平均寿命が延びたことにより、要介護者の認定者率は年々増加傾向にあり、今後も増えていくことが予想されています。
要介護認定者はほとんどが高齢者層にあたるため、介護費用は年金で賄うことも多いでしょう。しかし、年金で賄いきれない部分は、子が負担しなければならなくなるかもしれません。
そこで本稿では、介護の実態だけでなく、介護に関する公的な制度や、保険会社が販売する介護保険など、介護費用を賄うためにどのような選択肢があるのかを解説します。
要介護者は平成29(2017)年度末で628.2万人となっており、平成20(2008)年度末(452.4万人)から175.8万人増加しています。
また要介護者のうち、65歳以上である第1号被保険者は全体の18.0%を占めており、要介護者の高齢化の実態が浮き彫りになってきました。*1
引用)内閣府「令和2年版高齢社会白書(全体版)2 健康・福祉 (2)65歳以上の者の介護 ア 65歳以上の者の要介護者等数は増加しており、特に75歳以上で割合が高い 第1号被保険者(65歳以上)の要介護度別認定者数の推移」
また、要介護者等からみた主な介護者の続柄を見ると、6割弱が同居している親族です。主な内訳を見ると、配偶者が25.2%、子が21.8%、子の配偶者が9.7%となっています。
要介護者等と同居している主な介護者の年齢を見てみると、男性では70.1%、女性では69.9%が60歳以上であり、いわゆる「老老介護」のケースも相当数存在していることがわかります。
もし両親のどちらも介護になった場合は、子どもが介護をすることになる可能性も十分にあり得るのです。 *2
引用)内閣府「令和2年版高齢社会白書(全体版)2 健康・福祉 (2)65歳以上の者の介護 エ 主に家族(とりわけ女性)が介護者となっており、「老老介護」も相当数存在 要介護者等からみた主な介護者の続柄」
内閣府が55歳以上を対象に行った介護費用についての調査では、「年金等の収入でまかなう」が63.7%、「貯蓄でまかなう」が20.5%、「収入や貯蓄ではまかなえないが、資産を売却するなどして自分でまかなう」が4.0%、「子などの家族・親戚からの経済的な援助を受けることになると思う」が3.2%、「特に考えていない」が8.1%となっています。*3
ほとんどの高齢者が年金で介護費用をまかなうと回答していますが、実際にまかないきれるのでしょうか。
次項では、介護費用の実態について見てみましょう。
介護状態は「要支援1〜2」、「要介護1〜5」の7段階に分かれます。
要支援1が最も軽く、要介護5が最も重い状態です。*4
要介護1〜5に認定された場合は、最も手厚いサービスを受けることができます。
代表的なものは、施設に入所し生活を送る「施設サービス」です。
入浴、排泄、食事等の介護や、日常生活の世話、機能訓練、健康管理など全般的なサービスを受けられる、特別養護老人ホーム(介護老人福祉施設)などがあります。*5
要介護3から入所が認められる特別養護老人ホームなどの居宅サービスを利用する場合は、支給限度額が要介護度別に定められています。*6 *7
要支援1の場合は50,320円、要介護5の場合は362,170円です。
引用)厚生労働省「サービス利用者の費用負担等 <居宅サービスの1ヶ月あたりの利用限度額>」
限度額の範囲内でサービスを利用した場合は、1割(一定以上所得者の場合は2割又は3割)の自己負担があります。
限度額を超えてサービスを利用した場合は、超過分が全額自己負担です。
厚生労働省が発表している施設サービスの自己負担額は、特別養護老人ホームの場合でも10万円を超えます。
個室を利用する場合は14万円超と、介護保険制度を利用しても毎月多額の自己負担があるのです。*7
介護をする際、予想外に多額の自己負担を強いられ、年金だけではまかなえないことも考えられます。
もしかすると、子どもが介護費用を負担しなくてはならないかもしれません。
そのような場合はどうすればよいのでしょうか。
実は、多額の介護費用を負担しなければならなくなったときの救済措置があります。ここでは、自己負担を抑えるための制度を2つご紹介します。
福祉用具購入費や食費・居住費などを除く月々の利用者負担額の合計額が、所得に応じて決められた上限額を超えると介護保険から支給される制度です。
所得に応じた設定区分は4段階に分かれます。
例えば、生活保護を受給している場合は個人で1万5000円、市区町村民税課税世帯〜課税所得380万円(年収約770万円)未満の場合は世帯で4万4400円です。
支給を受ける際は、市区町村に申請しましょう。
同じ医療保険の世帯内で、医療保険と介護保険両方に自己負担が生じた場合は、合算後の負担額が軽減される制度です。
決められた限度額(年額)を500円以上超えた場合、医療保険者に申請をすると超えた分が支給されます。
高額医療・高額介護合算制度は年齢と年収によって負担上限額が異なります。
自己負担額が最も高いのは年収約1,160万円で212万円、最も低いのは市町村民税世帯非課税かつ年金収入80万円以下等(本人のみ)で19万円です。
介護費のみでの自己負担額が低く「高額介護サービス費」の支給が受けられない場合でも、医療費と合算することで「高額医療・高額介護合算制度」の支給が受けられる可能性があります。
お住まいの市区町村の対応窓口や、加入医療保険組合に問い合わせてみてください。
現在は「老々介護」の状態であっても、いずれその介護負担が子どもにのしかかることも考えられます。
いざという時に慌てないためには、事前に知識を蓄えておくことが重要です。
利用できるサービスや制度について理解を深め、最大限活用してください。
<あわせて読んでみよう>
親から贈与を受けたら税金に要注意 贈与税の仕組みと非課税にする方法を弁護士が解説
本コラム執筆時点における情報に基づいて作成しておりますので、最新情報との乖離にご注意ください。
*1 内閣府「令和2年版高齢社会白書(全体版)2 健康・福祉 (2)65歳以上の者の介護 ア 65歳以上の者の要介護者等数は増加しており、特に75歳以上で割合が高い」
*2内閣府「令和2年版高齢社会白書(全体版)2 健康・福祉 (2)65歳以上の者の介護 エ 主に家族(とりわけ女性)が介護者となっており、「老老介護」も相当数存在」
*3内閣府「令和2年版高齢社会白書(全体版)2 健康・福祉 (2)65歳以上の者の介護 ウ 介護費用について、「年金等の収入でまかなう」と考えている人が63.7%と最も多い」
*4厚生労働省「要介護認定の仕組みと手順 要介護状態区分別の状態像」p11
*5出所)厚生労働省「要介護認定の仕組みと手順 認定後の介護サービス利用」p12
*6出所)厚生労働省「介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)特別養護老人ホームの重点化」p14
*7出所)厚生労働省「サービス利用者の費用負担等」