
円安・円高や米国の金融政策、国際情勢などのニュースで、「米ドル」や「基軸通貨」という言葉を目にする機会が増えています。しかし、基軸通貨とはどのような通貨で、なぜ米ドルが世界中で広く使われているのかを詳しく知る人は多くないかもしれません。
基軸通貨は、国際貿易や金融取引を支えるだけでなく、為替相場や物価、資産運用など、私たちの暮らしにもさまざまな影響を与えています。
本記事では、基軸通貨の基本的な仕組みや、米ドルが国際基軸通貨となった歴史的な経緯、現在も高いシェアを維持している理由を解説します。あわせて、基軸通貨が私たちの生活や資産運用にどのように関わっているのかについてもわかりやすく紹介します。
国際的に流通する通貨の中でも、中心的な地位を占める通貨を「基軸通貨」といいます。基軸通貨は、貿易や金融取引など、さまざまな国際取引の決済に広く利用されており、世界経済や金融市場を支える重要な役割を担っています。*1, *2
外国為替市場ではさまざまな通貨が取引されていますが、その中でも取引量が多く、世界中で広く受け入れられている通貨は「主要通貨」と呼ばれます。基軸通貨は、その主要通貨の中でも特に重要な役割を担う存在です。*3
一般に基軸通貨となるには、通貨価値が安定していることに加え、その国が強い政治力や経済力を有していること、さらに金融市場が整備されていることなどが求められます。
こうした条件を満たした通貨は、国際取引や金融市場において幅広く利用されるようになり、基軸通貨としての地位を確立していきます。
基軸通貨は、国際経済や金融市場を支える重要な役割を担っています。その役割を理解するうえで押さえておきたいのが、「計算単位」「交換手段」「価値貯蔵手段」という3つの機能です。*2
計算単位とは、貿易や国際投資において商品の価格や契約金額を表示する際に使用される機能です。交換手段とは、国際取引の決済や異なる通貨間の取引を仲介する機能を指します。価値貯蔵手段とは、資産の保有や運用のために当該通貨建ての資産が保有される機能です。
また、基軸通貨には世界中の取引が集まるため、市場の流動性が高まるという特徴があります。これにより、各国や企業は必要なときに通貨を交換しやすくなり、国際取引を効率的に行うことができます (図1)。*1
図1 基軸通貨の有無による通貨交換の違い(出所「基軸通貨」国際通貨研究所)
出典)国際通貨研究所 「基軸通貨」
基軸通貨はこれらの機能を世界規模で担っており、国際決済や外貨準備、金融取引などに幅広く利用されています。*2
現在、米ドルは世界で最も広く利用される基軸通貨となっています。その地位は、第二次世界大戦後の国際通貨体制の構築や、米国の経済力と金融市場の発展を背景に確立されてきました。米ドルが国際基軸通貨となった経緯を見ていきましょう。
第二次世界大戦後、各国は戦前のような為替相場の混乱を防ぎ、国際経済の安定を図るため、新たな国際通貨体制の構築を目指しました。*4
そこで1944年に開催されたブレトンウッズ会議において、各国通貨と米ドルの交換比率を固定し、米ドルは金と交換できる仕組みが採用されました。これが「ブレトンウッズ体制」です。
この体制では、各国通貨が米ドルを介して金と結び付けられ、固定為替相場制のもとで国際通貨制度が運営されました。
ブレトンウッズ体制のもとでは、米ドルと金の交換が保証されていました。しかし、各国の経済成長や国際取引の拡大にともない海外に流通する米ドルが増加し、各国が保有するドルに対して米国の金準備が不足する状況が生じました。*4, *5
この結果、米国は保有する金だけでは各国からの交換要求に対応することが難しくなり、1971年、ニクソン大統領は米ドルと金の交換停止を発表しました。これにより、ブレトンウッズ体制を支えていた金・ドル本位制は事実上終わりを迎えます。
その後、各国は米ドルと金との交換を停止したまま固定相場制を維持するスミソニアン体制へ移行しました。しかし、この体制も長続きせず、1973年には主要国が市場の需給によって為替レートが決まる変動相場制へ移行しました。*5, *6
