2023年10月3日、ドル円相場は約1年振りに150円台まで円安が進みました*1。
ニュースでも取り上げられることの多い円安ですが、なぜここまで話題になるのでしょうか。
円安は物価や企業の収益、外貨建て資産の価値など影響を与える側面が多岐に渡ります。
本記事では、円安が日常生活や投資に与える具体的な影響とともに、円安が発生している原因も合わせて解説します。
円安とは、外国の通貨に対する円の価値が相対的に低くなることを指します。反対に、円の価値が相対的に高くなることが円高です*2。
1ドル100円のときに、1ドルのジュースを購入するケースを考えてみましょう。このときジュースを1つ購入するには100円が必要です。しかし1ドル110円に為替レートが変動すると、ジュース1つ購入するには110円が必要となります。同じものを購入するために、100円で足りたものが110円必要になってしまうので、円の価値が低くなったといえます。この状況が円安です。
1ドル90円に変動したとすると、100円で購入できていたジュースが90円で足りるので、円の価値が高くなったといえます。この状況は円高です。
日米の金利差が開いたことにより、投資家の間で円を売ってドルを買う動きが強まったのです。このように円安とは他の通貨と比べて、円の価値が下がっていくことを意味します。
円安が進んでいる主な原因として、日米の経済政策と金利差が挙げられます*3。
アメリカでは物価上昇を防ぐために、金融引き締め政策を行い長期金利が上昇。日本ではコロナ禍からの景気回復を目指すために、金融緩和政策によって長期金利が低水準の状態となっています。
2023年10月26日時点のアメリカの長期金利は約5%をつけ、日本の長期金利は約0.885%でした*4。
金利の高いドルで運用した方が利息を見込めるので、ドルの需要が高まり日本円が売られる傾向が強まります。
これら需要の変化も一つの要因として円の価値が下がり、円安が進む結果となりました。
為替が動くと経済にさまざまな影響を与えます。メリットとデメリットの両側面があるのですが、ここでは以下の点について見ていきましょう。
円安による企業への影響を考えると、一般に輸出企業にとってはメリット、輸入企業にとってはデメリットになります。
海外の企業から見ると円安によって日本の製品を安く買うことが可能です。そのため輸出先市場で日本製の製品価格が下がり、次第に輸出増加につながります*5。
輸出企業のなかで、2022年10月時点で商品や部材の輸出量を増やしたり、増加を考えている企業の割合は約38%です*6。
1個3,000円の商品をアメリカの企業が輸入するケースを考えてみましょう。1ドル100円だと30ドル必要なのに対して、1ドル150円だと20ドルに輸入コストが下がります。そのためアメリカ企業は、現地で販売するときに価格を下げることが可能です。
日本製品が価格競争で有利になり、売上増加が見込めます。円安によってプラスの影響を受けた企業の主な理由は「海外での販売価格が下がり売り上げが増えた」ということも分かっています*7。
反対に輸入企業にとっては、海外製品の輸入コストが増加するためデメリットとなります。輸入コストとは商品や原材料の価格だけでなく、燃料などの価格が上昇することも含まれています。
現在の円安局面では、60%以上の企業が悪影響を受けているとされています*8。
出所)帝国データバンク 円安により6割超が業績に悪影響 p.2
輸入コストが上がった分を全て価格に転嫁することは容易ではありません。それが企業の利益を圧迫する状態となっているのです*9。
2023年度の上半期でコスト上昇による利益圧迫に耐えられず、物価高倒産に至った企業は334件で前年同期の2.7倍に急増しました*10。経営体力に余裕がない中小・零細企業を中心に大きなダメージを負っています。
消費者にとって、現在の円安は物価高騰に繋がっているために、デメリットといえます。食料品の値上げが相次ぐなか、2023年度上半期における家計への食費負担額の試算は1ヶ月あたり最大で4,058円増とされました。しかしながら7月までの実際の支出データは月平均373円と、約3,700円の食費支出が「節約」により圧縮された可能性があります*11。
そのうち約半分が食料品を占めており、電気代やガソリン代などのエネルギー関連支出が続きます。
このように企業だけでなく、消費者にまで物価上昇の影響は及んでしまいます。
円安による電気代やガソリン代への影響についてはこちらの記事を参考に読んでみてください。
→円安が電気代やガソリン代に与える影響とは?
