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意外なモノの値上がりの意外な理由 「魚粉」値上がりで各所に悲鳴も
意外なモノの値上がりの意外な理由 「魚粉」値上がりで各所に悲鳴も

意外なモノの値上がりの意外な理由 「魚粉」値上がりで各所に悲鳴も

2024/08/20に公開
提供元:清水沙矢香

近年、生活にかかわるもの、とくに食料品の値上がりが止まらなくなっています。

円安の影響、燃料や電気代の高騰などですでに厳しくなりつつある家計ですが、わたしたちの日常生活に必要なモノの値上がりは、それだけでは説明のつかない部分もあります。

たとえば最近、わたしたちの食卓に必要な「魚粉」の値上がりが激しくなっています。
じつはこれには、為替だけでなく他の要因も関係しています。そのほかにも、円安や燃料高騰だけではない、さまざまな事情がわたしたちの食卓を脅かしています。

それはいったい何でしょうか。


止まらない円安

2023年以降、円安は驚くべきスピードで進んでいます。


ドル・円の相場の推移

ドル・円の相場の推移
(出所:日本銀行「時系列データ検索サイト」(為替)、2024年7月23日取得)
(実行実質為替レート指数を系列解除し、ドル円スポットのみの表示)


円相場といえば、少し前までは「1ドル=100円ちょっと」という認識だったものが、急激に円安が進みました。
実際、6月27日には一時160円台半ばまで値下がりし、37年半ぶりの円安ドル高の水準となりました*1。


意外なモノの値上がり

多くの食品やエネルギーの自給率が低い日本では、さまざまなものの値段が為替相場に左右されやすいというのはみなさんご存知のことでしょう。
実際、円安の進行につれてさまざまな食品や電気代などの値上がりがずっと続いています。

とくに食品は、為替だけでなく別の要因が相まって驚くほど急に、大幅に値上げされるものもあります。
そのうちのひとつが、「魚粉」です。あまりなじみのない言葉かもしれませんが、実はわたしたちの食卓には欠かせない食料品のひとつです。

食料品においてどのようなモノが値上がりしているのか具体的に紹介します。


魚粉の値上がり〜エルニーニョ現象

魚粉は、わたしたちが日々使う「だし」のもとになっているほか、漁業の現場では養殖魚のエサに使われています。
その魚粉の取引価格が2023年6月に、およそ8年半ぶりに最高値を更新しました*2。
ラーメン店でもよく使われるため、店は厳しくなっているというニュースを筆者も見たことがあります。

魚粉値上がりの原因は、ペルーで2023年にカタクチイワシの自主禁漁が始まったことです。
ペルーは魚粉生産で世界の20%強を占める主要生産国ですが、日本よりも資源管理が進んでおり、科学的根拠に基づいて漁獲可能量や譲渡可能漁獲割当が設定されています*3。

しかし2023年の6月にペルー海洋研究所がカタクチイワシの資源状況を調査した結果*4、漁獲の対象になるサイズを下回る幼魚の数が調査量の86.3%、重量にして77.0%にのぼりました。
カタクチイワシは、沿海の海面温度が上がるエルニーニョ現象の影響を受けます。実際に資源量が例年より減っていたこともこの調査でわかりました。

2024年の4月になって漁は解禁されましたが、漁獲量の枠は2022年に比べて11.5%マイナスの247万5000トンに設定されています*5。
よって従来と同じ量が手に入るわけではありません。当然、価格にも反映されます。

世界的に異常気象が続く中、こうした漁業制限は、いつ再び訪れてもおかしくありません。
日本の養殖業は魚粉の大半を輸入に頼っています*2。日本国内での魚の値上がりにもつながることでしょう。


日本の食卓に欠かせない「ごま」〜自給率はたったの0.1%

また、「ごま」も輸入価格が過去最高値を記録し話題になりました*6。

こちらには「海外の政治状況」という要因があります。ごまの主力輸出地域であるアフリカで政情不安が高まり、生産量が減少する懸念が強まっているのです。

もともと日本は食料自給率の低い国ですが、 ごまに至っては99.9%を輸入に頼っています*7。
日本食でよく使われるにもかかわらず、その自給率は0.1%というわけです。
日本の場合、トルコとエジプトからごまを輸入していますが、いずれの国でもそれぞれの事情によって2023年の秋には減産を強いられ、その影響で相場価格が高騰しています*8。

愛知県でごまを扱うあるメーカーは、2024年の6月から金ごまの関連製品を業務用製品で約10%~20%、家庭用で約6~9%以上値上げすることにしました。

円安のなか、輸入にあたっても日本の交渉力が弱まってしまっているという事情もあるでしょう。
今後も値上がりが続きそうな食品のひとつと考えられます。


オリーブオイルはなぜこんなに値上がりした?

