
株価や為替、金融商品の価格を左右する要因のひとつに「地政学リスク」があります。
特定の国や地域の政治的・軍事的・社会的な緊張の高まりが、地理的な位置関係によって、その周辺地域や世界経済の先行きを不透明にするリスクのことです。
地球上には交通・物流上の大きな「チョークポイント(=要衝)」がいくつもあります。
例えば日本が直接他国と戦争や紛争状態になくても、原油や商社のタンカーの通り道でトラブルが生じると、わたしたちの産業や生活に必要な物資の輸入は滞り、価格が上昇することなどが考えられます。
いま世界にはどのような地政学リスクがあり、今後どのようなことが起こり得るかなどについて、ここで解説していきます。
地政学リスクが顕在化し、日本経済に大きな混乱を招いた代表的事例のひとつに、1970年代の「オイルショック」があります。
1973年10月の第四次中東戦争をきっかけに、中東産油諸国は原油生産量を削減したほか、一部「非友好国」への禁輸措置を取りました。*1
この動きが世界各国に衝撃を与えました。特に日本は石油の99%を海外から輸入、そのうちの8割を中東に依存していたため、経済に大打撃を受けました。
最近ではイスラエルのガザ侵攻をきっかけに中東が混乱を見せるなか、2025年6月22日に米軍がイランの核関連施設を空爆しました。対抗してイランがホルムズ海峡を封鎖する可能性が浮上し、市場には大きな懸念が広がりました。*2

ホルムズ海峡の位置
出典)第一生命経済研究所「【1分解説】ホルムズ海峡・マラッカ海峡とは?」
ホルムズ海峡はイランやサウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)などの産油国が面するペルシャ湾とオマーン湾の間に位置しています。1日あたり約2,000バレルの石油や石油製品がこの海峡を通って世界に運ばれています。

ホルムズ海峡を通過する石油・石油製品の量
出典)日本総研「イスラエル・イラン紛争は原油価格を押し上げ」
日本はイランから原油を輸入してはいませんが、世界的にはホルムズ海峡が封鎖されれば原油の国際価格は140ドルに急騰、日本としても他の産油国からの調達が滞り、日本のGDPは3%押し下げられるとの推計もありました。*3
ホルムズ海峡はまさに地形と政治が絡み合う、リスクある要衝なのです。アメリカとイランの間の緊張が高まった2019年には、日本の海運会社などのタンカーが攻撃を受けるという事態も発生しています。*4
そして今回も、2026年3月12日には日本国籍のコンテナ船が被弾したと報道されました。その後の3月21日になって、イランの外相が「日本船のホルムズ海峡通過を認める用意がある」と発言しています。3月24日には、イラン外相は「非敵対な船舶」がホルムズ海峡を通過できる可能性がある」と伝え、国連に書簡を送付したことが報じられています。「(いずれも3月25日時点)*5*6*7
ただ、具体的な日時はまだ明確ではありません。
また、ロシアのウクライナ侵攻が始まったのは2022年2月24日ですが、その直後、2022年の3月に入ってANAとJALは、ロシア上空を飛行する路線の航路変更を強いられ、かつ一部の欧州便を欠航せざるを得ない状況に追い込まれました。*8
迂回ルートを取ることで飛行時間は長くなり、 ANAの成田発ブリュッセル行きは飛行時間が約15時間半と従来比3割増え、JALの羽田発ロンドン行きの所要時間も約15時間40分と2割増えることになり、多方面に影響を与えていることでしょう。燃料費の増加も懸念されます。これらの要素は業績に影響を与えかねません。
では、今ある地政学リスク、そして2026年に警戒されている地政学リスクについて見ていきましょう。
世界を俯瞰すると、下のようなリスクが浮かび上がっています。
出典)三菱UFJリサーチ&コンサルティング「地政学リスクの展望(2025年12月)」
