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もうすぐパリ五輪 その経済波及効果は?コロナ禍で「無観客」の東京五輪はどうだった?
もうすぐパリ五輪 その経済波及効果は?コロナ禍で「無観客」の東京五輪はどうだった?

もうすぐパリ五輪 その経済波及効果は?コロナ禍で「無観客」の東京五輪はどうだった?

2024/07/04に公開
提供元:清水 沙矢香

7月26日から始まるパリ五輪、日本国内の旅行会社でも観戦ツアーが販売され始めています。

世界的な大イベントが開催されるといつも話題になる「経済波及効果」ですが、パリ五輪・パラリンピック組織委員会も5月に経済波及効果の試算を発表しています。

もちろん経済波及効果の全容は、大会が終わってみなければ分かりません。
コロナ禍に見舞われた東京五輪は史上初となる延期を迫られたうえ、首都圏では無観客開催という異例の事態に遭遇し、当初の見込み通りにはいかなかったことでしょう。

実際、五輪の経済効果というのはどう見積もられているのでしょうか。おもに2021年に開催された東京五輪を例にとってご紹介します。


パリ五輪の経済波及効果は?

パリ五輪・パラリンピック組織委員会は5月に、大会開催に伴う経済波及効果についての調査結果を発表しました。
リモージュ大学による調査で、2024年のパリ五輪は地域に67億ユーロ(約1兆1471億円)から最大で111億ユーロ(約1兆9000億円)の純経済利益を生み出すとの予測です*1。

内訳は観光による利益が30%、建設による利益が28%、運営そのものでの利益が42%で、他にはメディアへの放映権などの販売、スポンサーからの資金などから利益を得ることができます。

パリ観光局によれば、チケットを持っているかどうかにかかわらずパリを訪れる観光客によって、推定26億ユーロ(約4,451億円)にのぼる利益がもたらされるといいます*1。


経済波及効果は単年の話ではない

なおこの試算結果は、「2018年から2034年までの期間にわたる」利益として出されています*1。
会場の建設は、実際の開催年よりだいぶ前、五輪の招致が決まった時から始まります。
開催前から、建設会社や関連会社が利益を得ることになるというわけです。
またチケットやグッズの売上などは短期的な利益と見ることもできますが、大会終了後もその影響が長く残ります。
これを「レガシー(遺産)効果」と呼びます。

例えば五輪を機に建設された施設が大会終了後も利用され続ければ、地域に利益をもたらします。
また五輪を機に地域おこしがうまくいけば、その地域に長期にわたる収益をもたらすでしょう。
大会終了後の地域の努力によっては、観光客を呼び寄せ続けることも可能です。

このように、五輪開催で得られる利益は一時的なものだけで終わりません。
終了後も利益を上げ続けてこそ、開催の成果を得られるという側面もあるのです。


財政への影響も考慮が必要

ただし、関連する企業だけが利益を得られれば良いというわけでもありません。

五輪開催では、民間企業に利益がある一方で、国などのお金も使われます。
税金を投入しすぎたら、国や地元の財政が悪化してしまうため意味がありません。
この点について、格付け会社のS&Pグローバルは、パリ五輪では会場の95%が既存の建物もしくは若干の改修で済む建物を使うなど経費節減もされており、フランスの財政に打撃を与えることはないとしています*2。


東京五輪も前後17年での利益試算

さて、2020年の東京五輪開催にあたっても、事前に経済波及効果が試算され公表されました。

2017年の段階で東京都が発表した試算によれば、経済波及効果は東京都で約20兆円、全国では約32兆円というものでした。
これも単年ではなく、2013年の招致決定年から2030年(大会10年後)までの間の効果を考慮したものでした*3。


東京五輪の経済波及効果試算

2017年に公表された東京五輪の経済波及効果試算

出所:「大会開催に伴う経済波及効果」東京都


注目したいのは、大会終了後のレガシー効果のほうが、直接的効果よりはるかに大きいということです。
それだけ、開催後の経済効果は重要なのです。


コロナで不透明になった、利益なのか損失なのか?