外貨建ての資産を持っているときは円安になるとメリットを享受できます*12。
1ドル100円のときに10万円を1,000ドルに両替して外貨預金に入れておくケースを考えます。1ドル110円に変動すると円換算で11万円です。為替が変動するだけで1万円の利益を得ることになります。
さらに外貨預金をしている場合、預入中に外貨で利息が発生します。この利息も円安に変動すると利益額が増えることになります。
定期預金であれば一般に満期日まで引き出すことはできませんが、普通預金であればこれ以上円安にならないと予想されるとき、引き出して利益を確定させるのもよいでしょう。
円安は海外からの旅行客にはメリット、日本から海外旅行に行く人にはデメリットとなります。
円安によって日本製品を安く購入できるのは企業だけではなく、旅行客も同じです。円を安く調達し宿泊費や食事代に充てることができるため、インバウンド需要が期待できます。このため政府も、円安で魅力が増した海外からの旅行客を呼び込もうと、5兆円規模の旅行消費を目指しています*13。
実際2023年9月までの合計の訪日外国人旅行消費額は約3.6兆円となっており、年5兆円の政府目標達成も視野に入る勢いです*14。
反対に日本人が海外旅行に行くと、宿泊費や食事代は割高となることに加えて、物価高による燃料の高騰で割高となってしまいます。
円安の影響は、子供の海外留学を検討している親にとって、費用の面で考慮が必要です。
日本政府は為替相場の激しい変動によって、過度な影響を抑えるために相場の安定を図ることがあります。この操作が為替介入です*15。
過度な為替変動によって倒産のような悪影響が広がると、日本経済の低迷につながります。
それを防ぐために日本では財務大臣の権限によって、日本銀行が為替介入を実施しています。
為替介入では、多くの人に様々な影響を与えるので、財務大臣も発言はとても慎重に行います。為替介入を実施したことを公言することもあれば、公言しないこともあります*16。
このように日本政府は為替を注視しており、経済の安定化を目指しています。
今回は円安の原因や影響、過度な変化による悪影響を抑えるための為替介入について解説しました。未来の為替が、どのように動くかは誰にも分かりません。
しかし、円安のメリットとデメリットを理解しておくことで、実際に為替が動いたときに何を考えるべきかを知ることができます。今回の円安をいい機会として、今後の考え方に活かしていきましょう。
本コラム執筆時点における情報に基づいて作成しておりますので、最新情報との乖離にご注意下さい。
*1 日本経済新聞 円が150円台に下落 米金利高で1年ぶり、値動き激しく
*2 日本銀行 円高、円安とは何ですか?
*3 経済のプリズム 円安、資源高、海外情勢と日本経済p.14
*4 NHK News Web 長期金利 0.885%に上昇 約10年ぶりの水準に
*5 JETRO 円安下、半数近くの商品が輸出量を伸ばす(日本) 全体では鈍い動き、しかし半数近くの商品で輸出数量増
*6 東京商工リサーチ 1ドル=143円 企業の半数以上が「マイナス」 食材の輸入コスト上昇で飲食店の影響が拡大
*7 帝国データバンク 円安により6割超が業績に悪影響p.4
*8 帝国データバンク 円安により6割超が業績に悪影響p.2
*9 円安で景気は回復するのか? 3.1企業業績の悪化要因p.6
*10東京商工リサーチ 年度上半期の「物価高」倒産が急増 前年同期比2.7倍の334件、コストアップの吸収が難しく
*11 Yahooニュース 4月から1世帯「月3700円」 食費節約の試算 値上げ疲れ鮮明、10月以降も家計負担重く
*12 三菱UFJ銀行 外貨預金で円安になったら、円高になったら、どうなる?
*13 首相官邸 観光立国推進閣僚会議
*14 首相官邸 観光立国推進閣僚会議
*15 日本銀行 為替介入(外国為替市場介入)とは何ですか? 誰が為替介入の実施を決定し、誰が為替介入を行うのですか?
*16 金融庁 鈴木財務大臣兼内閣府特命担当大臣・神田財務官共同記者会見の概要 最後の応答より