中東とウクライナ情勢には引き続き注意が必要ですが、他には台湾をめぐる情勢「台湾有事」にも注目したいところです。
台湾は日本と経済的な繋がりが非常に強い国です。2024年のデータでは日本は台湾の輸入相手国・地域として3位、輸出相手国・地域としては5位と上位に来ています。*9
台湾有事とは中国が台湾に侵攻し、統一しようとすることです。
台湾は中国の一部なのか、独立した政権を持った国家なのかという議論は長く続いていますが、近年頻繁に中国の演習船が台湾海峡に接近しニュースになっているのを見た人は多いことでしょう。最近は高市早苗首相の国会答弁やメディアでの発言でさらに注目されています。*10
首相が昨年11月に国会で、自衛隊が集団的自衛権を行使できる存立危機事態に「なり得る」と言明したときには、中国が日本産水産物の輸入再停止などの対抗措置に踏み切り、日中関係が急速に悪化したということもあります。
政治上の国際関係が漁業に影響を与えることもあるわけです。
なお台湾海峡をめぐる関係国の思惑は下のように分析されています。
出典)三菱UFJリサーチ&コンサルティング「地政学リスクの展望(2025年12月)」
ここにアメリカが登場するのには理由があります。
アメリカの台湾融和政策は台頭する中国を抑え込むことが主目的ですが、中でもハイテク競争において中国に負けてはならないという強い動機があるのです。*11
ここにも、米中経済対立の一端が見られます。
すぐに武力衝突が起きるとは思えませんが、挑発や関係国トップによる発言の一つ一つに市場は反応し続ける可能性があります。それほど「緊張」状態にあると言えるでしょう。
実際、高市早苗首相が国会答弁で台湾有事に触れた後には中国が自国民に対し日本への渡航を控えるよう勧告しました。この時は「ドン・キホーテ」を運営する パン・パシフィック・インターナショナルホールディングスのほか、良品計画やアシックス、ファーストリテイリングなど中国で事業を展開する小売り株が売られました。*12
また、米中対立の行方も相場を左右するでしょう。
他には、下に挙げる海洋輸送の要衝においてリスクが特に高いと言われています。*13
日本国内で起きていることだけを追っていても、グローバル経済の全容は見えてきません。
こうした「要衝」についての知識を少しつけるだけで、世界の見え方は大きく変わることでしょう。
本コラム執筆時点における情報に基づいて作成しておりますので、最新情報との乖離にご注意ください。
本コラムの内容は、特定の金融商品やサービスを推奨あるいは勧誘を目的とするものではありません。
最終的な投資判断、金融商品のご選択に際しては、お客さまご自身の判断でお取り組みをお願いいたします。
出典
*1 ENEOS「石油便覧 石油産業の歴史 第2章 第6節 石油危機(オイルショック)と石油高価格の時代」
*2 日本経済新聞「ホルムズ海峡封鎖に市場身構え 原油5カ月ぶり高値、LNG在庫は12日分」
*3 日本総研「イスラエル・イラン紛争は原油価格を押し上げ」
*4 日本経済新聞「ホルムズ海峡とは エネルギー供給の大動脈」
*5 BBC NEWS JAPAN「ホルムズ海峡で複数の船舶に攻撃、日本船籍のコンテナ船も」
*6 AFPBB News「イラン外相、日本船のホルムズ海峡通過認める用意 報道」
*7 ロイター通信「イラン、「非敵対船舶」ホルムズ通過容認も 国連に書簡」
*8 日本経済新聞「ANAとJAL、当面は迂回航路の使用継続」
*9 日本貿易振興機構(JETRO)「台湾 概況・ 基本統計」
*10 時々ドットコム「外交・安保巡る高市首相発言が波紋 台湾有事「逃げれば同盟崩壊」【2026衆院選】」
*11 ニューズウィーク日本版「アメリカはなぜ台湾を支援するのか──背後に米中ハイテク競争」
*12ブルームバーグ「資生堂など観光・消費関連株が下落、中国が日本渡航自粛呼び掛け」
*13 三菱UFJリサーチ&コンサルティング「地政学リスク」