1971年のニクソン・ショックによって米ドルと金の交換は停止されましたが、米ドルが基軸通貨としての地位を失うことはありませんでした。その理由として、米ドルが国際通貨に求められる機能を引き続き果たしていたことが挙げられます。*2
また、米国は世界経済や貿易、投資において大きな影響力を持ち、米ドル建ての金融市場も規模が大きく流動性が高いという強みがありました。加えて、米連邦準備制度理事会(FRB)による安定的な金融政策への信認も、米ドルの価値を支える要因となっています。*7
さらに、国際取引や金融取引で長年利用されてきたことでネットワーク効果が働き、多くの国や企業が引き続き米ドルを利用する状況が維持されました。このような要因から、金本位制終了後も米ドルは基軸通貨としての地位を保ち続けたのです。
米ドルは依然として外貨準備や外国為替市場で高いシェアを維持しており、基軸通貨として広く利用されています。ここでは、その状況を具体的なデータから見ていきましょう。
各国の中央銀行は、為替相場の安定や有事への備えとして外貨準備を保有しています。*8
国際通貨基金(IMF)によると、2024年時点で世界の外貨準備に占める米ドルの割合は約6割と、高い水準を維持し続けています (図2)。*9
図2 世界の外貨準備高における通貨別シェアの推移(出所「準備資産の国際システムにおけるドルの優位性:最新の動き」国際通貨基金)
出典)国際通貨基金 「準備資産の国際システムにおけるドルの優位性:最新の動き」
過去20年間で米ドルの割合は緩やかに低下しているものの、依然としてユーロや日本円、英ポンドなどの主要通貨を大きく上回っています。
一方、近年は各国の中央銀行が外貨準備の一部として金の保有を増やす動きも見られます。これは、世界経済を巡る不確実性や地政学的リスクの高まりを背景としたもので、2023年末時点で外貨準備に占める金のシェアは約16%まで上昇しています (図3)。*2, *9
図3 世界の外貨準備に占める金保有額シェア(出所「準備資産の国際システムにおけるドルの優位性:最新の動き」国際通貨基金)p.12
出典)国際通貨研究所 「基軸通貨米ドルの現状評価と今後」
もっとも、金は外貨準備の構成資産の一つではあるものの、米ドルのように国際決済や金融取引で広く利用される通貨ではありません。そのため、外貨準備における米ドルのシェアは依然として高く、準備通貨としての地位は現在も維持されています。*2
米ドルは、外国為替市場においても圧倒的なシェアを占めています。
国際決済銀行(BIS)の2025年世界外国為替市場調査によると、外国為替取引における米ドルのシェアは89.2%で、全通貨の中で最も高い割合となっています。外国為替取引は2つの通貨を組み合わせて行われるため、通貨別シェアの合計は200%となりますが、それでも米ドルはほとんどの取引に関わっていることがわかります (図4)。*10
図4 世界の外為市場取引額の主要通貨別シェア推移(出所「2025年BIS世界外国為替市場調査について~米ドルのシェアは安定、中国人民元はさらに躍進~」国際通貨研究所)p.5
出典)国際通貨研究所 「2025年BIS世界外国為替市場調査について~米ドルのシェアは安定、中国人民元はさらに躍進~」
一方、ユーロは28.9%、日本円は16.8%であり、米ドルとの差は大きく開いています。このように、米ドルは引き続き世界の外国為替市場において中心的な役割を担っており、基軸通貨としての地位を維持しています。
基軸通貨は世界経済だけでなく、為替相場や物価、資産運用などを通じて、私たちの暮らしにもさまざまな影響を与えています。
基軸通貨である米ドルは、貿易や国際的な金融取引で広く利用されているため、米国の金融政策は世界の為替相場にも大きな影響を与えます。*11
たとえば、FRBが政策金利を引き上げると、より高い利回りを求めて世界中の資金が米ドルへ集まりやすくなります。その結果、米ドル高・円安が進む傾向があります。*12
