
爆発的に進むAI関連市場の拡大について、現在の状況を「AIバブルではないか」「いつか崩壊するのではないか」といった声も聞かれるようになっています。
実際、AI関連企業だけでなく、半導体やメモリメーカーの株価も大きく上昇しており、市場の期待は非常に高い状況です。
もっとも、現時点では多くの専門家が「ただちにバブルとは言えない」との見方を示しています。一方で、将来的なリスク要因を指摘する声もあり、市場では活発な議論が続いています。
では、AI市場は本当にバブルなのでしょうか。それとも実需に支えられた成長局面なのでしょうか。実際のデータをもとに見ていきましょう。
まず、半導体の需要につながるデータの生成・通信・処理量の予測は、下のようになっています。
出典)日本経済研究所 「未来はシリコンに刻まれる ~2030年、半導体100兆円市場への展望~」
データ量は今後右肩上がりどころか、指数関数的に伸びるという予測です。そのぶん、データ処理に使われる半導体の需要も大きく増えていきます。
日本経済研究所は、2040年には2020年の100倍のデータ処理力が必要になると試算しています。*1
さてここ数年、日経平均株価が右肩上がりです。2026年5月13日には初の6万3000円台と最高値を更新するまでになりました。
日経平均の動き
出典)日経平均プロフィル 「日経平均株価」(2026年5月14日取得)
これほどの株価上昇の恩恵を自分たちは景気上昇という形で受けているのだろうか?
そう思う人は少なくないでしょう。
では、主要な半導体関連銘柄で構成される指数「日経半導体株指数」の同期間の動きを見てみましょう。
日経半導体指数の動き
出典)日経平均プロフィル 「日経半導体株指数」(2026年5月14日取得)
アメリカのイラン空爆が始まったのが2026年2月28日ですが、中東情勢をものともせずに右肩上がりを続けています。
半導体関連銘柄が日経平均を吊り上げる要因のひとつになっている可能性があります。
アメリカでも同様の現象が起きています。アメリカで半導体銘柄の代表的な指数となっているフィラデルフィア半導体株指数(SOX指数)の動きを見てみましょう。
出典)第一ライフ資産運用経済研究所 「日経平均6万円乗せを牽引する半導体市場の拡大」
アメリカによるイラン空爆開始時いったんは下落はしたものの、停戦協議が始まるとすぐさま大幅反発し、それ以降、急上昇トレンドはとどまることを知らない、といった様子です。
中東情勢への不安感から大きく値を下げる銘柄も多い中、AI、主に半導体関連銘柄は完全に切り離された存在と言えるでしょう。
ただ「AIバブル」が囁かれるのは、単に株価の急上昇だけが原因とは言えない側面があります。
AI業界の一部で、投資資金の流れに注目が集まっているのです。
囁かれているのは、米大手AIベンダーと周辺企業との取引についてです。*2
一例をあげると、ある米巨大AIベンダーが特定のメーカーから多額の資金提供を受け、一方でこのAIベンダーはこの半導体メーカーにAI開発用の半導体を調達しているという動きです。
ベンダーとメーカーの間で資金が行き来しているだけなのに、利益が膨らんで見えるという可能性が指摘されているということです。
このような資金のやりとりは「ベンダーファイナンス」と呼ばれます。特定の企業間で、資金が循環しているかのように見える状態です。
このAIベンダーは、他のAI向け半導体メーカーとも似たような取引をしています。
こうした動きが「ITバブル」の始まりに酷似しているとの指摘があるのです。*3
ITバブルとは、1990年代後半から2000年代初頭にかけてアメリカで生じた、インターネット関連企業中心の株価高騰とその後の大幅下落のことを指します。「ITバブル崩壊」、また「ドットコムバブル崩壊」などと呼ばれました。
ネットビジネスの成長が期待されただけでなく、それが広く経済活動に利用されることで、経済全体の生産性と成長力が大幅に強まる、との期待が高まったのです。
しかし蓋を開けてみれば、そうした期待は過大でした。
経済統計からは経済成長率と生産性が一時的に高まったようにも見えましたが、その主な要因はネットビジネスの普及がもたらしたものではなく、PCの生産拡大にありました。*4
