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保護猫活動を愛する儲からない人たちは、何を求めているのか
保護猫活動を愛する儲からない人たちは、何を求めているのか

保護猫活動を愛する儲からない人たちは、何を求めているのか

2024/02/14・提供元:マダムユキ

わが家では保護猫を1匹飼っている。シャムミックスのメス猫で、一緒に暮らしてかれこれ1年だ。

今ではすっかり甘えん坊だが、うちに迎えた時点で2歳を過ぎた大人だったので、新しい人間と環境に慣れてもらうのには思った以上の時間がかかった。夜になると人間と同じベッドで一緒に眠ったり、膝に乗るようになったのは最近のことだ。


子猫のうちに迎えた方が順応性が高いのだろうし、保護猫カフェには人間によく慣れた子猫たちも多くいたけれど、私は当初から大人の猫を希望していた。子猫の可愛さは格別でも、遊び相手が大変だからだ。

その大変さは、自分たちで野良猫の母子を保護した際に経験済みだった。

私たちは保護猫を迎えるより数ヵ月前に、当時住んでいた社宅の庭に現れた母子の野良猫を世話していた。


最初は、ほんの軽い気持ちだった。

3年前の春、夫の仕事の都合で一戸建ての社宅に入居した当初から、母猫の姿はよく見かけていた。日本の野良猫に多いキジトラで、彼女もそのあたり一帯を縄張りにしている野良だったのだろう。


社宅周辺には猫が多く、春の間は鳴き声が響いてやかましかった。やがて盛りの時期を過ぎると静かになったが、9月も終わりに近づいたある日のこと、彼女が2匹の子どもを連れてうちの庭に現れたのだ。

親子ともども痩せていて、猫用のドライフードをあげると「んみゃい!んみゃい!」と鳴き声を上げながらがっついたので、よほど飢えていたと思われる。


彼女は賢い猫だった。

初めのうちこそ警戒していたが、「この家ではたっぷりご飯をもらえる」と学習すると、食事の入った皿を目当てに我が家の庭を夜ごと訪れるようになり、一週間も経つ頃には、午前中から私たちを玄関で待ち伏せし、エサをねだるようになったのだ。そのうち、すっかり庭にいつくようになってしまった。


自分で餌付けしておいて勝手だが、いざ社宅の庭を猫たちに占領されると困ってしまった。夜間に子猫たちが遊ぶ物音と鳴き声がうるさくて近所迷惑だし、花壇にされる糞尿が匂うし、何より猫の繁殖力の強さが心配だ。

とりあえず母猫だけでも捕まえて、早急に不妊手術を施さなければ、これから先うちの庭で猫がどんどん増えてしまう。


けれど、それまで野良猫を保護した経験がなかったので、警戒心の強い猫をどう捕まえて、どこの病院へ連れて行けば良いのか分からなかった。

そこで頼ったのが、その地域で猫の保護活動をしている動物愛護団体だ。

動物愛護団体と言っても、きちんと組織化されているわけではなく、有志の主婦の集まりだった。子育てを終えて、仕事も定年退職し、できた時間とお金の余裕を猫の保護活動につぎこんでいる人たちだ。


活動は手弁当で、保護した猫の餌代や病気の治療費は持ち出しが多い。なかには、


「20年以上この活動をしてきて、これまで猫の避妊去勢手術のために1,000万円近く使っちゃった。だから、自分の老後資金は全然ないのよ」


なんて笑っている猛者もいた。その人の家には、なんと17匹もの猫がいるのだ。

野良猫は、捕まえて保護しても譲渡に結びつくとは限らない。病気や障害持ちだったり、容姿が可愛くなかったり、人間に慣れないなどの理由で、どうしても引き取り手のいない猫たちがたまっていく。そうした行き場のない猫たちを愛護団体のメンバーが引き受けていくので、どんどん多頭飼いになってしまうのである。私には、そうした環境は猫にとっても人間にとっても幸せだと思えなかった。


当初の私たちの希望は、猫たちに不妊手術を施してから元の場所へ戻し、地域猫にすることだった。いわゆるTNR(Trap 捕獲、Neuter 運搬、Return 解放)と言われる活動である。

けれど、愛護団体の人から


「地域猫だなんてとんでもない!猫にとって、お外の暮らしは過酷なんですよ。

母子ともにすぐ保護してください。特に子猫は急がないと、可愛い時期を過ぎるともらわれにくくなってしまいますからね。大丈夫、子猫ならすぐにもらい手がつくので、そちらで保護する期間は1ヵ月もありません」


と説得され、結局3匹まとめて捕まえた。

その後の段取りがスムーズであれば良かったのだが、実際には「こんなはずではなかった」と思うことの連続だった。

特に想定外だったのは、2ヵ月経っても子猫のもらい手が一向に現れなかったことだ。

可愛い子たちだったのに、譲渡会やSNSに出しても、ジモティーや里親募集に登録しても反応がない。


「おかしいわねぇ。ちょっと前まで子猫は人気で、すぐにもらわれたんだけど...。もうコロナ需要が落ち着いちゃったのかしら」


そんな無責任な...。


紆余曲折のすえ、2匹の子猫たちは親戚が引き取ってくれることになり助かったが、残る問題は母猫だった。彼女は人に慣れようとせず、連日連夜「外に出して」と鳴き続けており、この状態での譲渡は絶望的だ。


