株主総会の時期になると、「物言う株主」の存在が例年、メディアを賑わします。
アクティビストと呼ばれる「物言う株主」は、株主の立場を積極的に行使して企業経営に影響を及ぼし、株価を上げて利益を得ようとする投資家のことです。経営者の刷新や経営トップの解任を申し入れるなど、中には経営体制にまで厳しい意見を出すファンドの存在もあります。
最近もコンプライアンス問題があった大手企業に対するアクティビストの動向が注目を浴びました。
そうした事例では、アクティビストは企業に対してどのような働きかけをし、企業はどのような対応をしたのでしょうか。
また、どのような企業にアクティビストが存在し、企業に対してどのような働きかけをしているのでしょうか。
アクティビストの多様な活動とその影響についてもわかりやすく解説します。
まず、最近、注目を集めた国内の事例をみていきましょう。
米国の投資ファンド「ダルトン・インベストメンツ(以下、「ダルトン」)」は物言う株主として知られています。
特に注目されたのは、フジテレビの親会社であるフジ・メディア・ホールディングス(以下、「FMHD」)をめぐる動向です。
タレントの性加害問題に端を発するフジテレビの経営立て直しをめぐって、ダルトンは2025年4月16日、取締役などの刷新を発表した後のFMHDに対し、株主提案として社外取締役候補者12人を提案しました。*1
その後、FMHD側が5月中旬に、ダルトン側が提示した候補を含まない11人の役員候補を公表すると、ダルトン側は「こちらの候補者についての協議は一切なかった。このような情報操作は遺憾だ」と述べます。
これに対して、FMHDは「事実ではない」と反論し、対立が深まりました。
FMHDが6月25日に東京都内で開いた定時株主総会では、会社側が提案した11人の取締役選任議案を賛成多数で可決し、経営の立て直しは新体制に委ねられました。*2
一方、ダルトンが提案した、12人の選任案は否決されましたが、FMHDによると、会社側の候補者全員の賛成率が8割を超えた一方、ファンド側が提案した候補者は最も高い場合でも3割に届かなかったということです。
株主総会の結果を受けて広告主は徐々に戻り始め、大手企業の一部がCM再開を表明します。フジテレビの当面の広告収入は厳しい状況が想定されるものの、業績改善の兆しは見えつつあります。*3
ただし、FMHDのアクティビストはダルトンだけではありません。
株主総会後、アクティビストで投資家の村上世彰氏が関わる旧村上ファンド系投資会社などが、FMHDの株式を買い増しし、保有比率が14%超となったことがわかっています。
これまでFMHDの体制に比較的厳しい姿勢を見せてきたダルトンに対して、旧村上ファンド系投資会社関係者は、新社長による改革に「期待している」と話しています。
このように、アクティビスト側が一枚岩というわけではありません。
今後の焦点はアクティビストと会社側で意見の相違が目立つ不動産事業です。
不動産はFMHDの営業利益の半分以上を占めていますが、本業のメディア・コンテンツ事業との相乗効果が少ないといった指摘がアクティビスト側から出ているのです。
このように、FMHDは、総会を終えてもアクティビストとの対話を避けられない状況が続いています。
次に、国内の著名なアクティビストの活動やその影響についてみていきます。*4
<3Dインベストメント・パートナーズ(シンガポールの投資ファンド)>
<ストラテジックキャピタル(日本の投資運用会社)>
<ダルトン・インベストメンツ(FMHD以外)>
<パリサー・キャピタル(英国の投資ファンド)>
<オアシス・マネジメント(香港の投資ファンド)>
<エリオット・マネジメント(米国の有力投資ファンド)>
<エフィッシモ・キャピタル・マネジメント(旧村上ファンド系投資ファンド)>
このように、国内企業ではアクティビストとの対立関係が目立ちます。
企業に対する敵対的なイメージの強いアクティビストですが、実際にはどのような活動をしているのでしょうか。