このように実際の価値とかけ離れ、「期待」という根拠のない理由だけで株価だけが上昇していき、一方でその虚構が限界を迎え、当該企業が不渡りなどを出して投資家の資金が失われる、というのがバブルとその崩壊の本質です。
このような過去の経緯もあり、過度な期待により株価が上昇している可能性があるのではないかと警戒されているともいえるでしょう。
実態はベンダーファイナンスで市場規模が膨らんでいるだけなのでは?という思惑です。
2000年代にかけて発生したITバブルの記憶が色濃い市場関係者の一部に、「期待値先行で市場が盛り上がっている」という警戒感があっても、不自然ではないと言えるでしょう。
では、専門家は今の状況をどのように見ているのでしょうか。
J.P.モルガンのストラテジストは、少なくとも現時点では「過剰投資」というよりは「財務面にも配慮した、需要に基づく積極的な成長投資」と捉えることが可能、としています。*5
日本総研では、今の局面はITバブルと構造が異なり、アメリカのAI株高は当面持続するとの見立てが示されています。*6
ただこれはあくまで現時点の話であり、現在の大規模なAI投資がコスト先行となり情報産業の収益化が遅れるような局面になれば、株価は大きく下落する可能性があるとしています。
また、これは重要な視点だと筆者は考えますが、「実際のAIの普及度合い」が、AIへの設備投資に見合っているものかという視点も必要です。*7
なお、面白い話題もあります。あくまでネタですが、ChatGPTをはじめとする7つの生成AIに対し、こんな質問をしたというものです。*8
「『AIバブル』が存在すると考えるか。100語以内で答えて」。
「AIバブルがある」としたのはGrokです。
ChatGPTは「イエスでもありノーでもある」と答え、「古典的なバブル行動」が見られるとしつつ、投資とハイプ(過剰な宣伝)が「否定できないほど高水準」にあり、一部企業は「実体を伴わずにAIを追いかけ、過大評価されている」とも答えました。
そしてまだ到来していないとするのはPerplexityとMicrosoft Copilotで、いずれもAIバブルの兆しが「芽生えつつある」と示唆しました。両者は「投資と熱狂が急騰した」としており、Perplexityは、AIスタートアップの評価額が膨張し、成果が過剰に約束されるなど、進歩の持続可能なペースを「上回る速度」で進んでいると警告もしています。
Meta AIは「AIバブルは起きにくい」とする見方を紹介、バンク・オブ・アメリカの最近の調査結果にも言及しました。
Geminiは「本格的な『AIバブル』かどうかは議論の余地がある」としつつ、市場の一部に「投機的な過熱」があることは認めています。ClaudeもAIバブルの兆しがあることには同意し、「過去のバブルとは異なり、AIはすでに現実の価値を提供している」と結論づけたとのことです。
それぞれに主張がある「AIバブルか否か」という議論ですが、筆者としてはやはり「実需と投資がバランスしているか」という点が重要と感じます。
いくらお金をかけて技術を磨いたり大量生産したりしても、使い手が不在では意味をなさない、というのは全てにおける共通事項でしょう。
本コラム執筆時点における情報に基づいて作成しておりますので、最新情報との乖離にご注意ください。
最終的な投資判断、金融商品のご選択に際しては、お客さまご自身の判断でお取り組みをお願いいたします。
出典
*1 日本経済研究所 「未来はシリコンに刻まれる ~2030年、半導体100兆円市場への展望~」
*2 日本経済新聞 「オープンAI、いびつな取引 エヌビディアなどと資金循環 過剰投資で危うさ 200兆円計画」
*3 日本経済新聞 「NVIDIA『循環投資』とAI株のリスク 収益力弱くとも膨らむ市場」
*4 野村総合研究所 &N 未来開発ラボ 「2000年のITバブル崩壊から現在のAI株ブームを考える」
*5 J.P.モルガン・アセット・マネジメント 「AIバブルは崩壊間近? AIバブル崩壊に備えた投資戦略は?」
*6 日本総研 「米国のAI株高は当面持続する見込み ― ドットコム・バブルと構造的に異なる現在の株高 ―」
*7 第一ライフ資産運用経済研究所 「実体経済から見たAIバブルの検証~長期的な期待感は強いが、短期的な調整リスク~」
*8 Forbes JAPAN 「生成AIさえも『AIバブル』を認める──7つのAIは何と語ったか?」
