
近年、日本では金融政策の転換を背景に、長期金利の上昇が注目される場面が増えています。長期金利はニュースで耳にする機会が多い一方で、「国債とどのような関係があるのか」「住宅ローンや資産運用にどのような影響があるのか」と疑問を持つ人も少なくありません。
実際、長期金利の変動は、住宅ローン金利や預金金利だけでなく、株式など資産価格にも影響を与えるため、家計や資産運用を考えるうえで重要な指標の一つです。
本コラムでは、長期金利と国債の基本的な関係をわかりやすく解説するとともに、金利上昇・金利低下局面で影響を受けやすい資産やポートフォリオの考え方について紹介します。
長期金利は、国債市場の動向を示す重要な指標の一つです。国債価格との関係を理解することで、金利変動が資産運用に与える影響を把握しやすくなります。
長期金利とは、一般的に1年を超える期間で資金を貸し借りする際に適用される金利を指します。景気や物価、金融政策などさまざまな要因を反映して変動するため、「経済の基礎体温」とも呼ばれる重要な経済指標です。*1
なお、長期金利は市場で決まる金利であり、日本銀行などの中央銀行が金融政策によって操作・誘導する政策金利(短期金利)とは異なります。
国債は、償還までの期間によって2年・5年・10年・20年・30年・40年など、さまざまな種類に分かれています。そのなかでも10年物国債は、日本の長期金利を示す代表的な指標として市場で注目されています。*2
日本では、長期金利の代表的な指標として「新発10年物国債利回り」が用いられています。*3
国債とは、国が資金を調達するために発行する債券で、満期を迎えると元本が償還されるほか、保有期間中は利子が支払われます。*4
長期金利が上昇すると、一般的に国債価格は下落し、反対に長期金利が低下すると国債価格は上昇します。これは、金利が上昇するとすでに発行されている国債の利回りが相対的に低くなり、投資家からの需要が低下するためです。*5
たとえば、利率の低い既発国債は、より高い利回りの債券が発行されると相対的な魅力が低下します。その結果、価格が下落し、既発国債の利回りは上昇します。このように、国債価格と長期金利は逆の動きをする関係にあります。
長期金利は、金融政策や景気動向、物価見通し、海外の金利動向など、さまざまな要因を反映して市場で決まります。ここでは、長期金利が変動する主な理由を解説します。
長期金利は市場で決まる金利ですが、日本銀行の金融政策は、その動きに間接的な影響を与えます。日本銀行は物価の安定を目的に、公開市場操作(オペレーション)などを通じて金融市場に働きかけ、金利の形成に影響を及ぼしています。*6
たとえば、2016年から2024年3月までは、長期金利を一定水準に誘導する「イールドカーブコントロール(YCC)」を実施していました。現在では、市場参加者による国債の売買を通じて長期金利が形成されています。*7
また、日本銀行が長期国債を買い入れると国債の需要が高まり、国債価格の上昇を通じて長期金利が低下する要因となります。近年は国債の買入れ額を段階的に減額していますが、2026年6月の金融政策決定会合では、2027年4月以降は減額を停止する方針が示されました。*8
さらに、政府の財政政策も長期金利に影響を与えることがあります。たとえば、2026年6月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」を受けて国債が売られ、長期金利が上昇する場面もみられています。*9
長期金利は、日本銀行の金融政策だけでなく、物価の動向や将来の経済・物価見通しなど、さまざまな要因を反映して変動します。
一般的に市場で観測される名目長期金利は、「実質長期金利」「期待インフレ率」「リスクプレミアム」の3つの要素で構成されると考えられています。このうち、期待インフレ率は将来の物価上昇への見通しを示すものであり、長期金利を形成する要素の一つです。*10
実際に、近年は物価上昇やインフレ懸念の高まりが、長期金利の上昇要因となる局面もみられました。*11
2026年7月9日には、中東情勢が再び緊迫し原油価格が上昇したことにともない、インフレ懸念に伴う債券売りが強まりました。その結果、長期金利は1996年9月以来30年ぶりの高水準となる一時2.900%に上昇しました。*12
長期金利は、国内要因だけでなく、海外金利の動向からも影響を受けます。特に米国など主要国の金利動向は、日本の債券市場に影響を与える要因の一つです。*13
また、世界情勢の変化も長期金利に影響を与えます。たとえば、中東情勢の緊迫化によって原油価格が上昇すると、物価上昇への警戒感が高まり、インフレ懸念から国債が売られることがあります。
このように、長期金利は国内要因だけでなく、海外の金利動向や国際情勢など、グローバルな経済環境の影響も受けながら変動しています。
長期金利の変動は、住宅ローン金利や預貯金、債券・株式などの金融資産に影響を与えるため、家計や資産運用を考えるうえで重要なポイントです。
長期金利の変動は、一部の住宅ローン金利や預金金利にも影響を与えます。住宅ローンの固定金利は、一般的に新発10年物国債利回りなどの長期金利を参考に決定されるため、長期金利が上昇すると固定金利型の住宅ローン金利も上昇する可能性があります。*14
