「タンス預金」は手元にあるのですぐ使えるなどのメリットがある反面、運用益を得られないなどのデメリットがあります。
また、タンス預金は税務調査との関係でも注意が必要です。相続税の調査の際に発見されて追徴課税を受けるケースや、まとめて銀行口座へ入金した際に所得税の税務調査を受けるケースなどがあります。
ご自宅にタンス預金がある方は、関連する注意点を正しく理解しておきましょう。
本記事では、タンス預金に関する注意点を幅広く解説します。
「タンス預金」とは、銀行などに預けるのではなく、家の中で保管されている現金の俗称です。高齢者などを中心に、日本では数十兆円規模のタンス預金が存在すると言われています。
タンス預金のメリットとしては、使いたいときにすぐ使える点や、銀行口座が凍結されても使える点などが挙げられます。
自宅で保管しているタンス預金は、使いたいときにすぐ使うことができます。
銀行の窓口やATMで出金したり、振り込み操作をしたりする必要がなく、手間なく使える点がメリットの一つです。
近年ではキャッシュレス決済の浸透により、預貯金や電子マネーがかなり手軽に使えるようになっていますが、キャッシュレス決済が苦手な方にとっては、タンス預金に安心感を覚えるかもしれません。
預貯金は銀行口座が凍結されると使えなくなってしまいますが、タンス預金は銀行口座が凍結されても使うことができます。
銀行口座が凍結されるケースとしては、本人が認知症に罹った場合、亡くなって相続が発生した場合、銀行が破綻した場合などが挙げられます。
銀行に多額のお金を預けている状況で口座が凍結されてしまうと、一挙に資金繰りが滞ってしまうおそれがあります。
タンス預金は銀行口座が凍結されても使えるので、こうしたケースへの備えになるでしょう。
タンス預金には心理的な安心感を覚える方も多いようですが、近年ではデメリットも広く認識されるようになっています。
タンス預金の代表的なデメリットは、以下のとおりです。
銀行に預けているお金には、利子が付きます。
また、近年注目されている株式や投資信託などを購入すれば、年数%程度の利回りが期待できます。
不動産を購入して他人に貸せば、賃料収入を得ることができます。
このように、持っているお金を資産運用に回せば、さまざまな形で運用益を得ることができます。
これに対して、 タンス預金は自宅に置いてあるだけなので、運用益を全く得ることができません。
長期的に見ると、資産運用をする場合に比べて、タンス預金のまま置いておくと損をしてしまう可能性が高いと考えられます。
タンス預金は、銀行に預けているお金などと異なり、物理的になくなってしまうリスクがある点に注意が必要です。
たとえば火災が発生すると、家にあるタンス預金が燃えてしまうおそれがあります。
家に泥棒が入れば、タンス預金は盗まれてしまうかもしれません。
また、タンス預金をどこに隠したか分からなくなり、そのまま忘れ去られてしまうケースもあります。
このようにタンス預金は、 災害・盗難・紛失などによってなくなってしまうことがあるので十分ご注意ください。
タンス預金は脱税に使われやすい側面があるため、税務当局は警戒を強めています。
次の項目で解説するように、タンス預金が見つかったことをきっかけとして 脱税が疑われ、多額の追徴課税を受けてしまうことがあります。
タンス預金について脱税を疑われるきっかけとしては、主に以下の2つのケースが挙げられます。
タンス預金を所有している本人が亡くなって相続が発生すると、しばらくしてから税務調査を受けることがあります。
税務調査の目的は、相続税の申告・納付が正しく行われているかどうかを調査することです。
税務調査には「簡易な接触」と「実地調査」の2パターンがあります。
簡易な接触は文書・電話・税務署での面接などによって行われますが、実地調査は納税者の自宅などにおいて行われます。
実地調査をした際に亡くなった家族のタンス預金が発見され、その金額が申告されていないと、追徴課税の対象になるので注意が必要です。
なお、令和4年事務年度における相続税の実地調査の件数は8,196件です。*1
相続税の税務調査は申告がなされた年度の2年後に行われるケースが多いところ、令和2年分における相続税申告の件数は12万0,372件でしたので*2、全体の6~7%で実地調査が行われたことになります。
特に多額の財産を相続した場合には、実地調査の対象になりやすいのでご注意ください。
税務当局は、税金の申告・納付が正しく行われているかどうかを確認するため、納税者の預貯金の入出金状況をチェックすることができます。
タンス預金を銀行口座にまとめて入金した場合、その記録が税務当局に確認されると、申告外の所得が発生したことが疑われ、所得税の税務調査の対象となることがあります。
所得税の税務調査は、原則として過去3年分遡って行われますが、不正が疑われる場合は過去7年分まで遡って行われることがあります。
税務調査の際にタンス預金が発見され、その入手経緯について合理的な説明ができないと、追徴課税を受ける可能性があるのでご注意ください。
2024年7月に、千円札・五千円札・一万円札が新たなデザインに刷新されました。
新紙幣発行には、タンス預金をあぶり出す目的があるのではないかという説が一部で提唱されているようです。
同説はおおむね、「新紙幣に交換しようとして、多くの人々がタンス預金の旧札を銀行などへ持ち込むだろう」という予想を根拠としています。
しかし、上記のような行動が本当に促されるのかどうかには疑問があります。新紙幣に交換しなくても旧札は引き続き使えるので*3、わざわざ交換する必要性に乏しいためです。
財務省は、新紙幣発行の目的を 「より偽造しにくく、誰にとっても使いやすい紙幣となるようにするため」*4としています。
「新紙幣の発行の目的は、タンス預金をあぶり出すことである」とする説は、俗説の域を出ないというべきでしょう。
本コラム執筆時点における情報に基づいて作成しておりますので、最新情報との乖離にご注意ください。
*1出典)国税庁「令和4事務年度における相続税の調査等の状況」p1
*2出典)国税庁「令和2年分相続税の申告実績の概要」p1
*3参考)日本銀行「これまでに発行されたお札のうち、現在使えるお札はどれですか? 古いお札を持っていますが、現在も使えますか?」
*4出典)財務省「なぜ紙幣や貨幣のデザインを変えるのですか」