
2026年のアメリカの金融政策は、利下げ局面に入りつつも慎重な姿勢が続いています。
2025年まで利下げが進んだ一方、足元では政策金利が据え置かれ、2026年内の利下げも限定的との見方が広がっています。
その背景には、原油価格や中東情勢などによるインフレ再燃への懸念、米雇用統計の影響などがあります。
本コラムでは、最新情報を基に、こうした新たな要因と金融政策の関係に注目し、日本への影響について解説します。
まず、アメリカの利下げがどのようなものかみていきます。
利下げとは、各国の中央銀行が政策金利を引き下げる金融政策を指します。*1
その役割を担うのは、日本では日本銀行、アメリカでは連邦準備制度理事会(FRB)です。
政策金利とは、景気や物価を安定させるために決める金利のことで、政策金利が変わると、銀行の預金金利や住宅ローンなどの貸出金利にも影響が出ます。*2
景気が良くなりすぎて物価が上がりすぎると、金利を上げてお金を借りにくくし、経済の過熱を抑えます。
反対に、景気が悪くなると金利を下げてお金を借りやすくし、消費や投資を増やして経済を元気にしようとします。
金利が下がると、企業や家庭はお金を安く借りられるようになります。そのため、企業は設備投資をしやすくなり、家庭も買い物や住宅購入などにお金を使いやすくなります。*1
特に景気が弱いときには、この効果が期待されますが、金利を下げるかどうかは、景気の状況だけでなく、物価の動きや雇用の状況なども含めて総合的に判断されます。
また、貿易摩擦や経済制裁などで世界の情勢が不安定なときには、金利を下げることで市場を落ち着かせることもあります。
ただし、低金利の状態が長く続くと、不動産や株式の価格が上がりすぎてしまい、逆に金融市場が不安定になるおそれもあります。
さらに、金融政策は効果がすぐに出るわけではなく、実際に経済に影響が出るまでには時間がかかります。そのため、FRBは、さまざまな要素を慎重に見ながら、金利を下げるべきかどうかを判断しています。
次に、アメリカの利下げが投資に与える影響をみていきます。
アメリカで利下げが行われると、株価は一般に上がりやすくなります。*1
金利が下がる局面では、最初のうちは景気が悪い状態にあるため、企業業績の悪化が意識されて株価は下がりやすくなります。*2
ただし、金利の低下が進むと、お金を借りやすくなって消費や投資が回復し、景気の持ち直しが期待されるようになります。
こうした理由から、「これから企業の業績が良くなりそうだ」と考える投資家が増え、株価が上昇します。
また、家庭でも住宅ローンや自動車ローンなどの金利が下がるため、お金を使いやすくなります。その結果、消費が増え、企業の売上アップにもつながります。*1
さらに、金利が下がると債券の利回りが低くなるため、相対的に「債券より株のほうが魅力的」と考える人が増え、資金が株式に流れやすくなります。
一方で、長い目で見ると、金利が下がった影響は「なぜ金利が下げられたのか」によって変わります。
そのため投資家は、単に金利の動きだけを見るのではなく、今の景気の状況や、どの業界が影響を受けやすいのかをしっかり理解したうえで、市場の動きを見極めることが大切です。
アメリカの金融政策の変化は、間接的ではありますが、日本の株式市場にも大きな影響を与えると指摘されています。*3
アメリカで金利が下がると、日本との金利差が小さくなり、為替市場では円高になりやすくなります。
また、利下げによって米国の景気悪化を防ぐことができると考えられる場合は、投資家の安心感が高まり、世界的に株などのリスク資産に資金が向かいやすくなります。
その結果、日本株もプラスの影響を受ける可能性があります。
これまで、アメリカの利下げは不況や市場が不安定なときに行われており、経済を刺激する意図があったことが想定されます。*1
下の図1は、アメリカの政策金利と日経平均株価の推移を表しています。
図1 アメリカの政策金利と日経平均株価の推移 出典)三菱UFJeスマート証券 カブヨム「利下げとは?アメリカの利下げが株価に与える影響をわかりやすく解説」(2026年3月11日)
このグラフからわかるのは、株価は単に金利の上げ下げだけで決まるのではないということです。
FRBの政策金利と株価は、必ずしも逆に動くわけではなく、金利が上がっている局面でも株価が上昇することがあり、逆に金利が下がっても株価が下落する場面も見受けられます。
また、このグラフを長期的な視点で見ると、金利の上下にかかわらず株価は全体として上昇していることがわかります。
したがって、投資を検討する際には、金利の動きだけで判断するのではなく、「なぜ金利が動いているのか」という背景を理解し、今後の景気や企業業績の見通しなど、さまざまな情報をあわせて考えることが重要です。
また、短期的な値動きに振り回されず、長期的な視点で市場を見ることも大切です。
図1からもわかるように、2024年以降、アメリカは利下げ傾向にあります。
では、今後の見通しはどうでしょうか。
次の図2は、FRBの金融政策決定までの流れを表しています。*4
図2 FRBの金融政策決定等までの流れ
出典)三菱UFJ信託銀行「コラムVol.184 経済指標の見方・読み方:米国雇用関連指標編 ~雇用統計、ADP雇用統計、JOLTS等~」(2024年9月10日)
アメリカの金融政策は、FRBが開催するFOMC(米国連邦公開市場委員会)の会議で議論され、方針が発表されます。*5
FOMCが金融政策の方針を決める際に重視している指標として、図2の雇用指標に関連する「米雇用統計」と、景気動向に関連する「CPI(消費者物価指数)」が挙げられます。
市場では、政策金利が発表される前からこのような指標を確認し、今後金利が上がるのか下がるのかを予測しています。
以下では、それらの概要とそれぞれの動向についてみていきます。
金融政策を行う目的の1つに「物価の安定」があります。
その物価が安定しているかどうかを知る代表的な指標がCPIです。
