
イラン情勢の影響で、原油価格の高騰が続いています。原油高はエネルギー関連企業だけでなく、幅広い業種でコスト増加の要因となります。日本は原油輸入の9割超を中東に依存しているため、供給不安が長期化すれば、企業業績の悪化や物価上昇につながるでしょう。
本コラムでは、原油価格高騰の背景や企業業績への影響、消費者物価の見通しについて解説します。
2026年2月末に米国・イスラエルがイランへの攻撃を開始し、イランも激しく応戦するなど、中東情勢が緊迫化しています。*1_P3
世界の海上原油輸送量の約2割を占めるホルムズ海峡では事実上の封鎖が続いており、原油供給の停滞懸念が市場で意識されるようになりました。
原油は世界経済を支える重要なエネルギー資源であるため、供給不安が高まると価格が上昇しやすくなります。*2_P2
原油価格の推移は以下の通りです。
出典)内閣府 「マンスリートピックスNo.82 原油価格の変動が国内物価に与える影響」P3
原油価格(WTI)は、米国・イスラエルによる攻撃前の2026年2月27日は67.0ドル/バレルでした。しかし、軍事衝突の長期化が意識されたことで、同年3月9日には一時119.5ドル/バレルまで急騰しました。同年3月25日時点では、90.3ドル/バレルとなっています。*3_P1-2
なお、WTIとは、米国テキサス州で産出される高品質な原油のことです。その先物は、原油価格の指標として世界的に注目されています。*4
日本はエネルギー資源の多くを海外からの輸入に頼っており、原油については輸入量の9割超を中東地域に依存しています。そのため、中東情勢が悪化すると、日本経済は大きな影響を受けやすくなります。
出典)三菱UFJアセットマネジメント 「グローバル時代の投資戦略 2026年4月号」P18
特にホルムズ海峡は、中東産原油をアジア各国へ輸送する重要ルートです。この海峡を通過できない状況が長引けば、「より輸送コストの高い迂回ルートを使う」「必要量を確保できない」など、日本国内への原油供給に支障が出る可能性があります。*3_P1
2026年4月、IMF(国際通貨基金)は2026年の世界経済成長率の見通しを3.1%と発表しました。イランへの攻撃が始まる2026年1月の発表時に比べて、0.2%引き下げられています。*5
IMFは「幅広いインフラが攻撃を受け、中東諸国のエネルギー関連施設や輸送路の被害が大きいため、ホルムズ海峡が解放されても原油供給の正常化には時間がかかる」としています。
原油価格の高騰は、燃料費や物流費などの増加によって企業利益を圧迫する可能性があります。ここでは、企業業績への主な影響を見ていきましょう。
米国・イスラエルのイラン攻撃により、株式市場ではリスク回避姿勢が強まり、世界の株価は幅広い国・地域で下落しました。特に、エネルギー依存度の高いアジアの国々(日本を含む)で下落率が大きくなりました。*2_P13
日本株については、幅広い業種で株安が進行しました。2026年2月末~3月末における、TOPIX(東証株価指数)の業種別指数の騰落率は以下の通りです。
出典)三菱UFJ銀行 「経済情報:ホルムズ海峡の事実上封鎖と世界経済への影響」P13
資源価格や船舶運賃の上昇が収益拡大につながるとの見方から、「鉱業」や「海運」は例外的に株価が上昇しました。しかし、その他の業種では幅広く株価が下落していることがわかります。特にコスト増が強く意識された、「空運」「ゴム製品」「機械」「輸送用機械」「非鉄金属」などの下落率が大きくなっています。*2_P13
原油価格の上昇は、企業コストを押し上げる要因になります。*6
日本は資源輸入国であるため、原油価格が上昇すると燃料費だけでなく、物流費や原材料価格も上昇しやすくなります。その結果、製造業や物流業を中心にコスト負担が増加して利益を圧迫します。*6
企業側がコスト増加分を価格転嫁できれば影響は限定的ですが、競争環境によっては値上げが難しいケースもあります。価格転嫁が進まなければ、利益率の低下につながります。
特に中小企業では、エネルギー価格や原材料価格の上昇を吸収しきれず、経営負担が重くなる可能性があります。
