部下との人間関係で悩んでいる管理職は少なくありません。
特に最近では、360度評価により部下から評価される上司や、「パワハラ」に対して過敏な反応を示す企業も多く、むしろ、上司の方が立場が弱いという職場も多々あるくらいなのです。
したがって、上司は迷います。
仕事は部下にやらせなければならず、成果も上げねばならない。
しかし、上司としての強権発動はできず、部下に強く命令すれば「やる気が湧きません」と言われ、場合によっては「パワハラ」扱いされる。
かといって、部下の言うことを聞いて迎合すれば、会社から求められている成果の水準には達しない。
そうして上司が迷ったあげく、「成果は重要と言われているけど、かといって、強くそれを求めることもない」という、なんとも不思議な職場が完成する、というわけです。
結果、個人が「それなり」のことをしますが、チームとして機能してはいない状態となり、結果的に指導力不足と責任を問われるのは上司です。
上司にとって八方塞がりとは、まさにこのことでしょう。
しかし、これは極めて現代的な状況だと言えます。
というのも、昭和の時代には、「上司は部下を家族のように扱う一方、長時間労働や成果への邁進を強制する」という慣行が暗黙の了解とされていました。
つまり、終身雇用と年功賃金を餌にして、「俺の言う事を聞け」と迫った。
身分を守ってやるから、多少の無茶は聞けよ、というわけです。
だから、その頃には一般的には上司の素養として、「人徳」のような、あいまいな概念が良いとされていました。
要は、上司が「とても嫌な奴」でなければ、ある程度のことは「利」で、部下に我慢させることができるという発想です。
しかし、そのような考え方は、終身雇用が崩壊し、年功賃金が廃止された現代では通用しません。
上司と部下は職場を通じて、一時的に「チーム」になっただけの存在ですから、そこには「情」ではなく、マネジメントの「スキル」が必要とされます。
しかし、そうした「スキル」を学べる機会は今までに存在しませんでした。
前の世代の管理職たちとは、異なることをしなければ、チームが維持できない。これが、現在の上司が職場で困難を抱えている理由です。
では、上司はそんな状況を打開するために何ができるでしょうか?
部下にチームへの貢献を要求する際に、どのような考え方をすべきでしょう。
もちろん、相手が人間なので「正解」はありませんし、やれることも無数にあるでしょう。
しかし、経験の浅い、初心者上司でも「マネジメントをする上で、まず覚えておくべきこと」として、私は次の3つのことを挙げます。
1.上司の働きぶりが、チームの働きぶりの基準となるので、一番働く 。
2.嫌われてはいけないが、好かれなくていい。信頼されていればいい 。
3.チーム全員を相手にする必要はない 。
まず1つ目。
「上司の働きぶりが、チームの働きぶりの基準となる」
です。
文字通りの意味ですが、要は「上司が働き者」ならば、チームに働き者が増え、上司が怠け者であれば、チームにも怠け者が増えます。
ですから、現代の上司は、働きものである必要があります。
でなければ、誰もついてきません。
ですから上司は「マネジメント」だけをするのではなく、常に「現場」を持ってください 。働きぶりを示すには、プレイングマネジャーでなくてはなりません。
実際、マネジメントの始祖であるピーター・ドラッカーは、「管理職」が、マネジメント専業になるのは間違いだと述べ、上司は専門家でもあり、プレイングマネジャーでもなければならないと述べています。
したがって、上司は少なくとも何かの最新分野において、知識豊富でなければなりませんし、椅子にふんぞり返って、「下に任せた」と言って現場から遠ざかってもいけません。
「現場にも入らず、知識が更新されなくなった上司」は、現代の部下から見れば、「働かないオジサン」として、大きな迷惑なのです 。
2つ目。
上司は、嫌われてはいけませんが、好かれる必要は全くありません。
信頼されていればよいのです。
そもそも、大抵の上司は「信頼されている」ことと「好かれている」こととを混同しています。
心理学者の山岸俊男によれば、信頼というのは、「相手が裏切るかどうかわからない状況の中で、相手の人間性ゆえに、相手が自分を裏切らないだろうと考えること」です。
つまり「きちんと働く人だ」「約束を守る人だ」「礼儀のある人だ」と認識されていれば、信頼を得ているとみなされるのです。
これは普段からの行いが反映されます。
逆に、「好き嫌い」というのは、単に表面的なもので、好印象を与えたり、話しやすかったり、一緒にいて楽しかったり、といった属性が「好き」であり、その逆が「嫌い」です。
しかしこれらは結局、単なる「付き合い方」の話です。
上司はイヤミを言ったり、失礼なことを上から目線で話したりすれば、部下から「嫌な奴」と思われます。これは、チームのパフォーマンスに悪影響を与えますから、避けねばなりません。
しかし部下から「好かれる」ことは必ずしも、チームのパフォーマンスの向上に繋がりません。
厳しいことが言えずに、人間関係とパフォーマンスがトレードオフになってしまっては本末転倒です。
したがって、上司は「働き者」「嫌なやつではない」という評価さえ得られれば、「好き」という評価を得る必要は全くありません 。
ピーター・ドラッカーの著書によれば、ゼネラル・モータースの偉大なCEOだったアルフレッド・スローンは、自社の社員はもちろん、経営陣とも決して個人的に親しくしなかったと言われています。
会社の人間関係など、付かず離れず、位がちょうどいいのです。
3つ目は、チーム全員を相手にする必要はない、ということ 。
チーム運営は、「全員をなんとか働き者にする」目的でやると、失敗します。
むしろ、一部のやる気のある人とやれば良いのです。
実際、チームのパフォーマンスは、熱心に働く一部の人が生み出します。
全員が均等に生み出すわけではありません。
また、根本的な「怠け者」もいて、あなたの仕事への熱心さに全く無関心の人も多いのです。
そういう人はあなたから見れば、「許せない」「なんとかしたい」「他の人に迷惑だ」と感じるかもしれません、「一生懸命働いてほしい、変わってほしい」と願うかもしれません。
しかし、それはたいてい、徒労に終わります。
人は変わらないし、変えられません。変わったとしても、何年もかかって、少しずつ変わるのです。
そもそも、20年、30年と積み重ねてきた人格は、上司一人がどうこうしたところで、変わりようもないのです。
したがって、上司の熱心さに呼応する、「一部の部下」に最大限の時間を使ってください。彼らを指導し、励まし、教え、規範を示してください。
そうすれば、チームのパフォーマンスは保てます。部下との人間関係に余計な時間を使う必要もなくなります。
働かない人間には時間を使わず、評価のときに「D」の評価をつけておしまいです。
それに対して、罪悪感を抱く必要はありません。
以上が、「部下が自分の言うことをきかない……」と思ったときに、管理職がすべきことです。迎合する必要はありません。なすべきことを、なしてください。