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混迷を深める中東情勢 日本の経済や株価にどう影響する?
混迷を深める中東情勢 日本の経済や株価にどう影響する?

混迷を深める中東情勢 日本の経済や株価にどう影響する?

2024/11/07に公開
提供元:清水沙矢香

パレスチナ・ガザ地区を実効支配する「ハマス」とイスラエルの間に武力衝突が勃発してから1年が経ちます。

この紛争はいまや中東の他の国も巻き込み、今度はイランがイスラエルに向けて大量のミサイルを発射するという事態に発展しました。

これまで、ガザ地区がイスラエルから日々激しい攻撃を受けている様子はテレビなどでも大きく報じられてきましたが、イランの参戦で事態はさらに深刻なものになっています。

なぜ問題がここまで大きくなったのか、中東各国はどう絡み合っているのか、ここでわかりやすく解説していきます。

また、日本企業とイスラエルの間には意外な関係もあります。


イスラエルとパレスチナ、そもそもの関係と衝突の始まり

まず今回の武力衝突がなぜ、どのような形で始まったのかを簡単に説明していきます。そのためには、ガザ地区とはどういう場所なのかを知る必要があります。

下の地図は、イスラエルとパレスチナの位置関係を示したものです。

「パレスチナ」は国名ではなく実際には「パレスチナ暫定自治政府」で、下の地図ではオレンジで示されている「ヨルダン川西岸地区」と「ガザ地区」に分かれています。


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イスラエル・パレスチナの位置関係

出典)東京大学「ガザ危機と中東の激動」


中東情勢について知るために欠かせないのが、現在はイスラエル東部にある「エルサレム(イェルサレム)」の存在です。


聖地エルサレムをめぐる民族紛争

エルサレムはユダヤ教、キリスト教、イスラム教の3つの宗教の聖地となっています。*1

しかし19世紀以降、世界各地で迫害を受けていたユダヤ人の間で、みずからのユダヤ国家を作ろうとする「シオニズム」運動が起きます。
それを実現するためにユダヤ人は、聖地エルサレムを擁するパレスチナへの入植を始めました(当時イスラエルという国はありませんでした)。
しかし、パレスチナはもともとアラブ人が住む地域であったため、対立が起きてしまいます。

そこから2回の世界大戦を経て、国連は1947年にパレスチナの土地にアラブ人とユダヤ人の2つの国家を作る「パレスチナ分割決議」を採択します。
しかし翌48年には、イスラエルがユダヤ人の国として一方的に建国を宣言してしまいます。
しかしアラブ人の国であるパレスチナと周辺のアラブ諸国がそれを認めなかったため、アラブ人はイスラエルに割り当てられたはずの領域に侵攻しました。
これが第1次中東戦争(1948~49年)に発展します。*2

それ以降、イスラエルとパレスチナの間では断続的な紛争が続き、1993年には和平交渉(オスロ合意)によりパレスチナ暫定自治政府が設立されました。
それが現在のヨルダン川西岸地区と、今回攻撃を受けたガザ地区
です。オレンジの地域です。


イスラエルの存在自体を認めない「ハマス」の台頭

しかしパレスチナでは「イスラエルも含むパレスチナ全土は神にささげられた寄進地(ワクフ)であり、人為的な割譲は許されない」とする強硬派のイスラム武装組織ハマスが台頭するようになります。
つまり、イスラエルの存在そのものを認めないという思想です。*3

ハマスは2006年には選挙で、パレスチナ自治政府の第1党にもなりました。
これはハマスへの支持というより、それまでの政権の腐敗に対する批判票があったとも見られていますが、国際社会からは認められず、追い落とされてしまいます。*4
しかしハマスは、ガザ地区を今でも実効支配下に置いています。


レバノンやイランはなぜ関係している?

よって今回のイスラエルとパレスチナの衝突は、事実上はイスラエルとハマスとの間の戦いといえます。

今回の戦争は2023年10月7日に、ハマスがイスラエルに大規模な攻撃を開始したことに端を発しています。イスラエルはすぐさま応戦、双方多数の死者を出す事態に発展しました。*5

しかしこの争いにはいまや、レバノンやイランといった周辺国が関係するようになっています。いったいなぜでしょうか。


レバノンとイスラエルの関係

まず、レバノンがなぜ関係しているのかを知るために、広い地図を見てみましょう。


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イスラエル・パレスチナと周辺国

出典)東京大学「ガザ危機と中東の激動」


イスラエルは2024年8月に、北で国境を接するレバノンにも攻撃を始めました。*6

レバノンはイスラム組織「ヒズボラ」の拠点でもあります。そしてヒズボラはガザ地区のハマスと共闘する姿勢を掲げています。*7

9月25日にはヒズボラがイスラエルとの戦争状態に入ったことを宣言しました。両者の応戦は現在も続いています。*8

「パレスチナのハマス・レバノンのヒズボラ勢力」と「イスラエル」の戦いに発展したというわけです。


イランが大量のミサイル発射、なぜ?

