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超長期国債の仕組みと金利上昇による影響・背景の解説
超長期国債の仕組みと金利上昇による影響・背景の解説

超長期国債の仕組みと金利上昇による影響・背景の解説

20時間前に公開
提供元:Money Canvas

最近、償還期間が長い日本国債、いわゆる「超長期国債」の利回りが上昇し、ニュースでも話題になっています。この現象が何を意味するのか気になる方も多いことでしょう。

本記事では、超長期国債とは何か、その金利上昇がもたらすメリット・デメリット、背景にある要因、個人向け国債の購入に消極的な意見が出る理由、そして今後の金利動向について解説します。

超長期国債の基礎から最新動向までしっかり押さえ、今後の資産運用の判断材料にしていきましょう。


超長期国債とは

超長期国債とは、日本国債の中でも満期までの期間が特に長いものを指します。
一般的に「長期金利」というと10年物国債利回りを意味しますが、10年を超える年限の国債は「超長期国債」と呼ばれ、日本では20年債、30年債、40年債などがこれに含まれます。*1

超長期国債は、昭和58年に試験的に15年債が発行されたのをきっかけに、本格的には20年債から導入が始まり、その後30年債、40年債へと広がっていきました。
現在では20年債や30年債が定期的に発行され、特に20年債は発行量が多く指標的な存在となっています。*2

超長期国債を発行する政府のメリットは、長期間にわたり安定的に資金を調達できることです。
償還期限が長い分、頻繁に借り換えをしなくても済み、財政運営の安定化に寄与します。
財務省は国債の種類を増やして様々な投資家を呼び込むことで、将来の資金調達コストを安定させる狙いがあるのです。


超長期国債の金利上昇によるメリット

近年、超長期国債の金利が上昇傾向にあり、これは投資家にとっていくつかのメリットをもたらします。
金利が上がると、新規に発行される国債の利回りも高くなるため、購入者はより多くの利息収入を得られます。

例えば、以前は年1%程度だった30年債の利回りが、現在では年3%台前半まで上昇しており、新規購入者にとって魅力が増している状況です。
2025年8月時点では、30年債の利回りは年3.1〜年3.2%台で推移しています。*3

特に長期で安定収入を確保したい機関投資家にとって、この金利上昇は朗報といえるでしょう。
生命保険会社や年金基金は、将来の支払いに備えるため長期の運用利回りを重視しています。

大手生保の運用計画では「予定利率年2%超」の負債に対応するため、30年債・40年債には投資妙味があるとの声も出ています。*4

現在の金利水準では、為替リスクのある外国債券から国内の円建て債券に資金を振り向ける動きも見られます。
このように、超長期国債の金利上昇は、年金資金や保険会社に長期の安定収益機会を提供しているのです。


超長期国債の金利上昇によるデメリット

一方で、超長期国債の金利上昇は既存の債券保有者や発行者である政府にとってデメリットも生じさせます。

金利が上昇すれば、すでに発行された債券の市場価格は下落するため、保有者は評価損を抱えるかもしれません。
特に償還までの期間が長い債券ほど価格変動幅は大きく、途中で売却しようとすると損失が発生するリスクが高まります。

また、国債を発行する政府にとっても金利上昇は悩ましい問題です。新規に発行する超長期国債の利率が高くなるほど、将来にわたり支払う利息の負担が増加します。
例えば、利回り年3%で40年債を発行した場合、償還まで毎年3%の利息を支払い続ける必要があり、これは財政支出の増加要因となります。
日本政府の債務残高はGDP比で見ても先進国の中で突出して高く、利払い負担の増加は財政の持続可能性への懸念を強めかねません。*5

金利上昇は国の財政運営にも影響を及ぼしうるため、政府・日銀は市場動向に細心の注意を払っています。


超長期国債の金利が上昇している背景

では、なぜ最近超長期国債の金利が上昇しているのでしょうか。その背景を三つに分けて詳しく解説します。


日銀の金融政策の転換

まず、日銀が長年続けてきた大規模な金融緩和策を転換したことが挙げられます。
日銀は、長短金利操作(YCC)によって長期金利を人為的に低く抑えてきましたが、経済情勢の変化に対応するため、段階的に政策を修正しました。


