「社会保険料が高すぎる」と感じる人がふえています。給与から天引きされるため気付きにくいものの、103万・106万・130万円の壁を超えると特に手取りが減りやすくなります。
本記事では、社会保険料の仕組みや算定基準、今後上がる可能性、企業による負担構造をわかりやすく解説。家計改善のヒントを得て、将来設計に役立てましょう。
待ちに待った冬のボーナス。給与明細を見てドキドキする瞬間は、誰しもが一度は経験したことがあるはずです。しかし、いざ中身を確認してみると、思っていたよりも手取りが少ないことに、がっかりした方もいらっしゃるのではないでしょうか。
社会保険料の負担は年々大きくなっているため、ボーナスから控除される金額も必然的にふえています。「なぜこんなに控除されてしまうのだろう」と思われている方に向けて、社会保険料の基本的な仕組みを解説します。
社会保険料とは、私たちが安心して暮らせる社会を維持するために、労働者と企業が共同で支払うお金のことです。
社会保険料のなかには以下のような種類があり、それぞれ異なる役割を持っています。
【健康保険】
病気やケガをしたときに、医療機関にかかった費用の一部を国や会社が負担してくれる制度。
【厚生年金保険】
老齢年金や障害年金、遺族年金などの年金を受け取れる制度。定年退職後も一定の金額を定期的に受け取れるため、老後の生活を支える重要な収入源となる。
【介護保険】
介護が必要な方が必要なサービスを適切に受けられるようにするため、社会全体で支える制度。
【雇用保険】
失業したときや病気やケガなどで働けなくなったときに、生活の安定を図るための保険制度。
社会保険料は、毎月の給与から自動的に天引きされ、会社がまとめて納付するのが原則です。給料から天引きされるメリットとして、従業員が自分で払う手間を省ける点や、納付忘れを防ぐことなどが挙げられます。
一方で、天引きされることで金額が目に見えにくく、
「知らないうちに、負担がふえた」
と感じることがあるかもしれません。
社会保険料の額を正確に把握するには、毎月の給与明細をしっかりチェックすることが大切です。
社会保険料は収入によって金額が変わります。すべての人の収入を細かく計算するのは難しいため、収入をいくつかの段階に分けて、それぞれの段階に合った保険料を定めています。以下でくわしく見ていきましょう。
「標準報酬月額」とは、給与を一定範囲ごとに区分して定める報酬額の目安のことです。これに基づき社会保険料が計算されるため、給与が上がれば社会保険料もふえる仕組みです。
【厚生年金】
1等級(8万8千円)から32等級(65万円)までの32等級に区分されている
【健康保険】
1級(5万8千円)から50級(139万円)までの全50等級に区分されている
ボーナス(賞与)にも社会保険料が課されるため、年収増が必ずしも手取りアップに直結しないことも把握しておきましょう。
基本給のほか、家族手当や通勤手当、残業手当などもすべて報酬額に含んで計算されます。
「社会保険料が高い」と感じる方が多いのは、さまざまな要因が複雑に絡み合っているからです。
その主な理由を3点解説します。
社会保険料が高いと感じるのは当然で、実際数値で見ても上がり続けているのです。
【厚生年金保険料率の上昇】
少子高齢化が進み、年金受給者数が増加する一方で、現役世代の数が減少する状況が深刻化しています。
この状況に対応するため、厚生年金の保険料率は、2004年度の13.58%から段階的に引き上げられ、2017年には18.3%にまで達しました。
この保険料率の上昇は、現役世代の収入から社会保険料として支払われる金額が増加することを意味し、経済的な負担が大きくなったことを示しています。*1
【健康保険料率の上昇】
健康保険(協会けんぽ)の保険料率は、2008年度には8%台後半だった地域も多く見られましたが、その後徐々に引き上げられています。
近年では多くの地域で保険料率が9~10%台に達しており、加入者の経済的な負担が大きくなっているのが現状です。
これは医療費増大や後期高齢者医療制度への支援強化が要因となっており、将来的にも上昇傾向が続く可能性があります。*2
