人材育成は、企業の成長と成功に不可欠な要素です。
しかし、新任管理職にとっては、部下の育成方法を理解し、実践することは大きな課題となります。
特に、日本型の雇用慣行である、「メンバーシップ型雇用」においては、現時点で業務遂行能力がなくても、今後の能力の伸びに期待をする「ポテンシャル採用」を行っていますが、実際にその人材をどのように育てるかについては、明確な指針がないことが多いのです。
そのため現場では、管理職が自己流で人材育成を行うケースが多く、その結果、期待したほど部下が成長しないという問題が生じています。
では、どうすればよいでしょうか。
重要なのは 「 管理職は、見込みのある部下だけ育てればいい」という価値観です。
本記事では、人材育成の原則について、この価値観を元に、以下の4つの観点から詳しく解説します。
さて、最初にご紹介する条件は、「最も重要な要件」と言っても良い条件です。
それは、 「コーチャブルな人だけを育てる」です。
コーチャブルとは、コーチ(coach)+可能(able)を組み合わせた造語で、建設的なフィードバックを求め、受け入れ、実行する意欲と能力を持つ人を指します。
端的に言えば「謙虚である」と言い換えられます。
逆に言えば「素直でない人間に教育リソースを投じてはならない」とも言えます。
「全員に対して平等に接するべきでは?」
と思う方もいるかも知れませんが、ビジネスにおいてはそれは不合理です。
会社は小学校ではありません。
「上司の言うことを聞く気のある人」
「費用対効果の合う人」
だけに、上司の貴重な時間を投じるのは当たり前です。
スティーブ・ジョブス(Apple創業者)、エリック・シュミット(Google元CEO)、ラリー・ペイジ(Google創業者)など、名だたるシリコンバレーの経営者のコーチを務めたことで有名な、ビル・キャンベルは「コーチャブルな人材」のみをサービスの対象とし、面接をクリアしなかった人間に対しては、冷たくあしらったといいます。
「ビルが求めたコーチャブルな資質とは、『正直さ』と『謙虚さ』、『あきらめず努力を厭わない姿勢』、『つねに学ぼうとする意欲』である。なぜ正直さと謙虚さが必要かといえば、コーチングの関係を成功させるには、ビジネス上の関係で一般に求められるよりも、はるかに赤裸々に自分の弱さをさらけだす必要があるからだ。」
出典:エリック・シュミット, ジョナサン・ローゼンバーグ, 等著「1兆ドルコーチ――シリコンバレーのレジェンド ビル・キャンベルの成功の教え」,ダイヤモンド社
ですから、期首のミーティングなどで結構ですので、育成の対象者に対して、次のような質問を投げかけてください。
これらの質問を通じて、候補者がコーチャブルかどうかを判断しましょう。厳しい意見に対しても、それを基に自己改善を行う能力を見きわねばなりません。
さらに、実際の業務シミュレーションを行うことも有効です。
例えば、グループディスカッションやロールプレイングを通じて、候補者がどのようにフィードバックを受け入れ、対応するかを観察することができます。これにより、面接だけでは見えにくい実際の行動パターンを確認することができます。
次に重要なのは、「長所伸展」です。
人材育成においては、個々の長所を伸ばすことが重要です。企業は、従業員の強みを活かし、これをさらに伸ばすための環境を提供する必要があります。
しかしこれは言葉でいうほど簡単ではありません。
「長所を進展する」ということは、 「短所に対しては目をつぶる」ことも重要だからです。
ピーター・ドラッカーは次のように言っています。
「しかし何ごとかをなし遂げるのは、強みによってである。弱みによって何かを行うことはできない。できないことによって何かを行うことなど、とうていできない。」
出典:ピーター・ドラッカー「マネジメント」,ダイヤモンド社
「成果をあげるためには、人の強みを生かさなければならない。弱みを気にしすぎてはならない。利用できるかぎりのあらゆる強み、すなわち同僚の強み、上司の強み、自らの強みを総動員しなければならない。強みこそが機会である。強みを生かすことは組織に特有の機能である。」
出典:ピーター・ドラッカー「経営者の条件」,ダイヤモンド社
弱みを補うように教育をするのではなく、強みをさらに強化するように動くのが、人材育成の基本なのです。
ですから、研修などを受けさせる場合は「強み」をさらに強化する方向で受けさせます。
例えば、コミュニケーション能力が高い従業員には、リーダーシップ研修を受けさせるなどです。
さらに、技術的なスキルが高い従業員には、最新の技術トレンドに関する研修を提供することで、彼らの専門知識を深めることができます。
また、従業員の強みを活かせるプロジェクトに参加させることで、実践的な経験を積ませます。これにより、強みをさらに伸ばすことができます。
