「若いときには貯金なんかせず、経験に投資せよ」という人、結構います。
私が20代のときも、40代のベテランコンサルタントの中に、そのようなことを言う人がまわりにいました。
でも本当にそうなのでしょうか?
私は懐疑的です。
というのも、若いときの「貯蓄」と、それをタネ銭とした「投資」が、長期的には資産形成の近道だからです。
実際、世界有数の資産家である、ウォーレン・バフェットは若いうちに「貯蓄」をせよと述べています。
彼は、TV番組に出演した時、こう尋ねられました。
「お金に関して私たちが犯す最大の間違いは何ですか?」
すると、バフェットはこう答えました。
「まあ、一番の間違いは、早めにきちんと貯める習慣を身につけなかったことだと思います。節約は習慣だからです。」*1
バフェットの言う通り、「貯蓄」は時間を味方につければ、莫大なリターンがあります。
例えば、23歳から月に5万円、節約をして貯めたとします。
年間60万円の貯蓄ですから、33歳をすぎる頃には手元に600万円貯まります。
たかが600万円、と思うかもしれませんが、実際にはこれは60代の保有する金融資産保有額の中央値と同程度となりますから、30代の前半に既に「多くの老人より金持ち」になれるわけです。
さらに、30代から月に10万円を貯蓄すると、60代になるころには貯蓄だけで3,600万円。
引退する頃には4,000万円もの貯蓄を手元に残すことができます。
これは、日本人の上位20%に相当する資産です。*2
さらにこれを、30代から「投資」に回したとしましょう。
保守的に年利3%で、月10万円の積立を行い、元金は20代に貯めた600万円とします。
複利計算を行えば、30年間コツコツと積み立てを行うと税金を考慮に入れても、6,500万円となることがわかります。
金融資産5,000万円以上は「準富裕層」、日本人の上位8%に入ります。
20代には月5万円の貯蓄。
30代以降は月10万円の貯蓄+投資
このシンプルな活動だけで、60歳を過ぎるころには準富裕層になれますから、一介のサラリーマンであっても、十分可能です。
なお、ウォーレン・バフェットは、世界で最も優れた投資家の一人だと言われていますが、バフェットの純資産の95%以上は、65歳以上に得られたものであることは、あまり知られていません。
例えばもし、バフェットが人並みの人生を歩んでいて、たとえば10代や20代は殆ど投資せず、30歳の時点で純資産2万5千ドルから投資を開始したとします。
そして早々に60歳で引退した場合、バフェットの現在の純資産は、845億ドルではなく、1,190万ドル。つまり、現在より99.9%も少ないのです。*3
バフェットの真の成功の秘訣は、「何に投資をしてきたか」ではありません。
彼の真の強みは「長期投資」です。
10歳から投資をし、90歳以上になるまで、それを継続していると言う点にあります。
こう考えてくと、貯蓄は大事であると、認識できるのではないでしょうか。
このように述べると、表題にあるように、
「若いときには貯金なんかせず、経験に投資せよ」というもっともらしい意見を言う方もいるでしょう。
「若いうちにしか、できないことがあるのでは?」という方もいるかもしれません。
あるいは、
「歳を取ってからお金を持っても、使い道がない」という方もいるでしょう。
でも、本当にそうでしょうか。
例えば、「20代でなければできない、5万円でできる経験」って、一体なんでしょう?
都内の高級ホテルに宿泊することでしょうか?
それとも、銀座の寿司屋で背伸びして食事をすることでしょうか?
そんなの、別に「たいした経験」と呼ぶほどのことでもないですし、せいぜい1度でもやれば十分ですよね。
それなら別に、「経験に投資する」というほどでもないと思います。
そもそも、仕事を頑張っていると、上の人がお金を出して、そういった経験をさせてくれます。
例えば、取引先の社長や、自分の上司などが、「できる若手」に対して、お金を出してくれるでしょう。
そういう「経験」は、貴重であり、しかもそれは、人脈も合わせて手に入るわけです。
では何かの資格をとったり、学校に通うための資金とする、というのはどうでしょう?
それもいいですが、今では「リスキリング」というテーマで、助成もたくさん出ますし、そもそも無料で学べるコンテンツがwebには数多くあります。
わざわざ、高々「月5万円」を自分で出すことに、あまり意味はありません。
旅に出て、知見を広げる、というのはどうでしょう?
そもそも、お金をかけなくても、良い旅はできます。
それこそ若いのであれば、安宿に泊まったり、野宿をすることも特に問題はないでしょうし、そうして「頭を使ってお金をかけない」という工夫そのものが、重要なのです。
つまり若いうちは、「自腹」ではなく、「仕事を頑張る」ことや「工夫してみる」、「時間を使う」ことで、お金をかけなくても、いくらでも貴重な体験をすることができます。
若いときにお金を使って、経験を買うと言ってみたところで、所詮、金額が小さいので、できることは高が知れています。
それであれば、時間と知恵を使って、お金をかけずに様々なことに取り組んでみるほうが、はるかに良い経験が得られます。
つまり言いたいことは、若いときも「金は貯めよ、知恵と時間を使って体験をせよ」という事です。
「若いときには貯金なんかせず、経験に投資せよ」というのは、ウソです。
私もかつて、「若いときには貯金なんかせず、経験に投資せよ」というベテランのことを信じそうになりました。
しかし、私の最大の恩師はこういいました。
「安達さん、金は貯めておきなよ。いつか起業したくなった時に、金がないと困るから」
そして、彼はいつも、飲みに行くときにはカネを出してくれました。
そのアドバイス通り、私は若いときにほとんどお金を使いませんでした。
クルマを買わず、家を買わず、服を買わず、飲みにもいかず、高い買い物と言ったら、たまに買う中古のパソコン、そして自転車くらい。
コンサルタントの給与はそれなりに良かったですが、奨学金の返済と家賃にほとんどのお金が消えました。
しかし、おかげで35歳を過ぎる頃には、約2,000万円の貯蓄ができたのです。
では、その2,000万円を何に使ったかというと、まさに恩師の言う通り、37歳の時に「起業」に使いました。
投資信託や株に投資しても良かったのですが、私はお金を「起業」という「経験」に使おうと思ったのです。
「貯金なんかせず、経験に投資しなよ」というアドバイスは、一件正しいように見えます。
しかし、お金を真に有用な経験に投資するのは、かなり難しいのです。
であれば、本当に必要な経験をするために「貯蓄」をしておくことは決して悪くない選択であると、私は思います。
本稿執筆時点における情報に基づいて作成しておりますので、最新情報との乖離にご注意ください。
出典
*1 The Motley Fool"Warren Buffett Reveals the Biggest Mistake We Make When It Comes to Money"
*2野村総合研究所「日本の富裕層は122万世帯、純金融資産総額は272兆円」
*3サイコロジー・オブ・マネー――一生お金に困らない「富」のマインドセット