【介護保険料・雇用保険料の増加】
介護保険料も高齢化にともない上昇傾向が続いています。
経済状況や政策判断で変動しますが、雇用保険料も増加傾向にあり、社会保険関連のトータル負担は高まっているといえるでしょう。*3 *4
社会保険料は、毎月の給与から天引きされます。つまり、社会保険料がふえれば、手取り額は減ることになります。
なお社会保険料の額は、年齢や扶養人数などによって異なるため、全員が同じというわけではありません。以下では2つのシミュレーション例を紹介します。
【例1】
・月収(総支給):30万円
・年齢:30歳、独身
・扶養人数:0人
上記の場合、手取り額は「249,030円」が目安です。
【例2】
・月収(総支給):40万円
・年齢:45歳、既婚
・扶養人数:2人(専業主婦(夫)+子1人)
上記の場合、手取り額は「329,746円」が目安です。
社会保険料は税金よりも目立ちにくいものの、実は非常に大きな負担となっています。
なぜ目立ちにくいのか、その理由には以下の3点が挙げられます。
1.給与天引きによる不可視化
健康保険・厚生年金・介護保険・雇用保険などが「社会保険料」としてひとくくりにされているため、それぞれの内容や費用について認識しにくい。
2.報道での扱いの違い
増税に関するニュースなどはすぐにセンセーショナルな報道がされる一方で、社会保険料に関するニュースなどは大きく取り上げられることは少ない傾向。そのため、人々の意識が向きにくい。
3.「給付」を前提とした仕組みである
将来の年金受給や医療費負担軽減などの見返りがわかりやすく、負担することに対する心理的抵抗が税に比べて小さい。
いわゆる「年収の壁」とは、収入がふえることで税金や社会保険料の負担がグッとふえる分かれ目の年収のことです。特に、配偶者の扶養に入っている人が、パートやアルバイトで働いている場合にこの壁を意識することが多いでしょう。
以下では「103万円の壁」「106万円の壁」「130万円の壁」について解説します。
「103万円の壁」とは、主にパートやアルバイトなどで働く人の給与に所得税がかかり始めるラインのことを指します。基礎控除と給与所得控除を差し引いた金額に対して所得税が課されるので、このラインを超えると手取り額が減ることになるでしょう。 〇「103万円の壁」とは?撤廃によるメリットと106・130万円の壁との関係を徹底解説
なお、この103万円という数字は、基礎控除(48万円)と給与所得控除(55万円)を合わせた金額です。これらの控除額は毎年見直される可能性があるため、将来的には変更になる可能性もあります。
103万円の壁や扶養で働く際の年収の壁について、くわしくはこちらの記事もあわせてご覧ください。
103万円を超えると、次は106万円・130万円の壁が現れます。それぞれの違いは以下のとおりです。
【106万円の壁】
106万円は、社会保険への加入義務が発生するラインです。従業員数が51人以上の会社で週に20時間以上働く場合、年収が106万円(=月額賃金88,000円以上)を超えると、原則として健康保険と厚生年金保険に加入しなければなりません。これは、2016年の社会保険料の改正によって導入された制度です。
【130万円の壁】
130万円を超えた場合、自分で国民健康保険や国民年金に加入しなければなりません。これまで配偶者の扶養に入っていた人も、扶養から外れることになります。
ここでは、社会保険料の今後について触れていきます。
そもそもなぜ社会保険料が高すぎるのか、その背景や動向を見ていきましょう。
少子高齢化による社会保障費の増大は、国の財政を圧迫しています。財政の安定化を図るためには、社会保険料の負担をふやすことが検討されます。
また団塊の世代の大部分が75歳以上の後期高齢者となる「2025年問題」も課題のひとつです。
医療や介護の費用が急激に増加することが予測されており、働く世代の社会保険料にも影響を与えるかもしれません。
社会保険料の見直しについては、各政党がそれぞれの意見を持っており、議論が続いています。
