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離婚コストとは?結婚離れの裏に潜む損失回避の心理
離婚コストとは?結婚離れの裏に潜む損失回避の心理

離婚コストとは?結婚離れの裏に潜む損失回避の心理

2024/03/07・提供元:雨宮紫苑

少子化に伴い、巷では「なぜ結婚しない人が増えているのか」が議論されている。


そこでよく言われるのが、「経済的余裕がない」「コスパが悪い」「自分の給料は自由に使いたい」のような、お金に関する問題だ。


しかしその議論のなかから、「離婚コスト」という視点が抜け落ちているのはなぜだろう。


結婚に関わる金銭問題について話すのなら、「離婚したときの経済的打撃」は、無視できないはずなのに。


同棲相手に別れを切り出され、頭をよぎったお金問題

わたしは大学生のころドイツに留学し、そこで現地の男子学生と付き合い始め、大学卒業後ドイツに移住して同棲、5年ほど経ってから籍を入れた。


そのあいだ特に大きな喧嘩はなかったが、たった1度だけ、別れ話が出た。わたしがバセドウ病にかかり精神的に不安定でほとんど引きこもりのような状態になり、彼から「日本に帰って療養したほうがいいんじゃないか」と言われたのだ。


それはつまり、別れを意味する。


彼からその話をされたときにまっさきに思ったのは、「今後の生活はどうなるんだろう」だった。


当時わたしたちは、彼の大学の学生寮の2人部屋に同居するかたちで同棲していた。学生寮なので家具は備え付けのうえ、とにかく家賃が安い。生活費も折半していたので、経済的負担は小さかった。


でももし、別れることになったら……?


日本に帰国するならお金がかかるし、ドイツに住み続けるなら外国人の学生でも貸してくれる家を見つけなきゃいけない。


家賃は倍以上を覚悟しなきゃいけないし、家具も全部買う必要がある。いったいいくらかかるんだろう。病気でバイトもできず貯金を切り崩している状態なのに……。


もちろん、わたしは彼と別れたくなかったから、関係性についてもおおいに悩んだ。3日間なにも食べられないくらい。


しかしそれと同時に、経済状況に対する不安が大きかったのも事実だ。


別々に暮らしているカップルであれば、別れて他人になることはそこまでむずかしくないだろう。しかし一緒に暮らしていると、別れたときの経済的打撃が大きいのだ。

お金をめぐり泥沼になる離婚ケース

30歳にもなると、身近な離婚話を時折耳にするようになる。


たとえばAちゃんは、大学卒業してすぐに入籍したが、キャリアを大事にしたいAちゃんと子どもがほしい夫で将来設計の溝が埋められず、離婚となった。


離婚自体はすぐに決まったが、どちらが家を出るのか、2人で買った家具はどちらが持って行くのか、車のローンはどう分担するのか、などでかなりモメたらしい。


お互い「もう他人になるから」と言いたい放題で、少しでも損をしないよう相手を攻撃しあう泥仕合。結局、弁護士に相談したそうだ。


また、Bちゃんは夫の束縛に耐えきれず離婚を切り出した。渋る夫を説得してどうにか離婚を認めさせたものの、夫は「自分の家だからお前が出て行け。家具を持ち出すことは一切許さないし、離婚してやるのだから金はびた一文払わない」と言い放った。


もともとBちゃんの家に夫が転がり込むかたちで同棲を開始し、結婚したにも関わらず、Bちゃんは家具をすべて置いて、逃げるように家を出たという。


将来子どものためにと貯めていた共同口座があったが、「離婚できればもうなんでもいい。関わりたくない」と全額放棄。


ほかにも、話し合いがこじれて離婚までの1か月間はホテル暮らしだったとか、結婚のために転職して年収が下がったから弁償しろと迫られたとか……。


そんな生々しい話を聞いてしまうと、「離婚コスト」がいかに大きいかを痛感する。

離婚した3組に1組が財産分与について話し合っていない現実

みなさんも、「教育費が支払われず貧困に陥るシングルマザー」「オシドリ夫婦で有名な俳優の〇〇、浮気で慰謝料〇億円!?」なんてニュースを見かけたことがあるだろう。


財産分与のために、離婚の際に裁判を起こす人だっているくらいだ。


離婚という状況下で、双方が納得するかたちでお金を分け合うのがいかにむずかしいかは、想像するまでもない。


家計をともにしていた以上、離婚してお金をどう分配するか、一緒に使っていた家や家具や車をどうするかなどの話し合いは必須。


しかし一生ともに生きていくことを誓った仲なのに悲しいことではあるが、「どうせ離婚するなら相手がどうなろうと知ったことか」と自己防衛を第一に考えたり、「相手を不幸にしてやる」と意図的に嫌がらせをしたりする人もいる。


意地悪をする気がなくとも、その後の生活がかかっているのだから、キレイゴトを言えない場面もあるだろう。


協議離婚の統計を見てみると、財産分与について合意できたのは、半数以下の39.6%にとどまっている。合意できなかったのは23.9%で、そもそも話し合っていない夫婦はなんと36.5%。


話し合わなかった理由は「話をすることがいやだったから」が37.9%とトップ。Bちゃんのように、「一刻も早く他人になりたい」と考える人が多いのだろう。


事実、婚姻費用の支払いをしなかった/されなかった理由を見ると、「離婚した相手と関わりたくなかったから」が31.5%と一番多い。*1


離婚時は話し合うべきお金に関する事柄が山ほどあるのに、話し合ってお互い納得して円満に……はとてもむずかしいのだ。


関係を断つために多くの妥協をし、離婚で経済的に大きな損失を被った人も多いだろう。


離婚のアレコレが済んだとしても、新しく家を借りて家具を用意して……と考えると、さらなる出費を覚悟する必要がある。


しかしこういった離婚コストは、結婚における金銭問題の議論で、なぜかまったく話題に上がらない。


「離婚したら大損する」となれば、損失回避の心理として、「ずっとシングルのほうがコスパがいいし気楽だ」と考えるのは当然の帰結なのに。

結婚離れとあわせて「離婚コスト」はもっと注目されるべき

もちろん、離婚せずに一生ともに幸せに暮らせるのならば、それが理想だ。


しかし3組に1組が離婚すると言われる現在、結婚=悪いこと、すべきではないこと、というわけでもない。結婚すれば、離婚することもある。


そしてその離婚が経済的に大きな負担になるとすれば、そのリスクを回避する方法として、結婚しないことを選ぶのも理解できる。


もしかしたら、よく聞く「独身のほうがお金を自由に使える」という主張の根拠の一端も、離婚コストにあるのかもしれない。
大きな経済的打撃である離婚コストは、いままで「各家庭の問題」としてあまり注目されることはなかった。


離婚の際の金銭問題を積極的に話したがる人は少ないし、離婚前提で結婚について話すのは心理的にはばかられる、というのもあるだろう。


しかし昔と違い、離婚が身近になり、共働きで夫婦ともにそれぞれ財産をもっているのが普通になった現在。離婚における金銭問題のかたちも変わってきているはず。


そんななかで「結婚しない理由」について話すなら、離婚コストについてもまた、目を向けていくべきじゃないだろうか。


結婚のデメリットには、「離婚する可能性」も含まれるのだから。


出典
*1、法務省「協議離婚に関する実態調査結果の概要」p26,27,31



雨宮紫苑

ドイツ在住フリーライター。Yahoo!ニュースや東洋経済オンライン、現代ビジネス、ハフィントンポストなどに寄稿。
著書に『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)がある。



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