2024年の新NISAの開始により、貯蓄から投資への流れが加速し、日本でも投資を始める人が増えると期待されています。
そんな中、「フィンテック」という言葉を耳にする機会が増えていますが、その意味やサービス内容、将来性についてはよく分からない…という方も多いのではないでしょうか。
フィンテック企業とは何か、どんなサービスを提供しているのか、そして投資先や就職先としての可能性はどうなのか。
投資や経済に興味を持ち始めた方々が疑問に思うであろうポイントをわかりやすく解説します。
フィンテック(FinTech)とは、「Finance(金融)」と「Technology(技術)」を組み合わせた造語で、AIやブロックチェーンなど最新のテクノロジーを活用した新しい金融サービスのことです。
近年では、スマートフォンや人工知能(AI)、クラウド技術などのイノベーションを既存の金融ビジネスに融合し、新たな価値を生み出す動きが世界的に進んでいます。*1
たとえば、スマホアプリから銀行口座の残高確認や送金ができたり、AIが自動で資産運用のアドバイスをしてくれたりするのはフィンテックの成果です。
フィンテックは明確な定義があるわけではありませんが、一般的に「先端テクノロジーによって従来の金融サービスに革新をもたらすもの」と理解されています。
金融業界は銀行・証券・保険など幅広い分野がありますが、フィンテックはこれらあらゆる金融分野で活用されています。
実際に、銀行のオンラインバンキング、証券のスマホ株取引、保険のオンライン契約など、多岐にわたるサービスにフィンテックが取り入れられています。
フィンテック企業は様々な金融サービスを提供していますが、ここでは代表的な5分野「投資」「保険」「仮想通貨」「会計・財務」「キャッシュレス決済」に分けて、その内容と例を紹介します。
フィンテックにより、投資がより身近で簡単になっています。
特に注目なのがロボアドバイザーと呼ばれる自動資産運用サービスです。
ロボアドバイザーは、アルゴリズムやAIを活用して利用者に合った資産配分を提案したり、預けた資金を自動で運用してくれるサービスです。
従来、資産運用をプロに任せる「ラップ口座」は高額資産を持つ富裕層向けでしたが、ロボアドなら少額から低コストで始められるため、知識や時間のない初心者にとって強い味方です。
また、少額から投資を始められるサービスが数多く登場しています。「投資はお金持ちだけのもの」という時代は終わりつつあり、フィンテックのおかげで誰でもスマホ一つで資産運用にチャレンジできる環境が整ってきました。
フィンテックは保険分野にも革新をもたらしています。
保険×テクノロジーはインシュアテック(InsurTech)とも呼ばれ、オンラインで完結する手続きやAIを活用した高度なサービスが特徴です。*1
たとえば、従来は代理店や対面で行っていた保険契約が、今ではウェブやアプリ上で申し込みから支払いまですべて完了する商品が増えています。
見積もり算出もAIが自動化し、利用者は質問に答えるだけで最適な保険プランが提示される仕組みも普及しつつあります。
仮想通貨(暗号資産)はフィンテックを語る上で欠かせないトピックです。
ビットコインやイーサリアムといった仮想通貨はブロックチェーンという技術を基盤に発行・管理されており、既存の政府発行通貨とは異なる新しいデジタル資産です。
フィンテック企業は、これら仮想通貨の売買や保管が可能なサービスを提供しています。
仮想通貨市場は近年急成長しており、2024年にはビットコイン価格が過去最高値を記録するなど世界的に注目を集めました。
また、利用者数も増加しており、2024年時点で世界の仮想通貨ユーザー数は5億6千万人を超え、世界人口の約6.8%が何らかの形で仮想通貨を保有しているとの推計もあります。*2
仮想通貨を巡っては国による規制や価格変動の大きさ、セキュリティなど課題もありますが、ブロックチェーン技術は将来的に送金コストの削減や金融包摂の促進につながると期待されています。
フィンテック企業はこの分野で、初心者でも安心して暗号資産に触れられるよう使いやすい取引アプリやセキュリティ強化策を日々進化させています。
従来は手作業やエクセルで行っていた経理処理がフィンテック企業の提供するクラウド会計ソフトによって大幅に効率化されました。
レシートを写真で撮るだけで経費精算できたり、取引明細に基づいてAIが勘定科目を自動仕訳したり、煩雑な経理作業を自動化する機能が充実しています。*3
また、請求書作成ツールや給与計算ソフトなど、バックオフィス業務を効率化するフィンテックサービスも広がっています。
財務管理の面でも、ダッシュボードでリアルタイムに収支状況や予実管理を可視化できるサービスが登場し、中小企業でも手軽に管理会計が実践できるようになりました。
さらに、AIによる資金繰り予測や融資審査支援など、企業の財務戦略に役立つ高度な分析ツールも出てきています。
近年、私たちの身の回りで急速に普及したのがキャッシュレス決済です。
財布から現金を出さなくても、スマホひとつやカード一枚で支払いが完了する便利さは、フィンテックがもたらした大きな恩恵でしょう。