2024年12月には、自民・公明両党と国民民主党の6回目の税制協議が行われました。この会議では、与党側から控除額をさらに引き上げる新たな提案がなかったことに国民民主党が反発し、合意には至りませんでした。*5
今後の社会保険料率改定の方向性について、よりくわしく知りたい方は、各党の政策動向をチェックしておくと良いでしょう。
社会保険料は、国民皆保険を支える重要な財源です。
しかし近年、その負担が大きすぎて、企業の経営に影響を与えるという問題が顕在化しています。
ここでは、企業の負担と雇用の関係を見ていきましょう。
社会保険料は、企業が労働者負担分と同じくらいの額を「肩代わり」している実態があります。企業側の負担がふえると人件費全体に影響し、結果的に働く人にしわ寄せが来ることが懸念されます。
具体的には、社会保険料の負担増を吸収するために、基本給や昇給を抑えざるを得ない状況に追い込まれる可能性があるでしょう。
さらに新規従業員の雇用減少や、それにともなう人員不足による労働環境の悪化なども考えられます。
前述のとおり、企業経営において社会保険料は大きな負担となっています。今後さらに企業側の負担がふえていった場合、非正規雇用が拡大するかもしれません。
正社員として雇用すると、社会保険料の負担が大きくなるため、非正規雇用者の割合をふやすことが予想されるからです。
他には社会保険料の負担増を補うために、従業員の福利厚生を削減するケースも考えられます。
コストを抑えて経営を続けるため、企業側も苦渋の決断を迫られることがあるでしょう。
社会保険料は原則として所得に比例して支払額が決まるため、収入が減ればあわせて社会保険料の額も減ります。
ここでは手取り額を減らさない対策を3点紹介します。
社会保険料の負担増を直接的に下げることは現実的には難しく、代替手段として「手取りをふやす方法」を知っておくと良いでしょう。
代表的なのは「iDeCo」や「NISA」などの税制優遇制度を活用することです。
これらを適切に利用することで、効率的な資産形成が可能となり、社会保険料の負担増にも対応できます。
ただし、税制優遇制度は複雑であり、個人の状況によって最適な方法が異なります。できれば専門家に相談しながら進めることがおすすめです。
社会保険料の負担増に対応するためには、労働時間や働き方を見直すことも有効です。パート・アルバイトの場合は、扶養の範囲を超えないように労働時間(給与額)を調整できるため、雇用先に相談してみましょう。
また、全体の手取り額アップの方法としては、複数の職場を持つことや高時給の仕事を探すこと、
副業をすることなどが挙げられます。どのような働き方が自分に合っているのか、見直してみましょう。
日本の社会保険料は、毎年4~6月の給与(報酬)を元に「標準報酬月額」が決定される仕組みです。そして決定した標準報酬月額に基づいて、9月から翌年8月までの1年間の社会保険料が算出されることになります。
つまり、4~6月の給与が高い場合、等級が上がり、それにともない社会保険料の額も上がることになります。パート・アルバイトなどで労働日数が調整できる場合は、4~6月にどのくらい働くのか、しっかり検討しておくと良いでしょう。
社会保険料は国民全員にとって必要なものであり、大切な制度です。しかし、現在の保険料の支払い額は決して安くなく、手取り額に大きな影響を与えています。
まずは社会保険料について正しく理解して、どのような対策を行えるか検討してみましょう。手取り額をふやす方法を知ることで、将来に向けてお金を残せる可能性が高まります。
社会保険に関する制度や法律は今後変更するかもしれないので、今後の動向をチェックしておきましょう。
本コラム執筆時点における情報に基づいて作成しておりますので、最新情報との乖離にご注意ください。
出典
*1 日本年金機構「厚生年金保険料額表」
*2 全国健康保険協会「都道府県毎の保険料率」
*3 全国健康保険協会「令和6年度都道府県単位保険料率」
*4 厚生労働省「令和5年度雇用保険料率のご案内」
*5 NHK「「年収103万円の壁」新たな提案なく国民民主反発 合意至らず」