私たちが買い物などでお金を使う時、そこにはさまざまな心理が働いています。
なるべく得をしたい、あるいはなるべく損をしたくないと思うのは当然のことですし、人はその場で「一番良い選択をした」と思いたいものです。
しかし、自分の取る行動が本当に合理的なのでしょうか?
実は、そうでない時もあるようです。
そこで今回は、お金にまつわる心理学をいくつかみていきましょう。
みなさんも思い当たる節があるのではないでしょうか。少し奮発してホテルでのランチに出かけるとしましょう。
そこには4000円の「松」コース、3000円の「竹」コース、2000円の「梅」、と3つのコースがあります。
さて、みなさんはどれを選ぶでしょうか?
このとき、人は真ん中の「竹」を選びがち、という「松竹梅の法則」はよく知られている心理現象です。
では、なぜ真ん中を選んでしまうのでしょうか。
そこには、「損失の回避性」という傾向がはたらくからです*1。
例えば最も高いコースを選んでしまった場合、満足がいかなかった時に大きなショックを受けます。一方で、最も安いコースの場合、それでは満足できない可能性が高いと感じてしまい、その損失を回避した結果、真ん中を選んでしまうのです。
行動経済学の代表的な理論である「プロスペクト理論」によると、「人は利益を得る喜びよりも、損する苦痛の方が2倍以上強い」ということが明らかになっています*2。
「1万円得られる喜び」と「1万円失う痛み」は同じ大きさでなく、「1万円失う痛み」の方が2倍以上大きいというわけです。
かつて空き瓶の回収率の低さが問題になっていたイギリスでは、このようなことがありました*3。
空き瓶を入れると大きさや種類を判別してお金(インセンティブ)がもらえるという自動リサイクル機を設置し、そのことを告知したのですが回収率は変わりませんでした。
しかし、あるドリンクメーカーが飲み物の価格を「飲料代+瓶代」として販売したところ、回収率は70%になり、多くの空き瓶がリユースされることになったのです。
空き瓶の回収に協力することで得るインセンティブよりも、空き瓶を返さないと損をするという感情のほうが強く働いたのです。
次にご紹介するのが、割り勘についての心理学です。
仲間で食事に行って割り勘するとき、こんな心理がはたらくといいます。「割り勘のジレンマ」です*4。
「どうせ今日は割り勘なのだから、いつもは頼むのを躊躇してしまう高額のメニューを頼んでしまおう。自分一人が高額のメニューを頼んだところで、結局みんなで分担して払うのだから、一人一人の負担は小さいだろう」。
あるいは、
「割り勘なのに、自分だけが安いメニューを頼んでしまっては損をした気分だ。できるだけ高額のメニューを選ぼう」。
これらの結果、全員が高額のメニューを頼み、全員分の飲食代が高くなります。割り勘をしても結局高くついてしまう、というものです。
これは「社会的ジレンマ」として他のところでも起きています*4。
たとえば、放牧ができる共有地で、農民が自分の利益のために家畜の放牧数を増やしてしまえば、牧草がなくなってしまいます。また、水不足に備えて国民が少しでも多く水を確保しようと躍起になれば、水が不足してしまう、というものです。
さて、みなさんは買い物をする時、「半端な値段のもの」に魅力を感じることはないでしょうか?
例えば「1980円」という値段です。
ものの値段については「端数効果」という現象が知られています。
アメリカの心理学者らが、女性用の冬物衣類が掲載された通信販売用のカタログを3種類作成し、ある商品の値段設定を、Aのカタログでは「14.99ドル」、Bのカタログでは「15.00ドル」、Cのカタログでは「14.88ドル」としました。
さて、売れた商品数と売上金額はどのようになったでしょうか。
値段が一番安いはずのCのカタログでは、Aのカタログに及ばず、Bと同じ程度の商品数しか売れなかったのです。
これについて日本大学の戸島裕元教授は、「『.99』は『.00』から値下げされたという印象を強く受けるのに対し、『.88』は『.00』からやや離れており、値下げされたという意識が働きづらかったのかもしれません」と話しています*5。
ここまで、お金をめぐる心理学をいくつか紹介してきました。
不思議なことに、先ほど紹介したイギリスの空き瓶についての話題の場合、結果は同じなのに「得る喜びよりも失う痛み」という無意識によって片方の選択をしてしまう、あるいは「割り勘のジレンマの」ように、損をしない選択をしたはずが結局は高くついてしまう。そして、最後にご紹介したカタログでの実験のように、実は割安だったものを見逃してしまう、という心理がはたらきます。
色々と考えてお金を使ったはずなのに結果はそうなってはいない、ということが多々あることがわかります。
また、他にはこのような心理傾向があります*6。
同じ価値なのに違うように見えてしまう、こうした「思い込み」によらず、お金を賢く使っていきたいものです。
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本稿執筆時点における情報に基づいて作成しておりますので、最新情報との乖離にご注意ください。
出典
*1「別冊Newton ゼロからわかる心理学」p52-53
*2「プロスペクト理論を中小企業診断士が簡単に解説!応用例や注意点まで」朝日新聞デジタル
*3「受診率向上施策ハンドブック 明日から使えるナッジ理論」厚生労働省
*4,5「別冊Newton ゼロからわかる心理学」p44、50-51
*6「プロスペクト理論を中小企業診断士が簡単に解説!応用例や注意点まで」朝日新聞デジタル