続いて、オリーブオイルです。最近の急な値上がりに驚いている人は多いのではないでしょうか。

こちらも値上がりがさらに続きます。 主要メーカーは、2024年5月納品分から大幅な値上げに踏み切りました。
家庭向け製品の値上げ幅はこのようになっています*9。

  • J-オイルミルズ:32%~66%
  • 日清オイリオグループ:23%~64%
  • 昭和産業:1キロあたり950円以上

オリーブオイルの世界での生産量はスペインが大きなシェアを占めています*10。
しかし2022年の記録的な干ばつ、翌2023年には雨不足といった影響を受け、スペイン産やイタリア産のオリーブの実が2年連続で不作となっていることが大きな要因です。

また、オリーブオイルに関しては、世界的に長期で続いているトレンドも価格に影響を与えています。

健康志向やオーガニック製品への関心が高まる中、アメリカ、ブラジル、中国、サウジアラビアなどが急激に輸入量を増やしており、いま、オリーブオイルは世界的に、消費量が生産量を上回る状態になっているのです*11。

一方で、生産量を増やすことは容易ではありません。
大規模な灌漑設備などを備えたオリーブ農園を増やせば、それだけ土地が乾燥しやすくなるとの報告もあるからです。

トルコではオリーブオイルの輸出禁止措置が取られています。国内市場を供給不足と価格高騰から守るためです*12。

オリーブオイルに関しては、一時的な国の事情だけでなく、世界的に争奪戦が続いている状況といえます。
今後オリーブオイルはどんどん高級品になっていくかもしれません。


日本でのモノの値段には、世界情勢が大きく影響する

食料品の値上げに関するニュースとしては、円高・円安といった為替相場の動きに興味を持っている方は多いことでしょう。

しかし、食料品の多くを輸入に頼っている日本では、ここまでご紹介してきたように海外で起きているさまざまなことに生活が大きく左右されるのです。

ここでご紹介した以外にも、 ウクライナ情勢の影響を受けたものもあります。
ウクライナは植物油の原料になる菜種や大豆、ひまわりに加えて穀物生産量も多い国
です。国際的にみて主要な植物油の原料生産国の1つです*13。

今回の情勢変化が生産量そのものに与えた影響も当然あるでしょう。
それだけでなく、ロシア軍が黒海を封鎖したことで、黒海沿岸にあるウクライナの主要港からの農産物の輸出機能が半年近く停止したという事情もありました。

日本では実感しにくい遠い外国で起きていることが、さまざまな形で私たちの生活に大きな影響を与えるということは知っておきたいものです。



本コラム執筆時点における情報に基づいて作成しておりますので、最新情報との乖離にご注意ください。

*1「円相場 1ドル=160円台半ば中心に取り引き 37年半ぶり円安水準」NHK
*2「魚粉の国内価格が最高 養殖業、エサ不足で経営打撃」日本経済新聞
*3「夏休み自由研究に!魚が獲れるのになぜ禁漁か?」Wedge ONLINE
*4「カタクチイワシ漁の解禁がエルニーニョ現象の影響により遅延(ペルー)」JETRO
*5「カタクチイワシ第1漁期が2年ぶりに解禁、GDP0.5%押し上げを見込む(ペルー)」JETRO
*6「ごま、輸入価格が最高値 輸入元のアフリカに政情不安」日本経済新聞
*7「<ひと物語>自給率0.1%に挑む 日高市の金ごま農家・鈴木香純さん」東京新聞Web
*8「金ごま関連製品を6月から値上げ 減産で相場急騰 真誠」Yahoo!ニュース
*9「オリーブオイル 5月から値上げ すでに品薄も ヨーロッパでの不作影響“過去に例を見ないほど値上げ幅大きい”」NHK首都圏ナビ
*10「IOC-Olive-Oil-Dashboard」国際オリーブ協会(IOC)
*11「オリーブオイルが超高級品になる日――価格高騰が長期化しかねない4つの理由」Yahoo!ニュース
*12「Olive oil: Turkey extends export ban」Mundus Agri
*13「植物油の最近の動向 価格高騰の現状とその背景について」一般社団法人日本植物油協会


清水 沙矢香

2002年京都大学理学部卒業後、TBSに主に報道記者として勤務。
社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として各種市場・産業など幅広く取材、その後フリー。
取材経験や各種統計の分析を元に多数メディアに寄稿中。

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