logo
Money Canvas(マネーキャンバス)
back icon
clear
back icon
「上司からあまり信用されていません。どうしたらいいですか?」への本質的な回答
「上司からあまり信用されていません。どうしたらいいですか?」への本質的な回答

「上司からあまり信用されていません。どうしたらいいですか?」への本質的な回答

2024/07/14に公開
提供元:安達裕哉

「上司からあまり信頼されていないような気がします。どうしたらいいでしょう」という質問をもらうことがあります。

読者の皆様であれば、どのような回答をするでしょうか?

「先回りして上司のニーズをつかむ」
「挨拶をする」
「報告・連絡・相談」を徹底する
「成果をあげる」
「よくコミュニケーションを取る」

など、様々な回答があるでしょう。もちろん、どれも正解です。

しかし、それだけでは「信用を得る」ということに対して、十分な理解があるとは言えません。今回は、「信用とはなにか」について深く考察し、冒頭の質問に答えたいと思います。

***

働くようになってから「信用が大事」と何度言われたことでしょう。

能力を磨くとか、行動力が物をいうとか、ビジネスで大事なことは数あれど、「信用」ほど多くの人が重視していることはないように思えます。

しかし、改めて「信用ってなに?」と聞かれると、多くの人は答えに窮するのではないでしょうか。

実際、日本国語大辞典で「信用」を調べると、

・信じて任用すること
・信じて疑わないこと
・人望のあること
・評判のよいこと

などの意味が載っていますが、そもそも定義の中に「信じる」という言葉が入っています。そこでさらに「信じる」を調べると、

・物事を本当だと思う。また信頼する、信用する

とあります。結局、堂々巡りであり、その本質はよくわかりません。

しかし、こうした「意味のわからない言葉」を、先輩や講師はとりあげて「信用は大事!」というのです。

さらに、私がコンサルタントをやっていたころ、「信用」という言葉が経営理念に入っている会社はとても多かったです。

商売上「信用」が重要だと述べる経営者も決して少なくないですが、「では信用を得るために、社員にどのような行動を期待していますか?」と聞くと、「お客さんに気に入ってもらうこと」とか「満足してもらうこと」といった、抽象的な回答にとどまり、その本質まで踏み込んでいることは少ないです。
要は「なんとなく大事」というのが「信用」の実際なのでしょう。


信用とは何か

では本質的な意味での「信用」とは何なのでしょうか。

その言語化は非常に難しいですが、実は非常に有用な定義があります。
「安心社会から信頼社会へ」(山岸俊男 中公新書)には、「信頼(≒信用)とは何か」について、非常に詳細な考察がなされています。

細かい点を省くと、山岸は、信頼の定義を、次のようにしています。

「信頼」は、相手が裏切るかどうかわからない状況の中で、相手の人間性のゆえに、相手が自分を裏切らないだろうと考えること。

逆に、山岸は「信頼」と対になる概念として「安心」を掲げています。

「安心」は、相手が裏切るかどうかわからない状況の中で、相手の損得勘定のゆえに、相手が自分を裏切らないだろうと考えること。

信頼は不確実性を残したまま、人に期待を持たなければなりません。
しかし、安心は、システムやルール、約束事などによって、「相手が裏切る」という不確実性を減らすことで成り立っています。

例えば、「裏切ったら処刑される」という掟がある非合法な組織では、ボスが子分に持つのは「信頼」ではなく「安心」です。

三蔵法師が孫悟空に対して「頭を締め付ける輪があるから、裏切らないだろうと考えること」も「信頼」ではなく「安心」です。

山岸の洞察の優れている点は、「信頼」をベースにした人間関係と「安心」をベースにした人間関係を区別しているところにあります。

「安心」は直接人を信じなくとも仕組みによって機能し、逆に「信頼」とは文字通り「人間を信じている」からこそ成り立つのです。

これは非常に重要な示唆を含んでいます。つまり、「安心」が当事者間の評価を不要とする一方で、「信頼」は、それを得るのに、当事者間の「人を見る」スキルが必要だということです。

「安心」は仕組みや社会制度がそれを担保してくれる一方で、「信頼」は完全に「その人」に紐づいた属性となります。
だからこれは「個」対「個」、あるいは「組織」対「組織」の個別の話となります。

つまり「この人なら大丈夫」あるいは「この会社なら大丈夫」といった、個別の評価の集積が、すなわち「信用」の正体です。


信用とは評価の集積

ここで重要なのは、「評価」ではなく、「集積」の部分です。
つまり信用という言葉そのものに、時間の概念が含まれているのです。

評価の集積が「信用」であれば、つまりそれは「共に過ごした時間」が、信用そのものであるということです。

ブランドは歴史が長ければ長いほど、信頼されます。
クレジットカードにおける信用である「クレジットヒストリー」も時間の経過とともに積み上がります。
遠くの親戚より近くの他人が信用できるのは「ともに過ごす時間」が長いからです。

だから、信用を手っ取り早く得る方法はありません。

よく管理職研修などで、「部下からの信頼を得る(手っ取り早い)方法はないですか?」
と聞かれることがありますが、これは発想そのものが間違っていて、「手っ取り早く信用を得る事ができる」という考え方そのものが、信用の定義に反しているのです。

だから、とても大きな失態を犯して、上司の信用を失ってしまった部下が、一気に信用を取り戻すことはできません。

「上司からあまり信頼されていないような気がします。どうしたらいいでしょう」
という質問に対しては、「何年もかけて取り戻すしかない」としか言いようがないのです。

もちろん、大きなミスをして、取引先の信用を失った会社が、信用を取り戻すのにも、とても長い時間がかかります。一気にそれを得る方法はありません。

つまり「信用」を基礎とした人間関係全般は、「効率化できない」のです。

・一発で信用されるXX

とか、

・明日から、あっという間に頼られる

といった言説は、すべて嘘、とまではいきませんが、得られるのは信用ではなく、信用を得るための一つの「評価」にすぎません。



世界中で数千万人に読まれている、有名な自己啓発書、「7つの習慣」には、「信頼とは預金残高のようなもの」と書かれています。

評価に値する行動をとれば、評価が積み上がり、信用の残高が増える。
評価を損なうような行動を取れば、逆に信用の残高が下がり、ついにはそれが枯渇し、愛想を尽かされてしまう。

まさに「信頼残高」=「評価の集積」です。

「行動で作った問題を、言葉でごまかすことは出来ない」
と、「7つの習慣」にはありますが、信頼を重視するのであれば、まさに最も貴重な資源である、「時間」を投入しなければならないことを知っておくべきでしょう。

信頼は「お金」では買えないといいますが、まさにそのとおりなのです。


安達 裕哉
あだち ゆうや

1975年生まれ。デロイト トーマツ コンサルティング(現アビームコンサルティング)に入社後、品質マネジメント、人事などの分野でコンサルティングに従事。その後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサルティング部門の立ち上げに参画。
大阪支社長、東京支社長を歴任したのちに独立。
現在はマーケティング会社「ティネクト株式会社」の経営者として、コンサルティング、webメディアの運営支援、記事執筆などを行う。


安達裕哉氏のコラムをもっと読む


関連タグ
関連コラム
もっとみる >
Loading...
scroll-back-btn