働き方改革により、仕事のあり方に大きな変化が訪れました。
とくに「副業の解禁」は、これまでの日本では馴染みのない働き方であり、雇用する側もされる側も手探り状態といったところです。
そして副業の働き方として上位にくるのは、「アルバイト」と「業務委託」の二種類でしょう。
アルバイトは労働者なので、労働法の適用を受ける働き方であるのに対して、業務委託は労働者ではないため、その範疇から外れます。
「仕事をして収入を得る」という面では同じですが、業務委託は法律上労働者とみなされないため、たとえば労災保険や雇用保険への加入義務がありません。義務がないということは、逆に権利の行使もできないため、仕事に関わる怪我や病気の際にも、労災保険を使うことができない点に注意が必要です。
そこで今回は、労働者が安心して働くための保険制度のひとつ、「労災保険(労働者災害補償保険制度、以下「労災保険」)」について紹介しましょう。
このような「業務に起因する行為」による怪我や病気については、労災保険から給付を受けることができます。
他にも、通勤途中や、事業所間の移動中に事故に遭ってしまった場合も、労災保険が適用されます。
具体的には、
など、被災労働者の生活を補償する制度が労災保険です。
前出の例のように、業務中の怪我であれば労災保険が適用されることは明らかです。しかし、ある一定期間を経て発症するような「精神障害」や「脳・心臓疾患」についても、業務に起因すると認められれば保険給付が受けられることは余り知られていません。
ではこのようなわかりにくいケースでは、具体的にどのような場合に労災認定されるのでしょうか。
まずは、新規事業の担当となったことにより、「適応障害(精神障害のひとつ)」を発病したとして、労災認定された事例を紹介します*1。
「Aさんは、大学卒業後、デジタル通信関連会社に設計技師として勤務していたところ、3年目にプロジェクトリーダーに昇格し、新たな分野の商品開発に従事することとなった。しかし、同社にとって初めての技術が多く、設計は難航し、Aさんの帰宅は翌日の午前2時頃に及ぶこともあり、以後、会社から特段の支援もないまま1か月当たりの時間外労働時間数は90〜120時間で推移した。
新プロジェクトに従事してから約4か月後、抑うつ気分、食欲低下といった症状が生じ、心療内科を受診したところ「適応障害」と診断された。」
このように、職業柄または立場上、長時間労働になりがちなケースがあります。精神障害の認定要件として、
以上の3点を基準として審査が行われます。
この事例では、「新たな分野の商品開発のプロジェクトリーダーとなったこと」に加えて、恒常的な長時間労働が認められることから、「強い心理的負荷」と判断されました。
さらに、業務以外の心理的負荷や個体側要因について、「顕著なものはなかった」ということから労災認定されました。
次に、時間外労働時間数と出張の多さが原因となり、脳梗塞を発症し、労災認定された営業職の事例を見てみましょう*2。
脳・心臓疾患の労災認定は、
認定要件1 長期間の荷重業務
認定要件2 短期間の荷重業務
認定要件3 異常な出来事
これらの基準をもとに審査が行われます。
この事例では、「発症前3か月平均の時間外労働時間数が約64時間であったこと」に加えて、「出張の多い業務であったこと」などを総合的に評価した結果、業務と発症との関連性が強いことから、労災認定されました。
それでは、労災認定されたことにより、どのような保険給付を受けることができるのでしょうか?
通常、怪我や病気で医療機関を受診した場合、診察・治療代にかかる自己負担分を支払います。
しかし労災認定されると、治療や薬剤の支給を無償で受けることができ、この方法を「現物給付」といいます。
なお、現物給付は労災指定医療機関でなければ受けることができません。もし、労災指定医療機関以外で治療を受けた場合は、ご自身でいったん治療費を全額支払った後に、労働基準監督署へ請求することで返還されます。
補足として、労働災害による怪我や病気の治療に、健康保険を使うことはできません。そのため、業務上の傷病の場合は必ず、労災である旨を医療機関に伝えてください。
そして、労災による傷病で入院したり、治療が長引いたりすると、その期間は仕事を休むことになります。ノーワークノーペイの原則から、給与が支払われないことがほとんどですが、それでは生活に支障をきたします。
そこで登場するのが「休業(補償)等給付」と「休業特別支給金」という、現金給付です*3。
以上の3要件を満たす場合に、休業4日目から支給されます。なお、休業の初日から3日目までは、労働基準法に基づく休業補償として、1日につき平均賃金の60%を事業主が支払います。
金額については、休業(補償)等給付は給付基礎日額の60%相当額、休業特別支給金は給付基礎日額の20%相当額のため、併せて「給付基礎日額の80%」が休業に対する補償となります。
この「給付基礎日額」は、労働基準法の平均賃金に相当する額のため、労災事故発生日等の直前3か月間に、被災労働者へ支払われた賃金の総額(ボーナスや臨時に支払われる賃金を除く)を、その期間の歴日数で割った「1日当たりの賃金額」とイコールです。
ところで、労災認定されなかった怪我や病気、あるいは私傷病による休業の場合、何らかの所得補償を受けることはできないのでしょうか?
勤務先が法人か個人か、またご本人の労働時間などによっても異なりますが、健康保険に加入している場合は、休業4日目から「傷病手当金」が受給できます。
これは、労災保険でいうところの「休業(補償)等給付」に当たります。
今回は、「労働者のもしも」を守る労災保険の給付に焦点を当てたので、傷病手当金の詳細には触れません。
しかし、労災認定されなかった場合でも「健康保険制度から現金給付が受けられる」ということを覚えておいてください。
労働者の皆さんが安心して働けるように「労災保険制度」があります。もしもの時は是非、これらの保険給付を頼ってください。
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失業保険と失業給付の基本!給付要件を知って生活を守る
出典
*1 精神障害の労災認定/厚生労働省 p13
*2 脳・心臓疾患の労災認定/厚生労働省p13
*3 休業(補償)等給付 傷病(補償)等年金の請求手続 p1
*4 傷病手当金/全国健康保険協会