そのような想定の中、東京五輪のタイミングでコロナ禍が到来しました。あまりにも想定外の出来事といえるでしょう。
開催年になって、東京五輪は中止か延期かの選択を迫られることになります。

そして延期決定後の2021年に入って、関西大学名誉教授の宮本勝浩氏が経済損失についての推計を公表しています。


  • 延期なら約6,408億円
  • 簡素化なら約1兆3,898億円
  • 無観客なら約2兆4,133億円
  • 中止なら約4兆5,151億円

いずれも、経済的損失が生まれるというものです*4。
物議を醸した未曾有の事態とはいえ、五輪開催は引くに引けない側面もあったと考えられます。

なお、結果的に経済波及効果がどうであったのかは、まだ結論が出ていないようです。
2030年までを見据えた試算ですから、その時が来てみないとわからないということでしょう。

ただ結果的に首都圏1都3県の会場では無観客での開催となり*5、チケットやホテルなど周辺観光施設への効果は限りなく0に近いものであったと思われます。
そのため、少なくとも開催前の目論見通りにはいかない可能性は高いでしょう。
当初は100万人規模の観客が来日する想定だったので、やはり当初の見込みとは大きく異なるものになったのではないでしょうか*6。


五輪の開催意義とは

ここまで、五輪のもたらす経済効果についてみてきましたが、では五輪とは経済効果を目的に開催されるものなのでしょうか。

最後に、五輪開催の本来的な目的・意義についても確認してみましょう。

IOC(=国際オリンピック委員会)が近年最も力を入れているテーマのひとつは「レガシー」です*7。

オリンピック憲章では、五輪の役割のひとつをこう記しています*8。

オリンピック競技大会の有益な遺産を開催都市、 開催地域、 開催国が引き継ぐよう奨励する。

地域経済の発展に役立つとともに、有益な「遺産(=レガシー)」を残すこともまた重要な使命としているのです。

IOCは五輪で得た収益をアスリート支援や世界のスポーツ発展に役立てることを目的とした非営利団体であり*9、収益の90%は世界オリンピック運動に再分配されています*10。

そしてオリンピック憲章の「オリンピズムの根本原則」第1条には、このような記載があります*8。

オリンピズムは肉体と意志と精神のすべての資質を高め、 バランスよく結合させる生き方の哲学である。
オリンピズムはスポーツを文化、 教育と融合させ、 生き方の創造を探求するものである。その生き方は努力する喜び、 良い模範であることの教育的価値と社会的な責任、 さらに国際的に認知されている人権、 およびオリンピック ・ ムーブメントの権限の範囲内における普遍的で根本的な倫理規範の尊重を基盤とする。


開催国や地域に利益をもたらす一時的な「お祭り騒ぎ」としてのみ捉えては、オリンピックの本質を見失うでしょう。
オリンピックのもたらす本来的な価値に加え、その利益が必要な場所に再配分されているかどうか、という意義についてもぜひ再認識し、パリ五輪をお楽しみください。



本コラム執筆時点における情報に基づいて作成しておりますので、最新情報との乖離にご注意ください。

出典
*1「Independent study reveals Olympic Games Paris 2024 “economically beneficial” for host region」IOC
*2「パリ五輪、経費節減でフランス財政に打撃与えず=S&P」ロイター通信
*3「大会開催に伴う経済波及効果」東京都
*4「宮本勝浩 関西大学名誉教授が推定 どうなる東京五輪!?延期、簡素化、無観客、中止、それぞれの経済的損失は・・・ 」関西大学プレスリリース
*5「オリンピック無観客に決定」東京都
*6「どうなる五輪招致の意義 海外客ゼロなどで経済損失1兆6258億円、ボランティア意欲低下…」東京新聞
*7「レガシーとは何か」三菱総合研究所
*8「オリンピック憲章」IOC
*9「Funding」IOC
*10「Economic benefits of hosting the Olympic Games」IOC


清水 沙矢香
しみず さやか

2002年京都大学理学部卒業後、TBSに主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として各種市場・産業など幅広く取材、その後フリー。取材経験や各種統計の分析を元に多数メディアに寄稿中。

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