CPIが前月比でマイナスになり、インフレが抑制されているとみなされると、市場では利下げ期待が高まります。
以下の表1は、2026年2月時点でのアメリカのCPIの12か月間の変化率です。*6
表1 アメリカの消費者物価指数(CPI)の12か月間の変化率(選択された項目別、季節調整なし)」(2026年2月)
出典)U.S.BUREAU OF LABOR STATISTICS“Consumer Price Index 12-month percentage change, Consumer Price Index, selected categories, February 2026, not seasonally adjusted”
この表をみると、マイナスを示しているのは、エネルギーコモディティー(原油やガソリンなどのエネルギー *7)が-5.2%で、そのうちガソリンが-5.6%となっています。
一方、他の項目はすべてプラスで、全体では2.4%となっています。
つまり、エネルギーだけは下がっているものの、全体として物価は上がっているという状況を表しています。
もう1つの指標は、米雇用統計です。
米雇用統計(Current Employment Statistics)とは、アメリカの雇用情勢を示した統計指標で、米労働省労働統計局(BLS)が調査結果を発表します。*8
雇用統計の中でも特に注目される指標が「失業率」です。*5
失業率の上昇は、景気が悪くなっているのではないかという懸念につながります。そのため、中央銀行は金利を下げて、お金を借りやすくし、企業の活動や人々の消費を活発にしようとします。
一方で、失業率が低い状態が続いている場合は、雇用が安定していると判断されるため、金利は無理に動かさず、そのまま維持されることが一般的です。
2026年4月、アメリカの雇用統計が発表され、同年3月の農業分野以外の就業者は前の月から17万8000人増加し、市場の予想を上回りました。*9
また、失業率も4.3%と前の月より0.1ポイント低下しました。
このことによって「雇用が悪くなっているのではないか」という不安は、いったん落ち着きそうです。
3月の雇用統計発表に先立つ2026年3月17~18日に、FRBはFOMCを開催し、政策金利の誘導目標を3.50~3.75%に維持することを決定しました。これは、2会合連続の据え置きとなります。
今回の決定に対しては、スティーブン・ミラン理事のみが0.25ポイントの利下げを主張して反対票を投じました。*10
今後の見通しについては、FOMC参加者19人がそれぞれ予測を発表しました。
2026年は利下げなしと予想する者が7人、1回分を予想する者が7人、2回分を予想する者が2人、3回分を予想する者が2人、4回分を予想する者が1人となっています。
FOMC後の記者会見では、中東情勢がアメリカ経済にどのような影響を与えるのかについて、物価の上昇(インフレ)や消費、雇用など、さまざまな視点から質問が出ました。
これに対して、ジェローム・パウエル議長は、「影響が出る可能性はある」と認めつつも、「どの程度の影響になるかは、現時点でははっきりわからない」と繰り返し説明しました。
また、特定の出来事について詳しく触れることは避けながらも、この5年間でパンデミックや関税などの大きな出来事が何度も起き、今回も新たなショック(中東情勢)が発生していることに言及しました。
そして、こうした出来事が続くことで、人々の「これから物価がどうなるか」という予想(インフレ期待)に悪影響を与える可能性があり、「厄介な問題になりかねない」として強い警戒感を示しました。
2026年のアメリカの金融政策は、利下げ局面に入りつつも慎重な姿勢が続いています。
物価や雇用は比較的安定している一方で、中東情勢などの不確実要因もあります。
FOMC参加者の予測によると、今後の利下げペースは限定的になる可能性があります。
ただし、投資を考える際は、金利の動きだけでなく、その背景にある景気や物価、雇用の状況を総合的に見ることが重要です。
また、短期的な変動に振り回されず、長期的な視点で市場を捉えることが、安定した資産形成につながるでしょう。
本コラム執筆時点における情報に基づいて作成しておりますので、最新情報との乖離にご注意ください。
本コラムの内容は、特定の金融商品やサービスを推奨あるいは勧誘を目的とするものではありません。
最終的な投資判断、金融商品のご選択に際しては、お客さまご自身の判断でお取り組みをお願いいたします。
出典
*1 三菱UFJeスマート証券 カブヨム「利下げとは?アメリカの利下げが株価に与える影響をわかりやすく解説」
*2 三菱UFJ銀行「政策金利」
*3 日本経済新聞「米雇用統計で利下げ観測加速 日本株の過熱感に注意 馬渕磨理子の有望IPO株レビュー」
*4 三菱UFJ信託銀行「コラムVol.184 経済指標の見方・読み方:米国雇用関連指標編 ~雇用統計、ADP雇用統計、JOLTS等~」
*5 三菱UFJeスマート証券 カブヨム「米国(アメリカ)の政策金利とは?推移と影響をわかりやすく解説」
*6 U.S.BUREAU OF LABOR STATISTICS「Consumer Price Index 12-month percentage change, Consumer Price Index, selected categories, February 2026, not seasonally adjusted」
*7 三菱UFJ銀行「コモディティ投資とは?投資信託のメリット・デメリットを解説!」
*8 東京証券取引所 東証マネ部!「米雇用統計とはどのような指標?注目を集める理由を解説」
*9 NHK「米 3月雇用統計 就業者は前月比17万8000人増 減速懸念和らぐ」
*10 JETRO「米FRB、2会合連続で政策金利を据え置き、今後の金融政策に対する見解の隔たりは依然大きい(米国)」
