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米国財務省が日本を為替操作の「監視対象」に追加 円安による為替介入との関連は?
米国財務省が日本を為替操作の「監視対象」に追加 円安による為替介入との関連は?

米国財務省が日本を為替操作の「監視対象」に追加 円安による為替介入との関連は?

2024/07/18に公開
提供元:大西 勝士

2024年6月20日、米国財務省は半期ごとの為替政策報告書を公表し、1年ぶりに日本を為替操作の監視対象リストに追加しました。
日本は2024年4~5月に9兆円規模の為替介入(円買い介入)を実施しており、今回の監視対象への追加との関連が話題になっています。*1
為替操作の監視対象とはどういうもので、どんな目的があるのでしょうか。

このコラムでは、米国財務省の為替政策報告書の概要や日本が監視対象リストへ追加された理由、為替介入との関連などを解説します。


為替政策報告書の「監視対象」「為替操作国」とは

為替政策報告書とは、米国財務省が財・サービス貿易の輸出入総額上位20ヵ国・地域を対象に、半期ごとに議会へ提出している報告書です。
2015年の貿易円滑化・貿易執行法に基づく3つの基準(後述)をもとに、為替操作監視対象リストへの追加や為替操作国・地域の認定を行うかを判断しています。*2

「監視対象」とは、為替政策報告書において、為替操作をしていないか注視する必要があると判断された国・地域のことです。

2024年6月20日に公表された為替政策報告書では、前回対象になっていた中国、ドイツ、マレーシア、シンガポール、台湾、ベトナムの6ヵ国・地域のほか、新たに日本が監視対象に追加されました。

「為替操作国」とは、自国の輸出に有利になるように通貨安へと意図的に誘導している国のことです。
自国通貨を売って他の国の通貨を買うことによって為替相場に介入しているか、中央銀行の金融政策をコントロールしているか、などが判断材料となります。*3

為替操作国に指定された国には2国間協議を求め、問題が解決しない場合は輸入品への関税引き上げなどの制裁措置が検討されます。*4
直近では、2019年8月に中国が為替操作国に認定されました(2020年1月に解除)。*5


監視対象リストへ追加される3つの基準

監視対象リストへの追加や為替操作国・地域の認定については、以下3つの基準をもとに判断されます。*6


  • 過去12ヵ月間の対米財・サービス貿易黒字額が150億ドル以上
  • 過去12ヵ月間の経常収支対名目GDP比率が3%以上
  • 過去12ヵ月間に8ヵ月以上の為替介入が行われ、かつその実施額がGDPの2%以上

輸出額が輸入額を上回る状況を貿易黒字、輸入額が輸出額を上回る状況を貿易赤字といいます。*7
経常収支とは、海外との貿易や投資などの経済取引で生じた収支を示す経済指標です。*8

上記3つの基準のうち、いずれか2つに抵触する国・地域は監視対象に指定されます。
対米貿易黒字が他国に比べて著しく多額である場合など、監視が必要と判断された場合は、2つの基準に抵触しなくても指定されることもあります。

3つの基準すべてに抵触する場合は、原則として為替操作国・地域に指定されます。
ただし、バイデン政権以降は3つの基準に抵触しても、米国当局が該当する国・地域と協議して、最終的に為替操作国・地域への指定は見送られています。


日本が監視対象リストに追加された理由

日本は、対米財・サービス貿易黒字額と経常収支対GDP比率の基準に抵触したことにより、2022年11月の報告書まで監視対象でした。
その後、対米財・サービス貿易黒字額のみ抵触となったことから、2023年6月と2023年11月の報告書では監視対象から除外されていました。

しかし、今回の2024年6月の報告書では、再び対米財・サービス貿易黒字額と経常収支対GDP比率の2つに抵触したため再指定となりました。

経常収支の黒字が増加したのは、原油価格の下落や外国人観光客数の急激な回復によるものと分析されています。
また、鈴木財務大臣は「監視リストは一定の基準に照らして機械的に評価した結果であり、日本の為替政策を問題視するものではないと理解している」という趣旨のコメントをしています。

そのため、今回の監視対象への追加が、日本の経済や株価、為替に大きな影響を与える可能性は低いといえるでしょう。


円安による為替介入との関連は?

