
メモリ価格だけ?AIがもたらす半導体スーパーサイクルの影響と今後の動向は?
世界的な半導体メモリ不足が続き、その価格もどんどん上がっています。背景にあるのはAI向けの需要の急拡大です。
半導体メモリは「スーパーサイクル」に入ったとの意見も投資家の間で出始めました。
スーパーサイクルとは、商品などが通常の景気循環による価格変動から切り離され、長期的な価格上昇局面に入ることです。
スーパーサイクルとは何か、スーパーサイクルが起きると市場にはどのような影響が出るのか。解説していきます。
いま、半導体メモリは争奪戦の様相を見せています。
グローバル調査会社のカウンターポイントは、メモリ価格は2025年10月から12月の間に40~50%上昇、さらに2026年1月から3月にかけても同じ程度の価格上昇が見込まれるとしています。*1
つまり2025年10月から2026年3月の半年間で価格が2倍以上に高騰する、という計算です。
ここまでの高騰の背景にあるのは、他でもないAIに必要なデータセンターからの爆発的な需要アップです。
メモリ企業はAIデータセンター向けの供給を優先しています。
「高値で売れるから」という事情があるためです。
米NVIDIAなどが手がけるデータセンター向けの画像処理半導体(GPU)には、「広帯域メモリ(HBM)」という高性能メモリが欠かせません。この種類のメモリは他より商品価格が高く、データセンター建設ラッシュのいま、生産側にとっては「ドル箱」状態になっています。
一方で半導体全体の生産能力は限られていますから、大手メーカーがこちらへの供給を優先すれば、他の種類(DRAM、フラッシュ等)の生産が追いつかず、他業界での供給不足と価格高騰を招いている、というのが現状です。
メモリ企業にとっては大特需です。
国内市場では、キオクシアホールディングス(前・東芝メモリ)の2027年3月期の営業利益が4兆円と、同じ時期のトヨタ自動車の営業利益の見通しの3兆円を上回ると予測されています。*2
また、キオクシアホールディングスの2026年7~9月期における連結純利益(国際会計基準)が、前年同期比31倍の1兆2,700億円になる見通しであると発表されました。*2
そして海外メーカーも大躍進しています。
韓国半導体大手のSKハイニックスは2026年1~3月期の連結純利益が前年同期比5倍の40兆3,460億ウォン(約4兆3,000億円)、サムスン電子の半導体部門は営業利益が前年同期比49倍の53兆7,000億ウォンという伸びでした。
前の年から利益が何倍、何十倍という単位で増えている驚きの数字です。しかし、投資家からすると手放しで喜ぶわけにはいかない現実があります。
今の値上がりやメモリ企業の伸びが永遠の右肩上がりかどうかは誰にもわかりません。ただ、ITバブルの時に起きた「スーパーサイクル」のようなものなのではないか、という議論もあります。
では「スーパーサイクル」とは何でしょうか。
明確に定義するのは難しいのですが、商品などが通常の景気循環による価格変動から切り離され、長期的な価格上昇局面に入ることをさします。
商品などの需要が長期にわたって高まり続ける状態のことです。
半導体に関して言えば、業界は一般に4年程度の周期で好不況を繰り返す「シリコンサイクル」に従って景気循環します。*3
というのは、半導体は技術革新のスピードが速く、かつ生産設備の刷新に数千億円から兆円という単位の巨額な投資を必要とします。そのため設備投資のタイミングや在庫の見極めが難しく、好不況の波の変動が大きくなりやすい傾向にあるからです。
シリコンサイクルとスーパーサイクル
出典)第一ライフ資産運用経済研究所 「鬼は笑うかもしれないが…シリコンサイクルは2025年頭にはピークの可能性も」
半導体メーカーは不況期でも次の需要の波を捉え、大型の研究開発や設備投資を決断することを求められます。
ただ、2010年代後半には、シリコンサイクルに加え、「スーパーサイクル」というワードがよく聞かれるようになりました。*4
半導体業界でいえば、PCやスマートフォン、クラウドサーバーだけではなく、IoT、自動車、そしてAIと市場が爆発的に拡大していくので、単純なシリコンサイクルの時代は終わった、という考え方です。スーパーサイクルの中にあっても従来のサイクルが消えることはないものの、上昇局面ではシリコンサイクルの影響は小さくなります。