例えば、クリエイティブなアイデアを持つ従業員には、新製品の開発プロジェクトに参加させることで、その創造力を発揮させることができます。また、分析力に優れた従業員には、データ分析プロジェクトに参加させることで、彼らのスキルをさらに磨くことができます。
さらに、企業文化として長所を重視する姿勢を持つことも大切です。
例えば、定期的に「強みを活かした成功事例」を共有する場を設けることで、従業員同士が互いの強みを認識し、学び合うことができます。
人材育成においては、教育と実践のバランスが重要です。
教育は基礎的な知識やスキルの習得に役立ちますが、実践を通じてこれらを応用し、実際の業務に活かすことが求められます。
教育だけでは理論的な知識に留まりがちですが、実践を通じて初めてその知識が生きたものとなります。
したがって、具体的な方法として、以下のようなものがあります:
実際の業務を通じて学ぶ機会を提供します。これにより、従業員は現場での問題解決能力を高めることができます。
例えば、新入社員が先輩社員と一緒にプロジェクトに参加することで、実際の業務フローや問題解決の手法を学ぶことができます。これをOJT(オンザジョブトレーニング)といいます。
OJTは、理論と実践を結びつける最も効果的な方法の一つです。さらに、OJTは従業員同士のコミュニケーションを促進し、チームワークの向上にも寄与します。例えば、プロジェクトの進行中に発生する問題をチームで解決することで、協力の重要性を学ぶことができます。
注意すべきは「能力の高い部下」ほど、「成果を上げている良い先輩」につけることです。
エース候補を、エースにつけて学ばせる。
能力のある人は、能力のある人につけると圧倒的な伸びを見せます。
エースに「見込みのない人をつける」ような無駄なことは絶対に避けるべきです。
また、教育と実践のバランスを取るためには、定期的な評価とフィードバックが重要です。例えば、四半期ごとに評価面談を行い、従業員の進捗状況を確認し、次のステップに向けたアドバイスを提供することが有効です。
能力の高い人のアドバイスは、能力の高い人にしか理解されません。
フィードバックは、従業員のモチベーションを高め、自己改善の意識を促進するためにも欠かせませんから、適切な人材を当てることで、従業員は自分の強みや改善点を明確に理解することができます。
さらに、企業全体の文化として学習と成長を重視する姿勢が求められます。例えば、定期的な社内研修や勉強会を開催し、従業員同士が知識や経験を共有する場を設けることが有効です。これにより、従業員は常に新しい知識を吸収し、実践を通じてそれを活かすことができる環境が整います。
結局のところ、限られたリソースを効果的に活用するためには、育成対象を選択し集中することが重要です。
育成は不平等に行うこと。組織の目標や戦略に基づき、将来的に重要な役割を担う可能性の高い人材を特定し、重点的に育成することが求められます。
そのためには、現在のスキルや将来のポテンシャルを定期的に評価し、育成対象を選定します。
特に、パフォーマンス評価では、業績や成果だけでなく、行動や態度も評価対象とします。
「伸びる人材」は、結局のところ良いマインドセットを身に着けているからです。
ただし、マインドセットは、それまでの人生における価値観が強く反映されます。
上司がこれを変えることは難しく、マインドセットに働きかける試みはほとんど徒労に終わりますから、「選択と集中」がますます重要になるのです。
実際、 会社の8割の業績は上位の2割の人間が出していると言っても大げさではありません。
その2割を育てることこそ、上司の大きな役割です。
ですから、選定された人材に対しては、綿密、かつ具体的な育成プランを策定します。これには、研修プログラムやメンタリング、コーチングなどが含まれます。
良い先輩をつけて、専門知識やスキルの向上を図り、経験豊富な先輩社員がアドバイスやサポートを行います。コーチングでは、個々の課題や目標に対して具体的な指導を行い、成長を促進します。
結局のところ、育成対象の選定には、組織の戦略や目標を考慮することが重要です。
例えば組織が新しい市場に進出する場合、その市場に対応できるスキルや知識を持つ人材を育成することが求められます。
また、リーダーシップの育成も重要です。将来的にリーダーシップを発揮できる人材を早期に特定し、リーダーシップ研修やプロジェクトマネジメントの経験を積ませることで、組織の持続的な成長を支えることができます。
人材育成は、企業の成長と成功に不可欠な要素です。
しかし、学校で行われているような、「みんな平等に」という考え方はよくありません。
むしろ、強い人をもっと強く、全体を引っ張るリーダーとして、選抜していくという環境を作ることが重要なのです。
皆様が、自信を持って部下を育成し、迷いなく次世代のリーダーを選抜できるようになることを願っております。