入など、様々な用途に活用されています。*12
企業のグリーンプロジェクトを支援するため、金融機関による資金調達支援も積極的に行われています。三菱UFJ銀行でも、企業がグリーンプロジェクトに充当する資金を調達する手段として、グリーンローン・グリーン私募債を提供しています。*13
具体的には、環境に配慮した経営支援を目的とした「エネルギー使用合理化支援ローン」や、環境負荷低減を目的とした「JREIT向けESG評価ローン」などがあります。
公的機関から民間企業まで、様々な組織が取り組んでいるグリーンファイナンス。
「みえグリーンボンド」のように個人でも購入可能なグリーンボンドも増えています。
2023年2月には、三菱 UFJ 信託銀行が三菱UFJ銀行、東急不動産ホールディングスと連携して、「グリーンファイナンス認証付き個人向け金銭信託」を開始しました。*14
このように、個人でも資産形成の一環として環境問題の解決に取り組むことが可能です。資産形成とともに環境問題の解決にも貢献したいという方は、個人でも購入可能なグリーンボンド等を調べてみてはいかがでしょうか。
本稿執筆時点における情報に基づいて作成しておりますので、最新情報との乖離にご注意ください。
*1大和総研「グリーンファイナンスとは」p.1, p.2, p.3
*2環境省「グリーンボンドとは」
*3環境省「発行スキーム」
*4環境省「市場普及状況(国内・海外)」
*5環境省「グリーンボンド等の発展の沿革」
*6環境省「グリーンローンとは」
*7環境省「発行スキーム」
*8環境省「市場普及状況(国内・海外)」
*9三重県「令和4年10月に『みえグリーンボンド』を発行します」
*10三重県「個人向けみえグリーンボンド」p.1
*11環境省「先行事例(グリーンボンド発行モデル)」
*12イー・アンド・イー ソリューションズ株式会社、株式会社⽇本格付研究所「発行前報告書」p.2, p.8
*13三菱UFJファイナンスグループ「金融機能を通じた取り組み」
*14三菱UFJ 信託銀行、三菱UFJ銀行、東急不動産ホールディングス「本邦初 グリーンファイナンス認証付き個人向け金銭信託の取扱い開始について」p.1