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認知症になった親の銀行口座が凍結されたらどうする?事前の対策は?弁護士が解説
認知症になった親の銀行口座が凍結されたらどうする?事前の対策は?弁護士が解説

認知症になった親の銀行口座が凍結されたらどうする?事前の対策は?弁護士が解説

2024/09/19に公開
提供元:阿部由羅

口座名義人が認知症になったことを知った銀行は、預金口座の入出金を停止する措置をとることがあります。親などの親族に認知症の兆候が見られるときは、突然口座が凍結されて焦らないように、対応策を事前に検討しておきましょう。

本記事では、認知症による口座凍結を解除する方法や、口座凍結に備えた事前対策などを弁護士が解説します。


口座名義人が認知症になると、銀行口座は凍結される

銀行口座の名義人が認知症になると、本人の資産を守るために、銀行側が口座凍結の措置をとることがあります。


認知症になると銀行口座が凍結される理由

認知症になった人の銀行口座が凍結されるのは、さまざまなトラブルから口座名義人の資産を守るためです。

認知症によって判断能力が低下した人は、他人に騙されやすくなったり、不必要なものを買ってしまったりするリスクが高くなります。
民法では、判断能力が低下した人の資産を保護するため、意思能力(=自らの行為の結果を判断する能力)がない人が締結した契約などは無効であることを定めています(民法3条の2)。

銀行においても、上記のような事情を踏まえて、口座名義人の資産を各種のトラブルから守るために、認知症になったことが分かったら銀行口座を凍結するケースが多いです。
ただし、認知症になったら必ず銀行口座が凍結されるわけではなく、銀行のポリシーなどに照らして個別具体的に判断されます。


銀行口座が凍結されるタイミング

銀行口座が凍結されるのは、口座名義人が認知症に罹っている疑いがあると銀行側が判断した時です。
認知症であることを本人や家族が銀行側に伝えた場合のほか、窓口対応の際に銀行側が認知症の兆候を感じ取った場合などにも、口座凍結の措置がとられることがあります。

なお、医師から認知症の診断を受けたとしても、医師は守秘義務を負っているので、その事実を銀行側に共有することはありません。銀行口座が凍結されるのは、あくまでも銀行側が独自のきっかけにより、口座名義人の認知症を疑うに至った場合です。


認知症による口座凍結を解除する方法|成年後見人の選任

認知症を理由に銀行口座が凍結された場合、凍結を解除するためには、家庭裁判所に「成年後見人」を選任してもらう必要があります。


成年後見人の役割

「成年後見人」とは、判断能力が低下した本人に代わって、契約などの法律行為をする人です。
自力では契約締結などを適切に行うことができない本人に代わり、十分な判断能力を持つ成年後見人が契約締結などの判断をして、詐欺などのトラブルから本人の資産を守ります。

成年後見人は、日用品の購入その他日常生活に関する行為を除き、成年被後見人の法律行為を取り消すことができます(民法9条)。

また成年後見人は、本人の財産を管理し、かつその財産に関する法律行為(契約など)について本人を代表します(民法859条1項)。
財産の管理権を持つ成年後見人は、本人の預貯金についても管理権を有し、銀行口座の入出金などを本人に代わって行うことが可能です。


成年後見人の選任手続き

成年後見人を選任してもらうためには、本人の住所地の家庭裁判所に対して後見開始の申立てを行います。本人のほか、配偶者や四親等内の親族なども後見開始の申立てをすることができます。

後見開始の申立ての必要書類や費用などは、裁判所ウェブサイト*1をご参照ください。

家庭裁判所は、本人との面談などを行った上で、本人の判断能力が失われていると判断した場合には後見開始の審判を行い、成年後見人を選任します。

成年後見人の候補者は、申立ての際に推薦することができます。ただし、家庭裁判所は独自の判断によって適任者を選任するので、推薦した候補者が選任されるとは限りません。
本人の親族が成年後見人に選任されるケースもある一方で、弁護士・司法書士・社会福祉士などの職業専門家が選任されるケースが多くなっています。*2


成年後見人選任後の口座凍結解除の手続き

成年後見人が選任されたら、銀行に対してその旨を伝えて口座凍結の解除を申請しましょう。
口座凍結解除の申請に当たっては、後見開始の審判書や確定証明書などの提出が求められます。必要書類については、銀行の窓口担当者にご確認ください。

なお、家庭裁判所の判断によっては、成年後見人が選任されないケースや、代わりに保佐人や補助人が選任されるケースもあります。
これらのケースでは、口座凍結の解除に必要な書類が変わる場合がありますので、銀行の窓口担当者にご確認ください。


認知症による口座凍結に備えた事前対策

認知症を理由に突然口座が凍結され、慌ててしまわないようにするためには、一例として以下の事前対策を講じることが考えられます。

  • 任意後見契約の締結
  • 家族信託


任意後見契約の締結

「任意後見」とは、将来的な判断能力の低下に備えて、本人が自分の意思で任意後見人を選任する制度です。家庭裁判所が後見人を選任する成年後見とは異なり、本人が信頼できる人を選べるなどのメリットがあります。

任意後見を利用するためには、まず公正証書で任意後見契約を締結する必要があります。公正証書は、公証役場に申し込めば作成することができます。

任意後見契約の締結後、認知症などにより本人の判断能力が不十分となった段階で、家庭裁判所に任意後見監督人選任の申立て*3を行います。
家庭裁判所によって選任される任意後見監督人は、本人の財産の管理などを行う任意後見人の職務を監督します。


家族信託

「家族信託」とは、信頼できる家族など(=受託者)に財産の管理を任せる制度です。成年後見や任意後見とは異なり、判断能力がまだ低下していない段階からでも、受託者に財産の管理を任せることができます。

家族信託では形式上、本人の財産の所有権を受託者に移転します。
たとえば預貯金の管理を任せる場合、その預貯金は受託者名義の口座で管理することになります。本人が認知症に罹ったとしても、受託者名義の口座は凍結されないので、通常どおり入出金を行うことができます。

さらに、信託契約でルールを定めることにより、財産の使い道や運用方法などを細かく指定できる点も、家族信託の大きな特徴です。

家族信託は弁護士や司法書士が取り扱っているので、利用する際には相談してみましょう。


まとめ

認知症を理由に銀行口座が凍結されてしまったときは、家庭裁判所に成年後見人の選任を申し立てましょう。また、任意後見制度や家族信託を利用すれば、認知症による銀行口座の凍結に備えて、事前の対策を行うことができます。

特にご両親が高齢に差し掛かっている方は、将来的な認知症のリスクに備えて、預貯金を含むさまざまな財産の管理方法についてあらかじめ考えておくことをおすすめします。



本コラムは執筆時点における情報に基づいて作成しておりますので、最新情報との乖離にご注意ください。

*1 参考)裁判所「後見開始」
*2 参考)最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況―令和5年1月~12月―」
*3 参考)裁判所「任意後見監督人選任」


阿部 由羅

ゆら総合法律事務所代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。
企業法務・ベンチャー支援・不動産・金融法務・相続などを得意とする。
その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。


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