一方、政策金利が引き下げられると、米ドルを保有する魅力が相対的に低下し、米ドル安・円高につながることがあります。このように、米ドルが基軸通貨であることから、米国の金融政策は日本の為替相場にも大きな影響を及ぼしています。
基軸通貨である米ドルの価値が変動し、円安・円高が進むと、日本の輸出入や物価にも影響がおよびます。*13
例えば、円安になると海外から商品や原材料を輸入する際に必要な円の金額がふえるため、企業の輸入コストが上昇します。これにより、ガソリンや電気・ガス料金、食料品をはじめ、私たちの生活に身近な商品の価格が上昇する可能性があります。輸出企業にとっては、海外で得た収益を円に換算した際の利益が増えやすくなるため、業績の追い風となる場合もあります。
一方で、円高になると海外から商品や原材料を比較的安く輸入できるため、輸入コストの低下につながる可能性があります。その結果、輸入品の価格や物価の上昇が抑えられることが期待されます。一方、輸出企業にとっては、海外で得た収益を円に換算した際の利益が減少し、業績に影響を及ぼす場合があります。
このように、米ドルを中心とした為替相場の動きは、企業活動だけでなく、家計にも幅広い影響を与えています。
基軸通貨である米ドルの動きや米国の経済指標は、資産運用にも大きな影響を与えます。経済指標の発表内容が市場の予想と異なる場合には、世界中の投資家が資産の売買判断を見直します。その結果、株式や債券、為替などの市場では、短期間に大きな価格変動が生じることもあります。*11
例えば、FRBの政策金利や米国の雇用統計などの経済指標は、株式や債券、外国為替など世界の金融市場の動向を左右する要因の一つです。米国の金利が上昇すると米国債の利回りが高まり、世界中の資金が米国へ流入しやすくなることで、日本を含む各国の株式市場や新興国市場にも影響が及ぶことがあります。
また、外貨預金や米ドル建て債券、米国株式などの外貨建て資産は、資産価格だけでなく為替変動の影響も受けます。そのため、円換算での資産価値が変動する点にも注意が必要です。*14
基軸通貨は、国際決済や外貨準備、外国為替市場など、世界経済を支える重要な役割を担っています。
現在は米ドルがその中心的な地位を維持しており、米国の金融政策や経済動向は、為替相場や物価、資産運用などを通じて日本経済や私たちの暮らしにも影響を及ぼしています。
基軸通貨の仕組みや米ドルが果たす役割を理解することで、日々の経済ニュースの背景を読み解きやすくなるだけでなく、資産運用や家計管理を考える際にも役立つでしょう。
本コラム執筆時点における情報に基づいて作成しておりますので、最新情報との乖離にご注意ください。
出典
*1 国際通貨研究所 「基軸通貨」
*2 国際通貨研究所 「基軸通貨米ドルの現状評価と今後」p2, p.3, p.4, p.5, p.6, p.7, p.11, p.12, p.13, p.14
*3 三菱マテリアル 「基軸通貨(Key currency)」
*4 国際通貨研究所 「ブレトンウッズ体制と崩壊」
*5 日本経済新聞 「ニクソン・ショックとは 金とドルの交換停止、変動相場制へ」
*6 三菱UFJeスマート証券 「スミソニアン体制」
*7 河合正弘 「ドル基軸通貨体制と国際通貨システム」p.7
*8 日本銀行 「外貨準備とは何ですか?」
*9 国際通貨基金 「準備資産の国際システムにおけるドルの優位性:最新の動き」
*10 国際通貨研究所 「2025年BIS世界外国為替市場調査について~米ドルのシェアは安定、中国人民元はさらに躍進~」p.1, p.3, p.4, p.5
*11 三菱UFJ銀行 「アメリカの主な経済指標は? 投資判断に活かす方法をわかりやすく解説」
*12 三菱UFJモルガン・スタンレー証券 「米国(アメリカ)の政策金利とは?推移とその影響も解説」
*13 三菱UFJ銀行 「円高・円安とは?どっちがいい?メリット・デメリットや覚え方をわかりやすく解説!」
*14 三菱UFJ銀行 「円安はいつまで続く? 為替変動の要因やメリット・デメリットをわかりやすく解説」