サプライチェーンとは、製品の原材料や部品の調達から販売まで、生産と流通の一連の流れを指す言葉です。*7
原油やナフサなどの石油製品の輸入が滞ることで、サプライチェーンの混乱を招き、企業の生産が下振れするリスクがあります。*8_P3
2026年3月の鉱工業生産は、前月比▲0.5%と市場予想(+1.1%)を下回りました。業種・品目別では、ガソリン・ナフサ等を含む石油・石炭製品が前月比▲7.7%、プラスチックが前月比▲7.6%で大幅減産となっています。*8_P3
特にプラスチックや化学繊維、塗料などの原料であるナフサは、食品包装、衣料資材、自動車部品など幅広い製品に使用されています。供給が不足すると生産の減少・停止につながるため、企業業績に影響が出る可能性があります。*9
原油価格の高騰は、企業だけでなく家計にも大きな影響を与えます。ここでは、消費者物価の動向や今後の見通しについて確認していきましょう。
2026年3月分の「消費者物価指数」の結果は以下の通りです。
出典)総務省 「2020年基準 消費者物価指数 全国 2026年(令和8年)3月分」P1をもとに筆者作成
総合指数は3ヵ月連続、生鮮食品を除く総合指数は2ヵ月連続で、前年同月比が2%割れとなりました。生鮮食品及びエネルギーを除く総合指数についても、5ヵ月連続で前年同月比は低下しています。コーヒー豆やチョコレートなど上昇幅が大きい品目もありますが、全体では物価上昇ペースは落ち着いているといえます。*10_P1-2
2026年3月分の消費者物価指数では、前月比でガソリンが+11.2%、灯油が+10.0%と大きく上昇しました。*10_P3
燃料油への支援策として、2026年3月19日から「中東情勢を踏まえた緊急的激変緩和措置」が開始されました。具体的には、燃料油補助金の基金残高を活用することで、ガソリンの全国平均小売価格は1リットルあたり170円程度に抑制されています。軽油や重油、灯油についても同様の措置が講じられています。*11_P2
この政府の支援策によって、家計の燃料費負担は軽減されています。ただし、現在の価格水準が続くと6月にも基金残高が枯渇するとの見方もあり、激変緩和措置がいつまで続けられるかは不透明な状況です。*12
原油高騰が長引けば、中長期ではさらなる物価上昇につながる可能性があります。*6
企業コストが継続的に増加すると、コストの吸収余地が縮小し、価格転嫁の動きが広がります。その結果、電気・ガス、食料、日用品など幅広い分野で値上げが進み、インフレ圧力が強まると考えられます。*6
家計にとっては大きな負担となるため、物価上昇に賃上げが追い付かなければ消費マインドが低下し、景気の下押し圧力が強まるでしょう。*6
今後は、原油供給の正常化やイラン情勢の改善が注目されます。また、物価上昇に対して賃金上昇がどこまで追いつくかも重要なポイントです。エネルギー価格や景気動向を注視しながら、家計や資産形成への影響を冷静に見極めることが大切です。
本コラム執筆時点における情報に基づいて作成しておりますので、最新情報との乖離にご注意ください。
出典
*1 三菱UFJアセットマネジメント 「グローバル時代の投資戦略 2026年4月号」
*2 三菱UFJ銀行 「経済情報:ホルムズ海峡の事実上封鎖と世界経済への影響」
*3 内閣府 「マンスリートピックスNo.82 原油価格の変動が国内物価に与える影響」
*4 三菱UFJアセットマネジメント 「WTI」
*5 NHK 「原油高 影響長期化も 世界は?日本は?」
*6 帝国データバンク 「2026年3月の原油価格高騰が日本経済に及ぼす影響」
*7 三菱UFJリサーチ&コンサルティング 「サプライチェーン」
*8 三菱UFJアセットマネジメント 「INVESTMENT STRATEGY MONTHLY(投資戦略マンスリー)2026年5月号」
*9 第一ライフ資産運用経済研究所 「【1分解説】ナフサ危機(ナフサショック)とは?」
*10 総務省 「2020年基準 消費者物価指数 全国 2026年(令和8年)3月分」
*11 経済産業省 「イラン情勢を踏まえた緊急的激変緩和措置について」
*12 日本経済新聞 「ガソリン補助金縮小、首相「出口戦略」に理解 玉木氏が提起」
