
物価の上昇や円安への不安が続くなかで、中東情勢のニュースを目にする機会が増えています。
中東で軍事衝突や海上輸送の混乱が起きると、日本から遠く離れた地域の出来事であっても、家計や生活に影響が及ぶ可能性があります。
原油価格の上昇がガソリン代や電気・ガス料金に影響し、物流コストや企業の仕入れ価格、さらには株価や為替にも波及する可能性があるためです。
日本は原油輸入の中東依存度が高く、資源エネルギー庁の資料では、原油の中東依存度は9割を超えるとされています。
国際情勢の変動がエネルギー価格を通じて、家計や企業活動に影響しやすい構造にあるといえます。*1
足元の情勢を振り返ると、2026年2月28日にイスラエルがイランへの先制攻撃を行ったと表明し、米国による攻撃も報じられたことで、地域の緊張が高まりました。*2
その後、石油輸送の要所であるホルムズ海峡を巡る航行リスクが、世界経済の懸念材料となりました。
一方で、2026年6月下旬には、ホルムズ海峡を通じた原油輸送への懸念後退を受け、原油価格が下落する場面も見られました。*3
足元では、原油供給への懸念がいったん和らぐ一方で、停戦や航行の安定が続くかどうかは、なお見通しにくい局面といえるでしょう。
本記事では、中東情勢がなぜ緊迫したのか、その背景を整理し、原油価格や光熱費、株価・為替への波及経路について解説します。
今回の中東情勢が世界経済に与えた影響を理解するうえでは、「直接的な軍事衝突」と「世界的なエネルギー輸送ルートへの不安」が重なった点が重要です。
特に、世界の原油やLNG(液化天然ガス)輸送の要所であるホルムズ海峡の安全性が意識されたことで、日本のような資源輸入国では、エネルギーの安定調達を巡る懸念が強まりました。*4
情勢が大きく緊迫化した転機は、2026年2月28日にイスラエルがイランへの先制攻撃を行ったと表明したことです。
イスラエルがイランへの攻撃を開始し、米国による攻撃も報じられました。*2
この軍事行動を受け、イラン側の反発や周辺地域への緊張拡大が警戒されました。
日本の外務省も、中東情勢の緊迫化にともなう注意喚起を発出し、中東地域に滞在する人に対して、最新情報の収集や航空便の欠航・遅延への注意を呼びかけています。*5
現時点では、米国とイランの協議や攻撃停止に関する報道も見られます。
ただし、周辺地域の緊張やホルムズ海峡を巡る不確実性が解消されたわけではありません。*3
ニュースの表面的な動きだけでなく、停戦や航行の安定が継続するかを確認する必要があります。
ホルムズ海峡は、世界の石油・石油製品消費の約2割に相当する輸送が通過する重要な海上ルートです。
世界の石油輸送だけでなく、LNG貿易にとっても重要な経路となっています。*4
この海峡で通航制限や機雷(海に設置される爆発物)などへの懸念が高まると、供給が完全に遮断されなくても、輸送コストが上昇する可能性があります。
具体的には、安全確保のための迂回による海運運賃の高騰や船舶保険料の上昇などが考えられます。
2026年6月下旬、ホルムズ海峡を通る原油の流れが通常に近づいたとの報道がありました。
一方で、機雷除去などの影響により、通常航行への完全な回復には時間がかかる可能性も示されています。*3
つまり、ホルムズ海峡を巡る懸念は、単に「閉鎖されるかどうか」だけではありません。
通航が維持されていても、輸送コストや保険料の上昇を通じて、エネルギー価格や物価に影響する可能性があります。
生活への影響を考える際、最も注視したいのは「原油・燃料価格の変動」と「そのコストがどの経路で家計に波及するか」です。
原油価格の上昇は、ガソリン代のような直接的な費用だけでなく、物流や製造コストを通じて、さまざまな商品・サービスに波及する性質があります。
原油相場は、中東情勢の緊迫化によって大きく変動しました。
6月下旬には、ホルムズ海峡を通じた原油輸送への懸念がいったん和らぎ、戦闘開始前の水準に近づく場面もありました。*3