しかしここにきてイランも登場人物となり、事態は複雑になっています。

というのは2024年7月、ハマスの最高幹部イスマイル・ハニヤ氏がイランの首都テヘランで殺害されたのです。ハマスはイスラエルによる攻撃だと発表しました。*9

もともとガザ地区を支配するハマスはイランの支援を受けているとされており、一定の軍事支援も受けていると指摘されています。
イランはイスラエルと対立する立場にある、というわけです。*10

さらに、ヒズボラの司令官がイスラエル軍によって殺害されるという出来事も重なりました。
これに耐えかねたイランは2024年10月1日、「報復」としてイスラエルに180発以上とも言われる大量の弾道ミサイルを発射する攻撃に出ました。*11*12
テレビなどで派手な映像を見たという方も多いでしょう。
なお、アメリカはイスラエルと連帯関係にあり、イランやレバノンを牽制する姿勢を取っています。
バイデン大統領はイランがイスラエルにミサイル攻撃を行ったことを受け、イランへの制裁を検討しているとも表明しました。*13

一方、ロシアはイスラエルを非難するという立場を取っています。*14

つまり、ここでも東西諸国の対立が反映されているのです。


日本経済への影響

このように、今中東で起きているのは2つの国の間だけではなく、もはや国際社会を巻き込んだ争いであるということです。

では、日本経済はどのような影響を受けるのでしょうか。

まず注目すべきは、ここのところ、イスラエルに投資する日本企業が多いということです。


イスラエルは「中東のシリコンバレー」

実はイスラエルは、「中東のシリコンバレー」とも呼ばれる存在で、面積は日本の四国程度ですが、毎年500~1,000社程度のスタートアップ企業が生まれ、活動中のスタートアップの数は約8,000と言われています。*15

USBフラッシュメモリやファイル圧縮技術(Zipファイル)も、イスラエルの企業や大学で開発されたものです。

そして帝国データバンクによれば日本企業のイスラエル進出は2023年9月時点で92社にのぼっています。


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イスラエルに進出する日系企業

出典)帝国データバンク「日本企業の「イスラエル進出」動向調査」


イスラエルの投資コンサルティング会社のひとつ、ハレル・ハーツインベストメント・ハウスの2021年のレポートによれば、イスラエルの企業を買収した日系企業として、横浜ゴム、田辺三菱製薬、楽天、オリックス、旭化成ゾールメディカルなど多くの企業の名前が挙げられています。*16

今のところ直接的な被害がなかったとしても、今後の戦況や国際世論によっては何らかの変化があるかもしれません。


原油は9割以上が中東依存

また、日本は原油輸入の9割以上を中東に頼っています。*17

イスラエルやパレスチナ、レバノン、イランといった国はメインではないものの、「中東の混乱」という出来事が投資家心理に与える影響は大きなものです。
よって、少しの戦況の変化に対して投資家が先物取引で原油を多めに買ってしまうことで国際価格が釣り上がる、という事態は今後も何度も起きるでしょう。

石油施設が攻撃される、といった事態が起きてしまうと、原油価格は大きく動く可能性もあります。

それだけではなく、この戦争も「東西諸国の対立」という色を深めていけば、政治的な判断、つまり貿易制裁などが発生し、日本の物価を左右することになりかねません。

なおイスラエル軍は「ガザでの戦闘は2024年いっぱい続く」との予想を示していました。*18

しかし事態はどんどん複雑化し、新たな「中東戦争」の様相を呈しています。

国際社会による停戦は可能か不可能か。今後どのような展開になるのか、予測するのはさらに難しくなっています。



本コラム執筆時点における情報に基づいて作成しておりますので、最新情報との乖離にご注意ください。

出典
*1 NHK for School「聖地エルサレム」
*2 東京大学「ガザ危機と中東の激動」
*3 東京新聞「「ハマス」とは何か…イスラム主義では「穏健派」 元カイロ特派員が成り立ちと信条を整理した」
*4 NHK国際ニュースナビ「最新パレスチナ情勢 なぜイスラエルと衝突?ハマスって?解説」
*5 NHK国際ニュースナビ「イスラエルにイスラム組織「ハマス」が大規模攻撃 何が起きた?」
*6 BBCニュース「イスラエル、レバノンを「先制攻撃」 ヒズボラはロケット弾を数百発撃ったと発表」
*7 朝日新聞デジタル「ハマスと共闘のヒズボラ、イスラエルと全面戦争は 大国の動きがカギ」
*8 日本経済新聞「非国家が台頭「新しい戦争」 ヒズボラが「戦争」宣言」
*9 BBCニュース「ハマス最高幹部ハニヤ氏、イランで殺害される イスラエルが攻撃とハマス発表」
*10 CNN「ハマスはいかにして兵器を入手しているのか? 工夫と機略、他国の指南役の組み合わせ」
*11 BBCニュース「ヒズボラ指導者を殺害、イスラエルの空爆映像を分析」
*12 NHKニュース「イラン 大規模ミサイル攻撃 イスラエルが対抗措置の可能性」
*13 共同通信「米大統領、イラン制裁検討 石油施設攻撃は支持せず」
*14 産経新聞「ロシアがイスラエルの侵攻非難 レバノンに連帯表明し戦闘の即時停止、部隊撤退など求める」
*15 一般財団法人中東協力センター「「スタートアップネーション」イスラエル、日本産業にとっての新たな可能性」
*16 Harel - Hertz Investment House 「Japanese Investments In Israel 2021 Yearly Report」
*17 資源エネルギー庁「エネルギー白書2023」
*18 BBCニュース「ガザでの戦闘、「2024年いっぱい続く」とイスラエル軍」


清水 沙矢香

2002年京都大学理学部卒業後、TBSに主に報道記者として勤務。
社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として各種市場・産業など幅広く取材、その後フリー。
取材経験や各種統計の分析を元に多数メディアに寄稿中。

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