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2025年春闘はどう動く?2024年結果から読み解く賃上げ動向と家計・投資への影響
2025年春闘はどう動く?2024年結果から読み解く賃上げ動向と家計・投資への影響

2025年春闘はどう動く?2024年結果から読み解く賃上げ動向と家計・投資への影響

2025/02/04に公開
提供元:Money Canvas

毎年2~3月にかけて行われる春闘に向けて、各労働組合では早くも準備が進んでいます。2024年の春闘は、円安や物価高など暮らしへの影響が懸念される中で実施されました。

厚生労働省が発表した平均賃上げ率は33年ぶりに5%を超えるなど、高水準での妥結が目立ちました。その一方で、実質賃金はマイナス傾向にあり、労働者の所得改善は道半ばと言わざるを得ません。

今回は、2024年春闘の結果を振り返りつつ、2025年の動向と家計・投資への影響についてくわしく解説します。


春闘とは何か?基礎知識をおさらい

はじめに、春闘の定義や専門用語についておさらいしておきましょう。


春闘の定義

「春闘」とは、賃金引き上げをはじめ、複利厚生の改善や労働時間の短縮などの労働条件に関する要求について、各企業と労働組合の間で行われる一斉交渉のことです。*1
国内最大の労働組合の全国中央組織である連合(日本労働組合総連合会)では、「春季生活闘争」と呼んでいることから、一般には「春闘」として知られています。*2

春闘のメインとなる交渉は、まず2月頃に労働組合が要求を提出し、3月の中旬頃に経団連や企業側が回答を行います。「満額回答」として労働組合側の要求がそのまま受け入れられることもありますが、交渉によって妥結をめざすことも少なくありません。

賃上げ交渉が春に実施される背景には、多くの日本企業が会計期間を4月1日から翌3月31日までとしていることがあります。新年度が始まる4月に向けて、賃上げや制度改定を求める交渉を行うのです。

この春闘の方式は1956年から始まったとされており、今日に至るまで実に60年以上の歴史があります。かつては、まさに「春闘」の文字どおり、交渉が決裂すればストライキに踏み切るようなケースもみられましたが、近年は労使が協調し、企業の持続的な成長と雇用の維持を目指した話し合いを進める場という認識が広がっています。


労働組合と経団連の役割

春闘では、「労働組合」や「経団連」がそれぞれ意見や指針を発表しています。それぞれがどのような団体なのか、役割を押さえておきましょう。

【労働組合】
労働組合とは、労働条件や職場環境の維持・改善を図るべく、労働者が主体的に組織する団体です。*3
働きやすい職場を目指して労働者が一人で声を上げても、改善につなげることは簡単ではないかもしれません。

しかし、労働組合は憲法および労働組合法によって保護されており、企業は正当な理由がない限り、労働組合からの交渉に応じなければなりません。雇用者である企業と対等に話し合う「集団的労使関係」を築くことができるのです。

労働組合は、同じ会社の労働者で構成される企業別組合のほか、産業別、職業別の組合、さらに職種や業種に関係なく組織された組合など、さまざまな種類があります。

【経団連】
経団連とは、日本経済団体連合会の略称で、日本商工会議所、経済同友会とともに「経済三団体」と呼ばれています。経団連は2024年4月現在、およそ1,700の国内企業および団体で構成されています。主な役割は、経済界(企業側)の意見を集約して、社会や政府に提言を行うことです。


ベースアップ(ベア)・定期昇給(定昇)の違い

ベースアップ(ベア)と定期昇給(定昇)の違いについても押さえておきましょう。

【ベースアップ】
ベースアップとは、従業員全員の給料を一律で引き上げる賃上げのことです。勤続年数などの個人的な背景にかかわらず、企業の業績に応じて一律の額、または一律の比率で給料が上がるため、物価上昇への対応や生活水準の向上といった効果が期待できます。