また、1年以上の定期預金の金利も長期金利を参考に決まるため、長期金利の上昇は預金金利の上昇につながる要因の一つとなります。*15
長期金利の変動は、国債だけでなく株式やREIT(不動産投資信託)などの資産価格にも影響を与えることがあります。
長期金利が上昇すると、企業にとって借入コストが増加し、設備投資が抑制されることで、企業収益を圧迫する可能性があります。その結果、景気の減速懸念から株価が下落することがあります。*16, *17
また、REITとは、多くの投資家から集めた資金で不動産を取得・運用し、そこから得られる収益を投資家に分配する金融商品です。*18
国債など相対的に安全性の高い資産の利回りが高まると、REITの相対的な魅力が低下し、価格下落につながることがあります。さらに、不動産投資にかかる資金調達コストの上昇により、収益が悪化するリスクもあります。*19
長期金利はさまざまな要因で変動し、資産価格にも影響を与えるため、金利動向だけでなく自身の投資目的やリスク許容度を踏まえて資産運用を行うことが重要です。
長期金利が上昇すると、国債の利回りが高まり、相対的に国債の魅力が高まることがあります。また、長期金利の変動は株価などの資産価格にも影響を与える可能性があります。*17
ただし、資産価格は長期金利だけで決まるものではなく、企業業績や景気動向、海外情勢、為替、投資家心理など、さまざまな要因によって変動します。そのため、長期金利は資産運用における判断材料の一つとして捉え、他の要因も踏まえて総合的に判断することが重要です。*20
長期金利は、景気や物価、金融政策、海外情勢などさまざまな要因によって変動するため、短期的な動きを正確に予測して投資判断を行うことは容易ではありません。特に個人投資家が金利動向を見極めながら頻繁に資産配分を変更することは、難易度が高いといえます。
そのため、資産運用では分散投資を基本とすることが重要です。分散投資とは、株式や債券など異なる値動きをする複数の資産に投資することで、特定の資産が値下がりした場合の影響を抑える考え方です。また、国内外の資産に分散する「地域分散」や、投資時期を分ける「時間分散」もリスクを抑える方法の一つです。*21
長期金利の動向は、資産運用における重要な判断材料の一つです。しかし、金利だけに依存した投資判断はリスクが高くなります。さまざまな市場環境に対応するためには、分散投資を通じてバランスの取れたポートフォリオを構築することが重要です。
長期金利と国債の関係を理解することで、金利変動が住宅ローンや金融資産に与える影響を把握しやすくなります。
金利動向だけに注目するのではなく、分散投資や長期的な視点を意識しながら、自身に合った資産運用を考えることが大切です。
本コラム執筆時点における情報に基づいて作成しておりますので、最新情報との乖離にご注意ください。
本コラムの内容は、特定の金融商品やサービスを推奨あるいは勧誘を目的とするものではありません。
最終的な投資判断、金融商品のご選択に際しては、お客さまご自身の判断でお取り組みをお願いいたします。
出典
*1 auじぶん銀行 「金利とは|意味や種類などをわかりやすく解説」
*2 財務省 「国債にはどんな種類がありますか」
*3 アセットマネジメントOne 「円金利を取り巻く経済環境」p.1
*4 財務省 「国債とはどのような金融商品なのですか」
*5 日本証券業協会 「債券価格と金利って、どういう関係なの?」
*6 日本銀行 「金融政策の概要」
*7 三菱UFJ信託銀行 「イールドカーブコントロール(YCC)」
*8 日本経済新聞 「日銀、1.0%への利上げ決定 国債買い入れ減額は27年4月以降停止」
*9 読売新聞 「金利上昇と円安の『骨太ショック』で迫られた修正、日銀の独立性明記…『責任ある積極財政』くすぶる懸念」
*10 内閣府 「第1章 長期金利上昇の要因と物価連動債の役割」p.40, p.41, p.42
*11 日本経済研究所 「長期金利上昇が映す財政不安」
*12 日本経済新聞 「長期金利上昇、30年ぶり一時2.9% 中東再び緊迫でインフレ懸念」
*13 国際通貨研究所 「長期金利上昇を主導する要因の変化と先行きへの示唆」p.1, p.2, p.3, p.4, p.5
*14 三菱UFJ銀行 「【2026年最新】住宅ローンの金利は今後どうなる?今後の金利上昇リスクを踏まえた住宅ローンの選び方」
*15 第一生命経済研究所 「資産運用のキホン ~その5:物価上昇のもとでは預金金利が物価上昇率を上回り続けることは難しい~」
*16 第一生命経済研究所 「長期金利の上昇が企業収益に及ぼす影響」p.1, p.2, p.4
*17 三菱UFJ銀行 「利上げとは?住宅ローンや為替・株価・物価に与える影響をわかりやすく解説」
*18 三菱UFJモルガン・スタンレー証券 「REIT」
*19 土地総合研究所 「金融環境の変化と不動産投資市場」p.26, p.36
*20 三菱UFJ銀行 「投資における『5つのリスク』を徹底解説!はじめての投資に役立つ基礎知識をおさえよう」
*21 三菱UFJ銀行 「分散投資とは?3つの方法と長期投資で安定リターンをめざす考え方を解説!」
