ITバブルとはドットコムバブルとも呼ばれ、1990年代後半から2000年代初頭にかけて、アメリカを中心にインターネット関連企業や情報技術(IT)産業に対する過剰な投資と期待が高まり、株価が異常に高騰した経済現象を指します。*1
この時期、多くの投資家や企業がインターネットの将来性に賭け、多額の資金をIT関連企業に投じました。
本コラムでは、ITバブルがなぜ発生し、崩壊したのか。また、日本への影響はどのようなものであったかを解説します。
バブル経済とは、株式や不動産などの価格が、実際の経済成長率や企業の収益性を大きく上回る形で異常に膨らむ経済現象です。
この状態は、過剰な投機や楽観的な見通しによって引き起こされ、価格が持続不可能なレベルまで上昇します。
しかし、経済の基盤がその価格上昇を支えきれなくなると、バブル経済は崩壊し、急激な価格の下落と経済の混乱を引き起こします。
日本ではITバブル以前にも1980年代後半から1990年代初期にバブル経済が発生しています。
ITバブル発生の背景には、アメリカにおけるIT産業の急成長があります。
1990年代のアメリカでは、パーソナルコンピュータ(PC)やインターネットの普及が加速しました。
以前は高価で操作が難しかったコンピュータが、技術開発により手頃な価格で操作できるようになり、PCに搭載されるOSも大きく進化しました。
これにより、PC、OS、CPUなどの技術革新が相次ぎ、インターネット上のWebサイトやその利用者数が急増したことで、多くのIT関連のベンチャー企業が設立されます。
同時期には、1997年のタイの通貨危機や1998年のロシアの債務不履行など、世界経済が不安定な状況にありました。
これに対応して、アメリカの連邦準備制度(FRB)は金利を引き下げることで金融政策を緩和します。
この措置により、余剰資金が株式市場に流れ込み、IT関連企業の設立や株取引が活発化しました。*2
投資家心理もITバブル形成に一役買いました。
インターネットの普及と将来の成長性に対する期待が高まり、「今買わなければ損をする」という感情が多くの投資家を動かし、IT関連企業への投資を促します。
この投機的な動きが市場を過熱させ、最終的にバブル経済を形成することになりました。
その結果、アメリカの新興企業向けの株式市場であるNASDAQの総合株価指数は、1996年には約1,000であったのに対し、1999年には2,000を超え、2000年3月10日には最高値の5,048.62ポイントを記録しました。*2
出典:内閣府ホームページ「ITバブルの発生と崩壊」
この頃生まれた代表的な企業には、Amazon、eBay、Googleなどがあります。
Amazonは1997年に株式公開(IPO)を18ドルで行った後、株価は急速に上昇し、1998年には一時期105ドル以上にもなりました。*3
ITバブルの崩壊は、2000年代初頭に始まりました。
崩壊に至る要因の1つにアメリカの経済政策があります。
この時期、景気の過熱を抑制するために、FRBは利上げに踏み切ります。
具体的には、1999年6月から2000年5月にかけて、政策金利を4.75%から6.5%へと引き上げました。*4
この利上げにより、企業は資金を借り入れることが難しくなり、市場に不安が広がりました。
こういった要因を背景として、2000年3月10日、NASDAQ総合指数は5,048.62ポイントのピークを記録した後、急激に下落し始めます。
バブル経済の崩壊は、株価の急落を引き起こし、多くの投資家が大きな損失を被りました。
特にインターネット関連企業の株価は大幅に下落しました。
この結果、Amazon、eBay、Googleなど有力な一部のベンチャーを除き、利益を上げていない企業は株価が大きく落ち込み、破綻に追い込まれます。
さらにアメリカでは、バブル崩壊で株価が下落傾向にある中、2001年9月11日にアメリカ同時多発テロが起こり、株価下落に追い打ちをかけることとなりました。*5
アメリカにおけるITバブル崩壊後の影響は、金融と貿易を介して全世界に広がります。
金融の面では、アメリカのITバブルの終焉が引き金となり、世界中の株式市場が下降トレンドに入ったことで韓国、シンガポール、日本、台湾、マレーシアなどが次々と株価の下落を経験しました。
貿易の面では、2000年にはアメリカが世界の情報技術製品の輸入で23.3%を占めるほど大きな市場でしたが、その後アメリカでの情報技術製品への需要が減少したことが、アジア、日本、ヨーロッパなどの企業の輸出に影響を及ぼし、世界中の業界に連鎖的な影響を与えました。*6
ITバブルの崩壊は多くの企業に深刻な影響をおよぼし、その過程で明らかになった不正会計の問題は、投資家の信頼を一層損ねる結果となりました。
特に、EnronやWorldComのような企業の不正会計が発覚した際には、その影響は計り知れないものがあります。
Enronは、総合エネルギー取引やIT産業を手掛ける会社です。
2001年に不正会計が発覚し、同年12月に破綻しました。
Enronの破綻は、アメリカ史上最大の企業破綻の一つとして知られています。
WorldComはデータ通信、電話通信などを手掛ける会社です。
2002年に不正会計が発覚し、同年7月に破綻しました。
この事件は、通信業界における最大のスキャンダルの一つとして記録されています。
これらの不正会計の発覚は、投資家にとって大きなショックであり、株価の急落に拍車をかけました。
投資家は、企業の財務報告に対する信頼を失い、市場全体の不安定さが増大しました。
一連の事件は、企業の透明性と誠実性がいかに重要であるかをあらためて世界に示すものとなったのです。
1990年代末、アメリカを発端としたITバブルが日本にも広がります。
アメリカの影響を受けて、日本でも多くのIT企業が設立されました。
この頃誕生した企業には、楽天、光通信、ソフトバンクなどがあります。
これらの企業は、新興の投資先として大きな注目を集め、2000年4月には、日経平均株価は高値20,833円を記録しました。*7
しかし、IT産業を支える多くの企業は、経営基盤が脆弱なベンチャー企業であることが多く、一部の企業を除き、多くはやがて失速していきます。
日本におけるITバブルは長く続かず株価は下降し始め、2001年8月には10,713円まで落ち込み、終息を迎えました。*8
(筆者作成)
ITバブルの発生と崩壊、日本への影響がどのようなものであったかを解説しました。
バブルの歴史は、過信と過剰な楽観がいかに危険かを教えてくれる貴重な教訓です。
過去の歴史を学ぶことは、資産運用を行う際にも非常に役に立ちます。
リスク管理を徹底し、市場の過熱に流されることなく冷静な判断を心がけることが、安定した資産運用を行ううえでの鍵となります。
※本記事の作成には一部AIを利用しています。
※本コラム執筆時点における情報に基づいて作成しておりますので、最新情報との乖離にご注意ください。
出典
*1「ITバブルとは」日本経済新聞
*2「ITバブルの発生と崩壊」内閣HP
*3「Amazonの日本語サイトがオープンした日に株を「100万円」買っていたら、今いくらになっている?」現代ビジネス
*4「今はバブルなのか、2000年のITバブルとの比較」Yahoo!ニュース
*5「ITバブルの発生と崩壊」内閣府HP
*6「世界経済の潮流:2002年春」内閣府HP
*7「日経平均、次の大きな節目はいくらかITバブル時の高値2万0833円突破へ」東洋経済ONLINE
*8「2000年代:911テロとリーマン・ショック」日経平均プロファイル