実際に上のグラフを見ても、半導体の売上高を前年と比べると、2020年あたりからシリコンサイクルを反映しつつも、それを超えて売上が伸び続けていることがわかります。
なお、調査会社である米IDCのプレジデント、クロフォード・デルプレテ氏は、「(現在の)世界の半導体市場には、人工知能(AI)の普及によって2017~18年のスーパーサイクル(需要急拡大期)の再来とも言える強い需要がある」と語りました。*5
そして半導体メモリの需要は、半導体企業への影響だけにとどまりません。半導体製造装置の業績にも影響します。*6
AI向けデータセンターへの投資が過熱しているとの懸念もあるなか、装置業界はスーパーサイクルに入るとの声が出ています。
国内最大手の東京エレクトロンの河合利樹社長は、10月末の決算説明会で、2026年の世界の前工程向け装置市場が「過去最高になるだろう」と明言しています。
加熱していく半導体市場ですが、実は全てのメーカーがシリコンサイクルやスーパーサイクルに乗れているとは限りません。
国内のAI関連株について、2027年3月期の業績予想をPER(=株価収益率)で見てみると、意外な事実がわかります。*7
PERとは「Price Earnings Ratio」の略で、「株価収益率」と表されます。株価がEPS(1株当たり純利益)の何倍の価値になっているかを示すものです。現在の株価が、その企業の利益と比べて割高か割安かを判断するのに使われる指標です。
一般的にPERの数字が大きいほどその株は割高、小さいほど割安と判断されます。*8
純利益予測の多い少ないにかかわらず、同じ半導体関連企業でもPERで見ると数字はまちまちです。特にキオクシアは、その低さが目立っていると言えるでしょう。
キオクシアのPERが他社より低くなっている理由として、このような事情が指摘されています。
キオクシアが専業にしている「NAND型」と呼ばれるメモリは、これまで主にデジタルカメラや携帯型音楽プレーヤー、スマートフォン向けに使われてきました。
そのため、半導体全体を見れば業績が好調であっても、AI向け製品で利益を膨らませた同業他社と比べると、「現在の収益水準は長続きしない」「収益力が限定的である」との見方があります。
AI分野で先行できていなかったことも理由の一つです。*9
その半導体メーカーが作っている半導体が最終的にどのように使われているのか、最終製品は何か、その製品の市況もチェックする必要があると言えるでしょう。
今は巨大テック企業が強気の投資を続けています。「AIバブル」という言葉も囁かれています。
しかし、過去のシリコンサイクルや一般的なバブルを見ると、右肩上がりが永続的に続くと考えるのは難しいことでしょう。半導体株がいまスーパーサイクルの中にあったとしても、いずれは供給過多の時代が訪れるかもしれません。いつまで、どのように続くかは、誰にも正確には読むことができません。
ですから投資にあたっては、同じ「半導体」といってもひとくくりにすることなく、最終製品の市場、設備投資のタイミングなどについても考慮する必要があります。
本コラム執筆時点における情報に基づいて作成しておりますので、最新情報との乖離にご注意ください。
本コラムの内容は、特定の金融商品やサービスを推奨あるいは勧誘を目的とするものではありません。
最終的な投資判断、金融商品のご選択に際しては、お客さまご自身の判断でお取り組みをお願いいたします。
出典
*1 日本経済新聞 「メモリー不足、半年で価格2倍超に 車業界『パニック買い』も」
*2 日本経済新聞 「キオクシア営業利益、27年3月期市場予想『トヨタ超え』 15日決算発表」
*2 日本経済新聞 「キオクシア7~9月純利益31倍の1兆2700億円 自社株買い、株式分割も」
*3 日本経済新聞 「シリコンサイクルとは 半導体市況、22年後半から悪化」
*4 第一ライフ資産運用経済研究所 「鬼は笑うかもしれないが…シリコンサイクルは2025年頭にはピークの可能性も」
*5 日本経済新聞 「米IDCトップ『半導体市場にスーパーサイクル再来』」
*6 日本経済新聞 「半導体装置に『スーパーサイクル』論 AI投資過熱も各社が強気見通し」
*7 日本経済新聞 「〈スクランブル〉キオクシア近づく『天井』」
*8 三菱UFJモルガン・スタンレー証券 「用語解説 PER(ピー・イー・アール)/株価収益率(かぶかしゅうえきりつ)」
*9 日経クロステック 「キオクシア、AI需要で大手クラウド攻略 NAND専業リスク『強みに転化』」