【定期昇給】
定期昇給とは、個人の勤続年数やスキル・能力に応じ、定期的に実施される賃上げです。従業員のモチベーション維持、定着を目的としたもので、ベアとは異なり、必ずしも昇給するとは限りません。また、人によって昇給額が異なるケースもあります。


春闘2024年の結果総括:賃上げ率・トレンド・注目点

次に、2024年春闘の結果を振り返っていきます。


2024年春闘の平均賃上げ率はどうだったのか

厚生労働省が2024年8月に発表した「2024年民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況」によると、平均賃上げ率は5.33%となりました。*4
日本労働組合総連合会も、2024年春季労使交渉の最終結果として、ベースアップと定期昇給を合わせた平均賃上げ率が5.1%だったと公表しました。*5

平均妥結額、平均賃上げ率いずれも前年を上回る結果が出ています。一方で、組合員数が300人未満の中小組合では5%を下回っており、中小企業では賃上げができる環境が不十分だとみる向きもあります。


物価上昇や円安・景気動向が影響したか

消費者物価指数は2024年度に前年比2%台半ばの上昇となりました。しかし、エネルギー価格の上昇、海外の経済動向などにともなう円安、インフレによって実質賃金は減少しており、労働組合側は物価上昇に対応した賃上げを求めたのです。
また、名目GDPも600兆円を超え、日本経済がデフレ脱却に動きつつあることからも、大企業を中心に高めの賃上げ回答が相次ぎ、早期妥結となる交渉もみられました。


働き方改革やリモートワーク制度など非賃金条件の変化

近年では、「働き方改革」として長時間労働の是正をはじめとしたワークライフバランスの実現をめざす、非賃金条件の交渉も重要な要素として注目されています。

たとえば、リモートワーク制度の導入や改定、育児や介護、病気の治療と仕事の両立ができる環境整備、ハラスメントの防止、多様性の推進を求める動きも活発化しました。

深刻な人手不足が続く中、若手人材の確保・定着をめざす「魅力度強化戦略」という側面もあるといえます。


2025年春闘への注目ポイント:賃上げ交渉の行方

では、2025年の春闘はどのような点に注目すべきなのでしょうか。


2025年春闘の焦点は「さらなる実質賃上げ」か

消費者物価指数の伸びはやや鈍化しているとはいえ、2025年も緩やかな物価上昇が続くと見込まれています。しかし、依然として家計への負担感は大きく、実質的な手取り増がカギとなるため、2025年春闘でも物価高への対応がなされるとみられています。

日本労働組合総連合会は、2025年の春闘で目標とする賃上げ率を、全体で5%以上、中小企業で6%以上と決定しました。*6
「とりわけ中小組合については、格差是正分を積極的に要求する」と明記され、日本労働組合総連合会の芳野友子会長も、「地方の中小は人手不足が問題で、賃金の底上げが重要だ」と述べました。

経団連も基本指針案を発表し、「賃上げの勢いを社会全体に波及させ、定着させることが社会的責務」と位置づけています。*7


人手不足やスキルシフトへの対応

生産年齢人口の減少が進んでおり、企業は人材確保の観点からも賃上げせざるを得ないという指摘があります。

人手不足の中でも労働生産性を引き上げていくためには、AIやロボットなどの技術活用が一つのポイントとなってきます。

省力化を進めることで実質労働生産性が上がれば、さらなる賃上げが可能だと考えられているのです。


中小企業・非正規雇用はどうなる?

価格転嫁が十分でない中小企業でも、新規採用および既存人材のつなぎ止めを図るための賃上げを実施する可能性が高いとされます。

一方2024年は、業績の改善がみられないにもかかわらず、離職を防ぐために賃上げを実施した企業も一定数ありました。
今後、中小企業が賃上げをめざすにあたっては、コストを適正に価格に転嫁し、販売価格アップを行うことが不可欠であり、それを発注側の企業や消費者が受け入れることも重要となってきます。

