
不動産相場の高騰や物価高などを背景として、借主が貸主から家賃の値上げを求められるケースが相次いでいます。
特に生活費や事業上の収支がギリギリの借主にとっては、家賃の値上げは大打撃になってしまいかねません。
家賃の値上げは原則として、貸主と借主の合意によって行います。したがって、貸主から一方的に家賃の値上げを通告されても、それに応じる必要はありません。
ただし、家賃の金額が不相当になっている場合は、貸主の「借賃増額請求」によって一方的な値上げが認められることがあるのでご注意ください。
本記事では、家賃の値上げに関する法律上のルールや、家賃の値上げを通告された借主の対処法などを解説します。
貸主から家賃の値上げを通告されたら、借主は受け入れなければならないと勘違いしている人が多いように思われます。
しかし、賃貸物件の家賃は契約によって決まるものです。契約とは貸主と借主の合意なので、家賃の値上げも合意によって行うのが原則となります。
したがって、貸主から一方的に家賃の値上げを通告されても、借主がそれを受け入れる必要はありません。家賃の値上げに応じないからといって、すぐに退去を強制されることもありません。
ただし法律の規定により、貸主による一方的な家賃の値上げが認められるケースもあります。借地借家法で定められている「借賃増額請求」の要件を満たせば、貸主の請求による家賃の値上げが認められます。
借地借家法によって借賃増額請求が認められているのは、賃貸借契約の締結時から事情が変わって、不相当になった家賃を是正するためです。
たとえば不動産相場が高騰すれば、それに伴って家賃も引き上げるのが適切と考えられます。
仮に賃貸借契約を締結したのが20年前である場合、当時と現在とは不動産価格が大きく異なります。しかし前述のとおり、家賃の値上げは貸主と借主の合意によるのが原則です。
合意でしか家賃を上げられないとすれば、20年前の家賃がずっと据え置かれることになり、貸主にとっては酷な状況となります。
このような状況を是正するため、借地借家法32条によって借賃増額請求が認められています。事情変更によって家賃が不相当になった場合には、貸主が将来に向かって家賃を値上げするよう請求できるものとされています。
借賃増額請求が認められるのは、建物の借賃(家賃)が不相当になった場合です。
上記の場合の例として、借地借家法では以下のケースが挙げられています。ただしこれらに限らず、あらゆる事情を総合的に考慮して、家賃が不相当になったかどうかが判断されます。
特に近年では、首都圏を中心に不動産相場が高騰しています。高騰している地域の建物については、借賃増額請求が認められる可能性が高まっていると考えられます。
借賃増額請求は、まず貸主と借主の協議によって行います。
貸主は借主に対し、家賃の値上げを求める文書を送付するのが一般的です。借主がそれに応じる形で協議を開始し、合意が得られれば書面を交わして新家賃を取り決めます。
協議が調わない場合は、裁判手続きによって家賃の値上げの可否や金額が争われます。
借賃増額請求については「調停前置主義」が採用されています。調停前置主義とは、訴訟よりも先に調停を申し立てなければならないという原則です。
訴訟:裁判所の判決による強制的な解決を求める手続き。原則として公開で行われます。
調停:当事者の話し合いによって解決を目指す手続き。非公開で行われます。
調停では、中立の調停委員が貸主と借主の言い分を聞き、歩み寄りを促すなどして合意形成を図ります。合意が得られれば、その額に家賃が変更されます。
合意が得られないときは、調停が不成立となって終了します。貸主が引き続き家賃の値上げを求める場合は、裁判所に訴訟を提起します。
訴訟では、家賃を値上げすべきである理由を貸主が主張・立証し、借主がこれに反論します。裁判所は双方の主張を聞き取ったうえで、判決によって結論を示します。
ただし、訴訟の途中で和解が成立した場合は、合意によって定められた額に家賃が変更され、訴訟が終了します。
貸主の借賃増額請求が認められた場合は、合意または判決によって決まった額に家賃が値上げされます。
訴訟の判決によって家賃の値上げが認められた場合は、当初の請求時に遡って家賃が値上げされます。この場合、借主は貸主に対して、実際に支払ってきた家賃と値上げ後の家賃の差額に年10%の利息を上乗せして支払わなければなりません。
これに対して、協議・調停・和解によって家賃を値上げすることになった場合は、値上げの時期などは合意内容に従います。
貸主が家賃の値上げを求め、借主が拒否することによって生じた争いは、借主が物件から立ち退く形で解決することもあります。
借主が立ち退く場合、貸主が借主に「立退料」や「解決金」などを支払うのが一般的です。
立退料などの額は交渉によって決まりますが、少なくとも家賃の6~12か月分程度を支払うのが標準的と思われます。
貸主から一方的に家賃の値上げを通告されても、借主はすぐにそれを受け入れるべきではありません。
まずは借賃増額請求の要件を踏まえて、貸主の主張が正当なものであるかどうかをよく検討しましょう。その際には、弁護士のアドバイスを求めることをおすすめします。
値上げを受け入れるか、それとも拒否して争うかは、以下のポイントなどを考慮して総合的に判断しましょう。
家賃の値上げは、借主にとって死活問題です。一度値上げを受け入れると、固定費の負担が重くなって生活や事業が苦しくなるおそれがあります。
貸主から一方的な家賃の値上げ通告を受けても、必ずしも受け入れる必要はありません。家賃の値上げは、貸主と借主の合意によって行うのが原則だからです。
ただし家賃の値上げを拒否すると、貸主は裁判所に調停を申し立てたり、訴訟を提起したりする可能性があります。調停や訴訟への対応には手間がかかるのが、借主にとっては悩ましいところです。
家賃の値上げを受け入れるか、それとも拒否するかは、総合的な観点からケースバイケースで判断せざるを得ません。迷ったら無料相談ができる弁護士などに相談してみましょう。
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