一方で、原油価格がいったん落ち着いたとしても、短期間で価格が大きく上下すること自体が、企業のコスト管理を難しくします。
燃料価格や輸送費の先行きが見えにくくなるため、物流、製造、小売など幅広い分野で価格設定に影響する可能性があります。
中東情勢は、ガソリン価格だけに影響するものではありません。
食品トレーや包装材、プラスチック製品、輸送費など、生活者からは見えにくいコストにも波及するため、行政も安定供給に向けた対応を呼びかけています。*6
家庭の電気代やガス代については、原油やLNG価格の変動が「燃料費調整制度」や「原料費調整制度」を通じて料金に反映される場合があります。
これらの制度は、燃料価格や原料価格の変動を一定のルールに基づいて料金へ反映させる仕組みです。
中東情勢を受けて、日本で特に注目されたのはLNGの供給です。
経済産業省によると、ホルムズ海峡を経由するLNGの年間輸入量は約400万トンで、日本全体の6%程度です。
また、電力・ガス会社は、この年間輸入量の約1年分に相当する400万トン弱の在庫を有しているとされています。*7
同省は、短期的に電力・ガスの安定供給に支障をきたす状況にはないとしつつ、事態が長期化・深刻化するリスクも想定して対応する必要があるとしています。*7
家計にとって警戒したいのは、供給不足だけではありません。
燃料価格や為替の変動が、時間差をおいて電気代・ガス代に反映される可能性があります。
政府は、2026年7月、8月および9月使用分を対象に、電気・ガス料金支援を実施することとしています。*8
中東情勢のような地政学リスクは、投資家心理や市場の変動要因にもなります。
ただし、株価や為替は中東情勢だけで動くわけではありません。
エネルギー価格、企業業績、米国景気、金利見通し、AI関連投資への期待など、複数の要因が重なって市場が動く点を押さえる必要があります。
中東情勢が悪化すると、一般的には投資家心理が冷え込み、株価の下押し要因になります。
一方で、日本株については、企業業績や海外投資家の動向、AI関連投資への期待なども同時に意識されています。
中東情勢が悪化すると、一般的には投資家心理が冷え込み、株価の下押し要因になり得ます。 一方で、日本株については、中東情勢だけでなく、企業業績や海外市場の動向、半導体・AI関連株の値動きなども同時に意識されます。
2026年6月末には、日経平均株価が7万円台で取引を終える日もありました。
米国株高やテクノロジー関連株の反発に加え、米国とイランの協議再開が伝わり、中東情勢への警戒がやや和らいだことも、日本株を支える材料になったとみられます。*9
ただし、相場全体が一様に強いわけではありません。
半導体・AI関連株の反発が指数を押し上げた一方で、市場全体にはなお弱さが残るとの見方もあります。*9
つまり、株価を見る際は「中東情勢が悪化したから株価が必ず下がる」「原油価格が下がったから株価が上がる」といった単純な見方は避ける必要があります。
複数の材料が同時に市場へ影響している点を押さえておくと良いでしょう。
家計への影響を考えるうえでは、原油価格だけでなく「為替(円安)」の動向にも注意が必要です。
6月下旬には、円相場が対ドルで円安方向に振れる場面がありました。
米国の利上げ観測に基づくドル買い圧力と、日本の通貨当局による為替介入への警戒感が併存していると報じられています。*10
日本は原油やLNGなどの多くを輸入に頼っているため、円安が進むと、ドル建て価格が落ち着いても円建ての輸入価格が高止まりする可能性があります。
日本銀行が公表した2026年5月の企業物価指数では、国内企業物価指数が前年比6.3%上昇しました。
輸入物価指数は円ベースで前年比25.5%上昇しており、輸入コストの上昇が企業間取引価格に影響していることがうかがえます。*11
また、2026年5月の企業向けサービス価格指数では、外航貨物輸送が前年比61.8%上昇しました。
輸送関連コストの上昇は、時間差をおいて商品やサービスの価格に反映される可能性があります。*12