また、非正規雇用者が加盟する労働組合も、一律10%以上の賃上げ、休暇や手当といった待遇面の改善を要求する方針を示しました。*8


インフレ、労働市場、経済政策と春闘との関係

政策や国内外の経済情勢と春闘との関連をみていきましょう。


金融政策・政府政策と春闘

金融政策とは、国内の物価の安定を図るために日本銀行(日銀)が行う、通貨や金融の調節のことで、企業の投資や資金調達にも大きな影響を与える取り組みです。*9
物価上昇と賃上げが進むことによる急激なインフレを抑え、経済の安定的な活性化をめざすことが主な目的です。2024年は、春闘による大幅な賃上げを受け、日銀が金融政策の一つである「マイナス金利政策」の解除を決定しました

政府も、春闘の結果を受けて最低賃金の引き上げを行い、賃金格差の是正を後押ししているほか、中小企業の賃上げを促進するためのパッケージを編成し、積極的な賃上げ実現を支援しています。


海外情勢・グローバル競争による影響

グローバルな人材獲得競争を勝ち抜き、優秀な人材を確保するためにも、日本企業は賃上げを実施し、海外企業が提示する高い報酬に対抗していくことが求められます。

その一方で、近年は国際紛争や物流混乱などによって原材料費が上昇しているため、企業の財務状況を圧迫すれば、春闘での要求に応えにくくなるでしょう。

このような海外情勢は、間接的に春闘をはじめとする労使交渉にも大きく影響しているのです。


個人の生活や投資に与える影響:春闘を踏まえたマネー戦略

今後、個人はどのような点を意識して経済活動を行っていくべきなのでしょうか。

最後に、春闘を踏まえたマネー戦略のヒントをご紹介します。


家計管理の視点:収入増と物価上昇のバランス

賃上げが実現すれば、可処分所得がふえ、自由に使えるお金も多くなります。家計管理という点では、賃金アップ分をどのように活用していくのかがポイントです。

しかし、物価も同時に上昇している点にも意識を向けておく必要があります。


投資の視点:企業収益・株価への影響

賃上げ率と日経平均株価は、ある程度連動していることが示唆されています。賃上げ傾向は今後も続くと予測されていることから、株価が押し上げられていくのではと推測する向きもあります。
賃上げによって労働者の所得がふえ、消費が活性化すれば、企業の収益増につながります。
好決算は投資の追い風となり、さらなる株価上昇が期待できます。


投資の視点:長期的な資産形成を考えるヒント

「春闘」は年に一度のイベントですが、賃上げ傾向が複数年にわたって定着していくことは、持続的な経済成長や消費拡大につながります。

物価上昇に対応した長期的な資産形成を考える場合には、NISAなどの非課税枠を活用した資産運用を検討しても良いでしょう。


賃上げ傾向が続く春闘の動きに注視し、賢いマネー戦略を

2024年の春闘を経て、2025年はさらなる賃上げや労働条件の改善が期待されています。労働者個人としては、賃上げ分をどのように活用していくのか、家計管理や投資戦略をしっかりと練っておくことが重要です。

国内外の経済状況やインフレ傾向を意識しつつ、2025年の春闘を注視していきましょう。



本コラム執筆時点における情報に基づいて作成しておりますので、最新情報との乖離にご注意ください。
最終的な投資判断、金融商品のご選択に際しては、お客さまご自身の判断でお取り組みをお願いいたします。

出典
*1 厚生労働省「春闘」
*2 連合「コラム「春闘」ってなに?」
*3 厚生労働省「労働組合」
*4 厚生労働省「令和6年 民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況を公表します」
*5 日本経済新聞「24年賃上げ平均5.1% 連合最終まとめ、33年ぶり5%超」
*6 日本経済新聞「賃上げ目標、全体5%中小6%を決定 連合の25年春闘方針」
*7 日本経済新聞「経団連、賃上げ定着「社会的責務」 春季労使交渉へ指針案」
*8 毎日新聞「非正規春闘実行委、25年春闘方針 一律10%以上の賃上げ掲げる」
*9 日本銀行「金融政策の概要」

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