  • 2022年12月:長期金利の変動許容幅を±0.25%から±0.5%に拡大 *6
  • 2023年7月:YCCをさらに柔軟化し、1%を「めど」として一定程度超えることを容認 *7
  • 2024年3月:YCCの撤廃とマイナス金利政策の解除を決定 *8

これにより、これまで金融政策によって強く抑えられていた長期・超長期金利が、より市場の実勢を反映して上昇する大きな要因となったのです。


インフレ率の上昇と海外金利の動向

次に、物価の動向も大きく影響しています。
日本でも2022年頃から消費者物価の上昇率が高まり、国内のインフレ率が日銀の目標(2%)を上回る状況が続きました。*9

これを受け、市場では「日銀が金融引き締めに転じる」との見方が広がり、将来の金利上昇を織り込む形で長期金利全般が上昇したのです。

加えて、海外の金利動向も無視できません。
米国ではインフレ抑制のため2022年以降に急速な利上げが行われ、政策金利は年5%超まで上昇しました。
欧州でも主要国が利上げを実施しています。

海外金利が上昇すると、相対的に低金利な円建て資産の魅力が薄れるため円債が売られやすくなり、結果として国内の長期金利も上昇圧力を受けます。


市場の需給バランスの変化

さらに日本固有の要因として、市場の需給バランスの変化も挙げられます。

長年にわたり日銀が国債を大量に購入してきた結果、市場の機能が低下しているとの指摘がありました。
日銀がYCCの運用見直しで国債の買い入れを抑制し始めると、これまで抑えられていた金利に上昇圧力がかかりやすくなりました。

また、国内機関投資家の需要動向も変化しています。
例えば、生命保険会社はこれまで安定的に超長期国債を買い増してきましたが、金利が上昇したことで、より有利な条件の債券へ乗り換える動きも見られます。

一方で、利回り上昇を好機と捉える新たな買い手も現れており、こうした投資家間の需給バランスの変化が金利変動を大きくしている側面もあります。


個人向け国債の購入に消極的な意見が出る理由

超長期国債の話題と関連し、「個人向け国債は買ってはいけない」という意見を目にすることがあります。
その理由としてしばしば指摘されるのが、利回りの低さとインフレに対する弱さです。

個人向け国債は、元本保証で途中換金も可能(発行から1年経過後は、直近2回分の利息相当額を支払うことで換金可能)という安全性の高さが最大の魅力です。
その半面、利率が非常に低く、長らく年0.05%という超低金利が続いていました。*10

預金とほとんど差のない利息しか得られないため、積極的に資産を増やしたい人には物足りない商品と見なされがちです。
また、仮に年0.1%の利息を得ても物価が2%上昇すれば、実質的な資産価値は目減りしてしまいます。

もう一つの理由は、新NISAなどで投資できる株式や投資信託との比較です。
長期で資産形成を目指す人にとっては、多少のリスクをとってでも成長性のある資産に投資した方が良いという文脈で、国債の低リターンが指摘される場合があります。*11

もちろん、2023年以降の金利上昇を受けて個人向け国債の利率も改善傾向にあります。
しかし、依然としてインフレ率を下回るケースもあり、「実質的に目減りする」「もっと利回りの高い商品がある」という見方から、購入に消極的な意見が出るのも一理あるでしょう。


超長期国債の金利は今後どうなる?