原油価格が下落しても、円安が続けば、輸入コストの高止まりが家計負担に残る可能性があります。
原油価格と為替は、あわせて確認したい指標です。
政府は中東情勢の影響に対応するため、石油製品の供給確保や事業者向けの相談窓口設置などの対策を講じています。
経済産業省は「中東情勢関連対策ワンストップポータル」を設け、関連情報や相談窓口をまとめています。*13
生活者の視点では、「モノがなくなること」だけでなく、「物価上昇によって家計の購買力が下がること」にも注意が必要です。
家計では、固定費である電気・ガス代やガソリン代の変動に備え、支出の見直しや政府の料金支援の適用時期を確認しておくとよいでしょう。
個人事業主や自営業者の場合は、仕入れ価格や物流費の上昇が収支にどの程度影響しているかを確認しておくことが重要です。
原材料費や物流費の価格転嫁が難しい場合、事業収支の悪化が家計や消費行動にも波及する可能性があります。
また、投資の側面では、地政学リスクのニュースだけで短期的な売買判断に偏らないよう注意が必要です。
中東情勢は複雑な要因が絡み合うため、一つのニュースで相場の方向が決まるわけではありません。
資産運用をしている人は、生活資金と運用資金を分ける、特定の資産に集中しすぎないといった一般的な考え方もあります。
現時点での中東情勢は、外交協議の進展やホルムズ海峡を通じた原油輸送への懸念後退によって、緊張緩和への期待がある局面です。
一方で、地域情勢が完全に安定したとはいえず、再び原油価格や為替市場が不安定になる可能性もあります。
重要なのは、中東の出来事を「遠くの地域の出来事」として切り離さず、円安や物価高を通じて家計の収支にどう影響するかを確認することです。
原油価格の推移、円相場の変動、政府による電気・ガス料金支援の対象期間は、家計への影響を考えるうえで確認しておきたいポイントです。
中東情勢は短期間で変化する可能性があります。
ニュースの見出しだけで判断するのではなく、エネルギー価格、為替、物流コスト、政府支援策をあわせて見ていくことが、不透明な局面での家計管理に役立つでしょう。
本コラム執筆時点における情報に基づいて作成しておりますので、最新情報との乖離にご注意ください。
本コラムの内容は、特定の金融商品やサービスを推奨あるいは勧誘を目的とするものではありません。
最終的な投資判断、金融商品のご選択に際しては、お客さまご自身の判断でお取り組みをお願いいたします。
出典
*1 資源エネルギー庁 「中東情勢を踏まえた石油及び関連製品等に関する対応」
*2 Reuters 「Israel says it launched pre-emptive attack against Iran」
*3 Reuters 「Oil prices at pre-war levels on rising Middle East supply」
*4 U.S. Energy Information Administration 「World Oil Transit Chokepoints」
*5 外務省 海外安全ホームページ 「中東情勢の緊迫化に伴う注意喚起」
*6 農林水産省 「石油由来の食品容器包装等の安定供給に向けた御協力について(要請)」
*7 経済産業省 「燃料(LNG)の安定供給確保に向けて、電力・ガス事業者、資源開発事業者・商社との第4回官民連絡会議を開催しました」
*8 資源エネルギー庁 「エネルギー価格の支援について」
*9 Reuters 「Japan's Nikkei clocks best quarter on record on tech rebound」
*10 Reuters 「午後3時のドルは161円半ばで膠着、買い圧力と介入警戒が併存」
*11 日本銀行 「企業物価指数(2026年5月速報)」
*12 日本銀行 「企業向けサービス価格指数(2026年5月速報)」
*13 経済産業省 「中東情勢関連対策ワンストップポータル」