また、その影響はどのようなものでしょうか。
「物言う株主」とは、経営陣に対して経営戦略やガバナンス改善などの提案を行い、株価を高めて利益を得ようとする株主のことで、気に入らなければ静かに株式を売却する株主と区別されて、そう呼ばれています。*5, *6
米国で1980年代後半、年金基金が運用成績の向上を目指して企業への提案を始めたことから、「物言う株主」という概念が広がりました。
アクティビストとは、「物言う株主」の中でも、特に、経営戦略や資本構成の変更、事業売却など、踏み込んだ働きかけを行う投資家であり、こうした経営者への働きかけを「エンゲージメント活動」と呼んでいます。*6
広い意味での「物言う株主」には、非公開で長期的な対話をするものもありますが、アクティビストタイプは、攻撃的・公開的なアプローチも辞さず、短中期での成果獲得を目指します。
経営者が提案に反対する場合には、マスコミなどを通じて自らの主張を公開し、敵対的買収を行うこともあります。
2024年10月時点で、73のアクティビストが日本に参入し、5年前から倍増しているという報道もあります。*5
物言う株主が行う「エンゲージメント活動」は、企業経営に対して何らかの提案や介入を行い、企業価値向上を通じて株主利益の最大化を目指すもので、以下のように、さまざまなものがあります。*6
1. 狭義のエンゲージメント(比較的公開性の高い手法)
2. 非公開のエンゲージメント(個別・戦略的な対話や介入)
3. 広義のエンゲージメント:経営・業務執行への関与(非公開)
以上のような幅広い手段によって、投資家は単に株価上昇を狙うだけでなく、経営者と協調し、中長期的な企業価値の最大化を目指すパートナー的存在にもなり得ます。
欧米では特に、投資家と経営者が企業価値向上を通して株価を上げることを投資目標として、信頼をベースに連携を深める動きが広がっています。
これに対して、日本では経営者と投資家の意思疎通がうまくいかず、両者の協力関係が築けないまま、結果として互いの利益が相反する状況になりがちという状況があります。
しかし、アクティビストの圧力によって、企業経営が改善したり、業界再編につながったりすることから、日本においても、市場の規律を保つ上で必要な存在として認知されつつあります。*5
野村総合研究所は、今後、経営者が投資の目的と行動をより明確に把握し、投資家からの支援を得ることができれば、経営活動をよりスムーズに進めることができるのではないかと指摘しています。*6
アクティビストの動向は、単なる対立の構図ではなく、企業にとって経営の在り方を問い直す契機ともなります。
対話を通じて株主と企業が共通の目標を見いだすことができれば、企業の持続的な成長へとつながる可能性もあります。
今後、日本企業がアクティビストとどのように向き合い、エンゲージメントを活かしていくのか、注目してみてはいかがでしょうか。
本コラム執筆時点における情報に基づいて作成しておりますので、最新情報との乖離にご注意ください。
本コラムの内容は、特定の金融商品やサービスを推奨あるいは勧誘を目的とするものではありません。
最終的な投資判断、金融商品のご選択に際しては、お客さまご自身の判断でお取り組みをお願いいたします。
出典
*1 日本経済新聞「フジHD、米ダルトンの「協議応じない」主張に反論 相談役は6月廃止」(2025年5月28日 18:16)
*2讀賣新聞オンライン「フジ株主総会、昨年の20倍の株主が出席…会社提案の取締役11人選任・米ファンド提案の12人は否決」(2025年6月25日22:22)
*3 日本経済新聞「フジHD株、旧村上ファンド系保有14%に 物言う株主と不動産で神経」(2025年7月4日18:51更新)
*4 日本経済新聞「「物言う株主」と「目をつけられた企業」組み合わせが分かる15選」(2025年6月16日5:00)
*5 日本経済新聞「アクティビストとは 利益狙い再編や還元提案」(2024年12月1日 2:00)
*6 野村総合研究所「多様化する物言う株主」p.1, 2