今後の超長期国債の金利は、国内外の経済情勢や金融政策、インフレ率次第で変化すると考えられます。

国内要因としては、日銀の金融政策スタンスが最も重要です。
今後もインフレ率が2%を超え、日銀が追加の金融引き締めへ踏み切る場合、長期・超長期金利には上昇圧力がかかり続ける可能性があります。

市場では、大手生保が2025年度末の40年債利回りを年3.1%前後と想定するなど、金利が高止まりするとの見方も出ています。*12

一方で、海外経済の動向も金利を左右するでしょう。
仮に米国で景気後退が起きて利下げに転じれば、世界的に長期金利は低下圧力を受け、日本の金利も下がる可能性があります。

また、国内のインフレが沈静化すれば、日銀も追加の引き締めを急ぐ必要がなくなり、金利の上昇圧力は和らぎます。

このように複数の要因が絡むため正確な予測は困難ですが、「インフレが続き金融正常化が進めば金利は上昇傾向、インフレ沈静化や景気減速が起これば金利は低下に向かう」と整理できるでしょう。
投資を検討する際は、この先の金利変動リスクも念頭に置く必要があります。


超長期国債金利上昇への向き合い方

超長期国債の金利上昇について、その仕組みや影響、背景を見てきました。
最後に、こうした環境下で私たち個人はどのように対処・判断すべきか整理しておきましょう。

まず大前提として、国債は元本割れリスクが極めて低く安全性が高い資産です。
日本国政府への信用で成り立っており、日本円建てである以上政府は最終的に日銀を通じて通貨発行もできるため、デフォルト(債務不履行)の可能性は通常の企業債券などに比べ極めて低いとされています。
その代わりリターンは低めで、株式や投資信託などと比べると収益性は劣るものの、安全性が高く価格変動リスクが小さいという位置づけです。
言い換えれば、ローリスク・ローリターンの代表的商品が国債なのです。

この性質を踏まえて、自分の資産運用の目的や方針に応じて国債との付き合い方を決めることが重要です。
例えば、「老後資金を守りたい」「大きなリスクは取りたくない」という方にとって、国債は有力な選択肢になります。
特に個人向け国債であれば途中換金も可能で元本保証もあり、預金感覚で運用しながらわずかでも利息を増やすことができます。

一方、「資産を積極的に増やしたい」「インフレに負けないリターンを追求したい」という方であれば、株式や投資信託の方が適しているかもしれません。

新NISAで高い非課税枠が得られるようになった今、株式や投資信託で運用益非課税のメリットを享受することも可能です。そのような方にとって国債はポートフォリオの安定部分として一部組み入れるに留め、残りは成長資産に充てる、といった戦略も考えられます。

大切なのは、超長期国債の魅力とリスクを正しく理解し、自身のリスク許容度に応じたバランスを取ることです。
金利上昇局面では債券価格の下落リスクがありますが、満期まで保有すれば元本と利息は確保されます。

自分なりの資産配分を考え、本記事で解説した超長期国債の基礎知識と最近の金利動向を踏まえ、ぜひ賢明な判断につなげていただければ幸いです。



本コラム執筆時点における情報に基づいて作成しておりますので、最新情報との乖離にご注意ください。
本コラムの内容は、特定の金融商品やサービスを推奨あるいは勧誘を目的とするものではありません。
最終的な投資判断、金融商品のご選択に際しては、お客さまご自身の判断でお取り組みをお願いいたします。

出典
*1 財務省「債務管理報告書 2022」
*2 財務省「第1部 国債」
*3 Bloomberg「30年債利回りが過去最高更新、財政悪化懸念で売り-3.21%に上昇」
*4 Reuters「国内超長期債の増加幅は100億円程度、金利上昇で抑制=大樹生命・25年度運用計画」
*5 財務省 財政制度等審議会 資料「激動の世界を見据えたあるべき財政運営」
*6 Reuters「BOJ jolts markets in surprise change to yield curve policy」
*7 Reuters「Bank of Japan loosens grip on rates as prices rise, markets bet on bigger pivot」
*8 Bloomberg「日銀が17年ぶり利上げ決定、世界最後のマイナス金利に幕-YCC廃止」
*9 DBJ(日本政策投資銀行)「物価目標はなぜ2%なのか」
*10 公益社団法人生命保険ファイナンシャルアドバイザー協会「個人向け国債の金利が上昇しているって本当?」
*11 オカネコ「個人向け国債は買ってはいけない! やめとけと言われる理由と金利の実態を解説」
*12 Bloomberg「ソニー生命、減損処理回避へ国債売却含め検討-金利一段の上昇リスク」

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