歴史的な円安局面が続いたことを受けて、日本では政府・日銀が2024年4~5月にかけて9兆円規模の為替介入(円買い介入)を実施しました。*9

米国財務省は日本の為替介入について、「実施の有無や内容を毎月公表しており、透明性を伴って行われている」との見解を示しています。
そのため、2024年4~5月の為替介入と監視対象リストへの追加との関連性は低いでしょう。


一方で、報告書では「為替介入は非常に限定的な状況で事前の協議を伴い行われるべき」とも指摘しています。


日本以外の監視対象国・地域の状況

上述のとおり、日本のほかに中国、ドイツ、マレーシア、シンガポール、台湾、ベトナムの6ヵ国・地域が監視対象に指定されています。
ここでは、日本以外の国・地域が監視対象国・地域に指定されている理由を見ていきましょう。


中国

中国の2023年の対米貿易黒字は2,540億ドルです。
2022年に比べて縮小したものの、米国の貿易相手国・地域の中で圧倒的に大きいことに加えて、経常収支黒字と為替に関する問題点も指摘されています。


経常収支黒字はGDP比で1.4%に縮小しました(2022年は2.5%)。
しかし、中国が発表しているデータの信頼性に疑問を投げかけており、「中国当局に対して明確な説明を行うよう求めている」としています。

為替については、管理体制の政策目標やオフショア人民元市場での活動など、為替レートメカニズムについて、限られた透明性しか提供していないと指摘しました。


その他の国・地域

台湾、ベトナム、ドイツは対米貿易黒字と経常収支黒字の2つ、シンガポールは為替介入と経常収支黒字の2つに抵触して監視対象に指定されました。
いずれも前回と同様です。
*2

台湾は、対象期間中に台湾ドルの下落圧力を緩和するために台湾ドル買い介入を実施していました。
報告書では、為替介入は限定的に行い、為替レートはファンダメンタルズに沿って推移させるべきと指摘しています。

シンガポールは、外貨買い為替介入額がGDP比7.1%と基準の2%を大きく上回っています。
過去12ヵ月中8ヵ月以上行われていたかは、シンガポール当局が公表しておらず不明です。しかし、規模の異例の大きさや情報開示の不十分性から基準に抵触すると判断しました。

マレーシアは、対米貿易黒字(250億ドル)のみ基準に抵触しています。
しかし、「一度監視対象国に指定されると、2つの基準に2回連続で抵触しなくなるまで監視対象国にされる」というルールに従い、引き続き指定されました。


まとめ

米国財務省は、2024年6月に公表した為替政策報告書において日本を為替操作の監視対象リストに追加しました。
監視対象リストへの追加は、米国の主要な貿易相手国が貿易上で優位になるために、為替レートを不正に操作していないか検証することを目的としています。

しかし、「日本の為替介入は、実施の有無や内容を毎月公表していて透明性がある」と言及しているため、政府・日銀が2024年4~5月に実施した為替介入との関連性は低いと考えられます。

為替操作監視対象リストへの追加は、日米関係や為替市場に影響を与える可能性があるので、半年に一度公表される為替政策報告書の内容を確認しておきましょう。



本コラム執筆時点における情報に基づいて作成しておりますので、最新情報との乖離にご注意ください。

*1出所)日本経済新聞「米財務省、日本を為替操作監視リストに 経常黒字拡大で」
*2出所)JETRO「米財務省、2023年下半期までの為替報告書を公表、経常収支と貿易黒字理由に日本を監視対象に追加」
*3出所)NHK「為替操作国って何?」
*4出所)日本経済新聞「為替操作国」
*5出所)JETRO「米財務省、中国に対する為替操作国の認定を解除」
*6出所)国際通貨研究所「通貨政策・制度の透明性を重視するバイデン政権下の米財務省~2024 年 6 月版米財務省為替報告書~」
*7出所)三菱UFJモルガン・スタンレー証券「貿易収支(ぼうえきしゅうし)」
*8出所)日本経済新聞「経常収支とは 投資収益が黒字支える」
*9出所)財務省「外国為替平衡操作の実施状況(令和6年4月26日~令和6年5月29日)」


大西 勝士
おおにし かつし

金融ライター(日本FP協会 AFP認定者)。早稲田大学卒業後、会計事務所、一般企業の経理職、学習塾経営などを経て2017年10月より現職。大手金融機関を含む複数の金融・不動産メディアで記事を執筆中。得意領域は投資信託、不動産、税務。

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