日本でも2019年の消費増税に伴うポイント還元事業や政府のキャッシュレス推進策を追い風に二次元コード決済や非接触IC決済が広がりました。
実店舗のレジで二次元コードを見せたり、スキャンするだけで支払いが完了し、ポイント還元も受けられる利便性から多くの人が日常的に利用しています。
日本のキャッシュレス決済比率は、2022年に36.0%と年々上昇しており、取扱高は年間111兆円を超えました。2023年には39.3%まで達し、政府目標の「2025年に40%」に手が届く勢いです。*4
ここまで解説してきたとおり、昨今注目を集めるフィンテック企業のこれからについて、市場規模とそれを踏まえた将来性の観点から紹介していきます。
フィンテック市場は国内外で急速に拡大しています。国内市場を見ると、2018年時点では約2,145億円規模だったフィンテック市場が、2022年度には1兆2,102億円にまで拡大すると予測されています。
実際、2023年時点の日本のフィンテック市場規模は約2.6兆円と推定されており、2025年までに3.3兆円規模に達する見込みです。*3
キャッシュレス決済やスマホ銀行の普及、そして政府の後押しも成長要因となり、フィンテックが金融業界に占める存在感は年々高まっています。
一方、世界のフィンテック市場はさらに大きなスケールで成長中です。2021年時点で2,450億ドル(約33兆円)規模だった世界のフィンテック分野は、2030年までに1兆5,000億ドル(約200兆円)に達すると予測されています。*3
これはこの10年で6倍以上に膨らむ計算で、特にアジアや北米での拡大が顕著です。
アジアではスマホ決済ユーザーが急増し、北米ではAIを活用した高度な金融サービスが普及するなど、各地域でフィンテックが金融の在り方を変えつつあります。
日本国内でも、都市部だけでなく地方銀行によるデジタル化や中小企業向け金融サービスの需要増加が市場拡大を後押ししています。*3
フィンテックの将来を考える上で、新たなテクノロジーとの融合は欠かせないテーマです。まず、ブロックチェーン技術の更なる活用が挙げられます。
ブロックチェーンは仮想通貨の基盤技術ですが、その応用範囲は金融取引の透明性向上から契約の自動化まで多岐にわたります。
特にスマートコントラクトと呼ばれる自動契約技術は注目度が高く、あらかじめ定めた条件が満たされるとブロックチェーン上で契約や取引が自動的に実行される仕組みです。*5
例えば融資業務にスマートコントラクトを導入すれば、契約条件が整った瞬間に貸付が自動実行され、手続きの透明性と効率性が向上します。*6
仲介者を介さずに迅速・確実に取引が完結するため、将来的には融資審査や保険金支払いの完全自動化も夢ではありません。
また、AI(人工知能)とフィンテックの融合も一層進むでしょう。現在でも顧客対応のチャットボットや不正検知システム、与信スコアリングなどでAIが活用されていますが、今後はより高度な領域に広がります。
例えばAIが膨大な取引データからリスクをリアルタイム分析し、個別の利用者に最適な融資条件や投資アドバイスを提示するといったことも可能になります。*3
私たちの生活は、この10年ほどでフィンテックによって大きく様変わりしました。
数年前には「スマホでお金を払えるなんて便利だ」と新鮮に感じたキャッシュレス決済も、今や当たり前の光景となっています。
気づかないうちに日常生活や買い物、資産運用の中にフィンテックサービスが溶け込み、誰もがその恩恵を受ける時代になりました。
「〇〇ペイ」でコーヒーを買い、非接触ICで電車に乗り、アプリで積立投資をする。これらは特別なことではなく、ごく普通の生活の一部となりつつあります。
これから先、フィンテックはさらに進化し続けるでしょう。AI技術の飛躍的発展も追い風となり、フィンテック市場は今後も世界的な拡大と発展が予測されています。
もっとも、フィンテックの発展に伴いサイバーセキュリティや個人情報保護といった課題にも引き続き注意が必要です。しかし各国の法整備や企業の取り組みも進んでおり、安全で信頼できるサービス基盤が築かれつつあります。
金融リテラシーを高め、便利なサービスを上手に活用することで、私たちの生活はますます豊かになるでしょう。
本コラム執筆時点における情報に基づいて作成しておりますので、最新情報との乖離にご注意ください。
最終的な投資判断、金融商品のご選択に際しては、お客さまご自身の判断でお取り組みをお願いいたします。
出典
*1 Monsterlab Blog「FinTech(フィンテック)とは? 言葉の意味を具体例とともにわかりやすく簡単に解説」
*2 Triple A「Cryptocurrency Ownership Data」
*3 ITreview Labo「FinTech(フィンテック)とは?意味や具体例をわかりやすく簡単に解説!」
*4 経済産業省「2022年のキャッシュレス決済比率を算出しました」
*5 stripe 「フィンテックとは: 金融テクノロジーのガイド」
*6 電通総研「テクノロジーによる融資業務の変化と新たな課題」