
物価高が続くなか、「なぜ日銀はもっと利上げをしないのか」と疑問を感じる人もいるでしょう。
インフレ時には、政策金利を引き上げて物価上昇を抑えるのが一般的です。しかし、現在はイラン情勢による原油価格の高騰や景気減速リスクが重なっているため、日銀は「インフレ抑制」と「景気への悪影響」の両方を慎重に見極めています。
この記事では、インフレの現状や日銀の金融政策の動向、利上げを見送る理由、今後の見通しについて解説します。
まずは、日本でインフレがどの程度進んでいるのかを確認しておきましょう。
消費者物価指数とは、消費者が購入する財・サービスの物価の動きを捉えるために、毎月公表される経済指標です。*1
以下は、消費者物価指数の前年度比および2026年の前年同月比をまとめたものです。
出典)総務省統計局 「(参考資料)調査結果の最近の動向等」P1
2023年~2025年にかけて、消費者物価指数は前年度比3%前後での上昇が続いています。*2_P1
一方で、2026年に入ってから前年同月比は低下傾向にあり、直近の2026年4月ではいずれも2%割れとなりました。主な要因として、政府の支援措置による電気・ガス料金の値引きやガソリン価格の抑制、米価格の上昇幅の縮小などが挙げられます。*2_P1
2026年もインフレ傾向が続いているものの、上記の結果から、直近の物価上昇ペースは落ち着いているといえます。
2026年2月末に米国・イスラエルがイランへの攻撃を開始し、イランも激しく応戦しました。中東諸国の産油施設が損傷し、原油の海上輸送の要衝であるホルムズ海峡は事実上の封鎖状態にあることから、原油価格が高騰しやすい状況にあります。*3_P5
日本はエネルギー資源の多くを海外からの輸入に依存しているため、原油価格の上昇はガソリン代や電気料金、物流コストなど幅広い分野へ影響します。*3_P18
原油価格の高止まりや国際物流の混乱が長引けば、さらなる物価上昇につながる可能性があるでしょう。*3_P5
次に、日銀による利上げの基本的な仕組みと政策金利の推移、直近の動向について説明します。
日本の中央銀行である日銀は、経済や物価の安定を図るために、景気の先行きを見極めながら政策金利の上げ下げを判断しています。*4
一般的に、利上げは景気の拡大局面で行われます。経済活動が活発になって需要が大きくなりすぎると、インフレが起こりやすくなります。日銀が政策金利を引き上げると金融機関の貸出金利も上がり、企業や個人の資金需要が抑えられるため、結果としてインフレの抑制が期待できます。*4
つまり、インフレ下では、物価上昇を落ち着かせるために利上げを実施するのが基本といえます。
日本では、物価が上がらないデフレが長く続いていたため、日銀はマイナス金利政策などによって低金利環境を維持してきました。しかし、近年は物価上昇率が高まり、賃上げの動きも広がってきたことから、日銀は徐々に金融政策の正常化へ動き始めています。
2024年3月にマイナス金利政策を解除し、その後も段階的に政策金利を引き上げてきました。2026年6月現在、政策金利は1.0%程度まで上昇しています。*5
ただし、政策金利から物価上昇率を差し引いた実質金利は、諸外国と比較すると依然として低い状況です。*3_P51
2026年6月の日銀金融政策決定会合では、政策金利を1.0%程度に引き上げることが決定されました。利上げは2025年12月の会合以来となります。*5
イラン情勢の悪化で先行きが不透明な状況にあるものの、原油価格の上昇を起点に企業間取引において価格転嫁が進んでいることを踏まえ、想定を超えて物価が上昇するリスクに対応する必要があると判断したと考えられます。*5
また、日銀は利上げ後も金融環境は緩和的であるとして、今後も段階的に利上げを進めていく姿勢を示しています。*5
インフレ傾向が続いているにも関わらず、日銀は急速な利上げに踏み切っていません。日本経済には「物価の上振れリスク」と「景気減速リスク」があり、双方への影響を見極めたうえで、適切な金融政策を判断する必要があるからです。詳しく見ていきましょう。