「猫もこっちもこれ以上は限界」というところまできて、とうとう私たちは愛護団体の反対を押し切り、母猫を外に放した。

飛び出ていった彼女が戻ってくるか不安だったけれど、3時間ほどでうちへ帰ってきた時の安堵と喜びは、ちょっと言葉では言い表せない。


私たちは彼女に「さくら」と名前をつけ、あせらずゆっくり仲良くなることにした。

避妊手術を施したしるしに、耳先をさくらの花びらの形にカットしたので「さくら」である。安易な名前だけれど、やはり名前をつけると以前に増して愛情がわくものだ。


さくらの方でも、解放されたことでようやく人間を信用する気になったらしく、外に出てからは私たちの前でゴロンゴロンと床を転がってお腹を見せたり、前足をふみふみして甘える仕草をしたり、撫でさせてくれるようになった。大きな進歩である。


この調子であれば、一緒に暮らしていけるかもしれない。

そんな希望を持てた矢先に、社宅の閉鎖が決まった。私たちが入居して1年しか経っていなかったけれど、元が古い物件だったので、取り壊しと土地の売却は時間の問題だったのだ。


「もう今さら、さくらと離れることも置いていくこともできないし、こうなったら、どんなに鳴いても家猫にするしかない」と覚悟を決めて、さまざまな準備を整えていた最中、肝心のさくらが忽然とすがたを消してしまった。

近所中を探し回ったし、保健所や警察にも当たってみたが、それらしき猫は見つからない。


一体どうして?


もともと野良猫なのだから土地勘はあるはずで、迷子は考えられない。警戒心が強く賢い猫なので、私たち以外の人間に捕まるとも思えない。

ひょっとして急な病気や怪我で動けなくなり、どこかに隠れたまま死んでしまったのだろうか。いくら考えても分からなかったし、真相は知りようがなかった。残されたのは、大きな喪失感だ。


猫で空いた穴は猫で埋めるしかないとばかりに、私は保護猫カフェ巡りをするようになっていた。何度も通ううち親しくなった猫カフェのオーナーに、「実は、飼おうとしていた猫が居なくなっちゃったんです...」と漏らしたところ、「それなら、新しい猫が必要ですね!」と、保護猫のお迎えを強く勧められたのである。


「え?いきなりそう来る?」


と面食らってしまったが、保護猫カフェのオーナーとしては当然だろう。「ずっとのお家」を求める猫は、カフェにも山ほどいるのだから。

少しだけ迷ったが、さくらのためにペット可の賃貸物件を契約していたし、一通りの準備も整えていたので、猫を迎える体制はできていた。さくらの代わりに、保護猫を迎えるのもいいかもしれない。


結局そのカフェから一匹迎えることになるのだが、その時は即答を避け、一応他の猫カフェも一通り回って、オーナーたちと話をしてみることにした。

カフェから保護猫を迎えるにあたっては、オーナーとの相性も重要だと考えたからだ。何人もの猫カフェオーナーたちと話をしてみて分かったのは、保護活動をしている人たちは、不思議なほど横のつながりを持たないことだ。連携して活動した方が効率的だし、政治力も持てるのではと思ったけれど、その理由はすぐに分かった。


同じ猫好きでも、猫の命や幸せに対する考え方は人それぞれなのである。正解のない問題だけに、方針の違いは埋め難いのだろう。

猫のためにどこまで労力と資金を出せるのかも人によって違うため、初めはグループで活動していても、後に分裂や解散をして、個人で活動を続ける人も少なくないようだ。


動物の保護活動にはお金がかかる。私自身、3匹の猫たちの医療費、不妊手術代、エサ・猫砂・オモチャの購入費、譲渡先の家まで子猫たちを運ぶ交通費で、たった2ヵ月の間に10万円以上ものお金が飛んで行った。

それほどお金がかかったのは、調査不足で、無知だったせいもある。


後になって分かったことだが、住んでいた場所から車でいける距離に、TNR活動に協力している動物病院があったのだ。


もし、そこへ保護した猫たちを持ち込んでいれば、条件によっては無料。そうでなくても格安で、ノミ取り・不妊手術、ワクチン接種をセットでしてもらえたのである。しかも、そこでは保護の前から手術の予約を受け付けてくれるため、手術予定日に合わせて直前に保護すれば良く、保護してから手術まで待つ必要もなかった。

もっと早くそうした病院の存在を知っていれば、色んな面で負担が軽く済んだはずだ。


その動物病院の先生は、すでに年金生活者で、第2の人生を社会貢献に捧げたいと考え、格安で猫の不妊手術を請け負っているそうだ。


先生曰く、


「私は年金で暮らしていけるから利益が出なくてもやっていけるのであって、現役だったら、とてもこんな値段ではできません。クリニックの経営を考えなければいけないし、自分たちの生活もある。だから、現役医師たちの邪魔にならないよう、宣伝はせずにひっそりやっているんですよ」


とのことだった。宣伝せずとも評判は口コミで広がっており、近隣県からも保護活動をしている人たちがひっきりなしに訪れている。


その病院の存在を知ってからすぐに、お世話になった動物愛護団体が解散した。何があったのかは知らないが、理由は「そうした団体の例に漏れず」といったところだろう。


グループでの活動は休止し、今後は各個人で活動していくとのことだったので、私はメンバーの1人に連絡を取って、TNR活動協力病院の住所と連絡先を伝えた。

個人での活動となると寄付金が集まらず、今後はなおのこと不妊手術代や医療費が負担になっていくはずだからだ。どんなに志が高くても、資金面の問題をクリアしなければボランティアはやっていけない。


その後、その人のSNSでは、頻繁に猫を連れてその動物病院へ通う様子が投稿されているので、私も少しは活動の助けになれたと思うとうれしい。

私自身がボランティア活動に身を投じる余裕は今のところ無いけれど、世の中から少しでも殺処分される猫が減ることを願っている。



マダムユキ

最高月間PV40万のブログ「Flat 9 〜マダムユキの部屋」管理人。


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