企業の経営状態が悪化すると、借金などの債務を支払えなくなることがあります。そんなときに利用されるのが「自己破産」や「民事再生」の手続きです。
本記事では、自己破産と民事再生の概要や違い、どんなときに利用されるのか、投資先の企業が自己破産や民事再生を申し立てたらどうなるのかなどを解説します。
「自己破産」と「民事再生」は、借金などの債務に苦しんでいる者を救済する手続きです。個人・法人のいずれも利用できますが、本記事では法人の自己破産と民事再生に絞って解説します。
「自己破産」は、会社の財産を処分して債権者に配当した後、会社を清算して法人格を消滅させる手続きです。
裁判所によって選任される破産管財人が、会社財産の処分と債権者への配当を行います。
財務状態が極端に悪くなり、再建が不可能と思われる会社については、自己破産が選択されることがあります。
「民事再生」とは、会社を清算せずに残したまま、債務を圧縮して経営再建を図る手続きです。
民事再生手続きの中で「再生計画」が作成され、その内容に従って会社の債務が減額されます。会社は、減額後の債務を再生計画に従って支払いつつ、経営再建を目指します。
財務状態が非常に悪いものの、債務を圧縮すれば経営再建が可能と思われる会社については、民事再生が選択されることがあります。
自己破産または民事再生を行うためには、「支払不能」または「債務超過」という法律上の要件を満たす必要があります。
会社が「支払不能」の状態にある場合は、自己破産または民事再生を申し立てることができます(破産法15条1項、民事再生法21条1項)。
「支払不能」とは、支払能力を欠くために、弁済期にある会社の債務を一般的かつ継続的に弁済することができない状態です(破産法2条11項)。
言い換えれば、すでに支払期限が過ぎている債務がたくさんあり、その全般をずっと支払えていない状態が支払不能に当たります。
すでに支払不能に陥っている場合には、経営再建の見込みがないものとして自己破産が選択されるケースが多いです。ただし、経営再建の見込みがあると思われる場合は、民事再生が選択されることもあります。
会社が「債務超過」の状態にある場合も、自己破産または民事再生を申し立てることができます(合名会社および合資会社を除く。破産法16条1項、民事再生法21条1項前段)。
「債務超過」とは、会社の財産をもって債務を完済することができない状態です(破産法16条1項)。貸借対照表の「負債の部」の金額が、「資産の部」の金額を上回っている場合には債務超過に当たります。
債務超過の会社の企業価値はマイナスなので、それが拡大する前に自己破産または民事再生の申立てを行うケースがあります。
自己破産と民事再生のどちらを選択するかは、支払不能の場合と同様に、経営再建の見込みがあるかどうかによって判断します。
民事再生については、まだ支払不能または債務超過に陥っていないものの、そのおそれがある段階で申し立てることもできます(民事再生法21条1項前段)。
経営再建を目指すことを前提として、債権者への影響を最小限に抑えられるように、早い段階での申立てが認められています。
同様の趣旨により、会社が事業の継続に著しい支障を来すことなく、弁済期にある債務を弁済することができないときにも、民事再生を申し立てることができます(同項後段)。
株式や社債などを保有している企業が自己破産や民事再生を申し立てた場合、株主や債権者は大きな損失を被ってしまいます。
自己破産を申し立てた会社の株式は、その価値がゼロになります。
自己破産をした会社は、最終的に清算されて法人格が消滅します。
債権者に対する弁済が完了した後に財産が残っていれば、株主は残余財産の分配を受けることができます。
しかし自己破産をする会社は、債権者に対しても債務全額を支払うことができません。したがって、株主が受け取れる財産は残らないので、株式の価値はゼロになってしまいます。
自己破産をした会社の社債などを有する債権者に対しては、会社の財産を処分して得られた金銭により、破産法の規定に従って配当が行われます。
しかし実際には、額面の数%程度のわずかな配当が行われるか、または全く配当が行われないケースが多いです。
民事再生を申し立てた会社の株式は、原則として上場廃止になります。この場合、上場廃止日以降は取引所において株式を取引できなくなります。
ただし、東京証券取引所の有価証券上場規程*1および同施行規則*2によれば、以下の要件をすべて満たす場合には例外的に上場維持が認められます(有価証券上場規程601条1項3号、同施行規則601条3項)。
なお、仮に上場が維持されたとしても、株価の大幅な下落は避けられません。民事再生が公表された日以降は、株価の急落が予想されます。
民事再生をした会社の債権は、再生計画に従って大幅に減額されます。
帝国データバンクの調査によれば、2021年から2022年までに再生計画認可決定を受けた企業47社のうち、弁済率が判明した企業の平均弁済率は8.6%でした。*3
弁済率が1%未満の企業も7社あり、債権はほとんど回収できなくなるケースが多いことが分かります。
自己破産や民事再生を申し立てた企業の株式や社債は、その価値が大幅に損なわれてしまいます。
投資先の企業を見極める際には、財務状況に問題がないかどうかを確認することが大切です。決算の内容などを定期的にチェックして、健全な財務状況にある企業を投資先として選択するのがよいでしょう。
本コラム執筆時点における情報に基づいて作成しておりますので、最新情報との乖離にご注意ください。
出典
*1 日本取引所グループ「有価証券上場規程(東京証券取引所)」
*2 日本取引所グループ「有価証券上場規程施行規則(東京証券取引所)」
*3 帝国データバンク「民事再生法 弁済率調査」