日銀は2026年4月の展望レポートにおいて、物価見通しを大幅に上方修正しました。
出典)三菱UFJアセットマネジメント 「INVESTMENT STRATEGY MONTHLY< 投資戦略マンスリー> 2026年5月号」P4
同レポートでは、イラン情勢の影響による原油価格の上昇が、エネルギー価格を中心に物価を押し上げる方向に作用することから、消費者物価の前年比は2026年が2%台後半、2027年度は2%台前半、2028年度は2%程度になると予想されています。*7_P1
また、「物価上昇率が大きく上振れていくリスクが顕在化し、それがその後の経済に悪影響を及ぼすことがないよう、十分に留意する必要がある」としています。*7_P1
2026年4月の会合では「ただちに利上げで対応するというところまでの緊急度はない」としたものの、日銀は対応が後手に回るリスク(いわゆるビハインドザカーブ)への警戒感を強めています。*6
一方で、イラン情勢の悪化でホルムズ海峡が事実上の封鎖状態にあり、原油やナフサなどの石油製品の価格が高止まりしています。また、サプライチェーン(原材料の調達から製造、販売までの一連の流れ)の大規模な混乱が生じ、日本企業の生産活動に大きな影響をもたらすリスクもあります。*6
先述のとおり、日本はエネルギー資源の多くを海外からの輸入に依存しています。
物流への影響が長期化した場合、企業の生産活動を低下させ、景気減速や物価上昇率の下押しにつながるかもしれません。*7_P6
景気が減速しそうなときに無理に利上げをすれば、日本経済に悪影響を及ぼす恐れがあるため、慎重な判断が求められます。*6
イラン情勢や景気・物価の動向次第では、追加利上げが実施される可能性もあります。ここでは、日銀利上げの見通しについて整理します。
景気動向は、今後の金融政策を左右する重要なポイントの一つです。
もしイラン情勢によるサプライチェーンの混乱が長期化すれば、原材料が手に入らず、企業の生産活動が停滞します。その影響で企業業績が低迷し、従業員の給与やボーナスが減って消費が低迷すれば、景気減速につながる恐れがあります。*6
そのような状況になれば、しばらく利上げを見送るという選択肢もあり得るでしょう。
一方で、日銀は展望レポートにおいて、原油価格の高止まりについては「物価の上振れリスクの方が大きい」との考えを示しています。*7_P6
また、「現在の実質金利がきわめて低い水準にあることを踏まえると、経済・物価・金融情勢に応じて、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくことになる」としており、利上げを目指すスタンスは維持していることを強調しています。*7_P9
「物価の上振れリスク」と「景気減速リスク」の双方を点検したうえで、インフレ抑制を優先する場合は、今後の会合で利上げを決める可能性もあるでしょう。
今後の日銀による利上げは、イラン情勢や景気・物価動向などを総合的に見ながら判断される見通しです。「物価の上振れリスク」と「景気減速リスク」に対し、日銀がどのように対応するかが注目されます。
本コラム執筆時点における情報に基づいて作成しておりますので、最新情報との乖離にご注意ください。
出典
*1 Money Canvas 「消費者物価指数とは?上がるとどうなる?直近の推移を含めてわかりやすく解説」
*2 総務省統計局 「(参考資料)調査結果の最近の動向等」
*3 三菱UFJアセットマネジメント 「グローバル時代の投資戦略 2026年4月号」
*4 三菱UFJ銀行 「利上げとは?住宅ローンや為替・株価・物価に与える影響をわかりやすく解説」
*5 NHK 「日銀 利上げ決定 政策金利1%程度に “物価上昇リスクに対応”」
*6 NHK 「【詳しく】日銀 利上げ見送り “物価上振れリスクに注意必要”」
*7 日本銀行 「経済・物価情勢の展望」
