インフレ、円安、物価高と、家計管理や資産運用を考えるにあたって気になるのが経済の動向です。
ニュースでも「マイナス金利の解除」「利上げ」といった金融政策に関する話題が取り上げられていますが、国の政策金利が見直されることは、生活にどのような変化を与えるのでしょうか。
今回は、日本銀行が行う「利上げ」について、実施の背景や暮らしへの影響について詳しく解説します。
ニュースでしばしば取り上げられる「利上げ」とは、各国の中央銀行が「政策金利(短期金利)を引き上げること」をいいます。*1
中央銀行とは、国の中核となる公的な銀行のことで、主要国の中央銀行による金融政策は、その国の経済だけでなく、世界経済にも大きな影響を与えるため、その動向に注目が寄せられるのです。*2
日本では「日本銀行(日銀)」が唯一その役割を担っており、「物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資すること」を理念に掲げ、国内外の経済の先行きを見極めながら政策金利を決定し、通貨・金融の調整を行っています。*3
一般的に利上げは、景気の回復期・拡大期に実施されます。
活発な経済活動によって物価が急騰する「過度なインフレ」を抑えることが目的です。
中央銀行は「銀行の銀行」という役割もあるため、利上げが実施されると、市中銀行(民間の金融機関)が中央銀行からお金を借り入れる際のコストが上がります。*2
そのため、市中銀行が企業や個人に融資を行う際の金利も引き上げられるのです。
金利が上昇すると、借り入れた融資の返済額が上がるため、企業の積極的な設備投資や個人消費が減速傾向になります。
また、金利が高い状態では預金につく利子が多くなるため、お金を使わずに銀行に預ける人も多くなることが予想されます。
このように、お金の動きを少しずつ落ち着かせることで、景気の過熱を抑えて物価の安定を図ります。
日銀が利上げを行うと、経済や暮らしにどのような影響があるのでしょうか。
以下5つの観点から詳しくみていきましょう。
株価の変動に影響する要因は、政策金利以外にもさまざまなものがありますが、一般的に利上げは株価の下落につながるといわれています。*1
利上げによって融資を受ける際の金利が上昇すると、企業は新規借り入れを控え、設備投資や事業拡大を避けようとします。
これにより、投資家は「企業の業績が上がりにくくなるのでは」と捉えるため、リスク回避のために株式を売りに出し、それなりに金利が期待できる預貯金に資金を移動させようとする動きが強まる傾向にあります。
利上げは、物価を下げる働きがあります。*1
利上げは個人で借りるローンなどの金利上昇につながるので、住宅や車などの購入資金を調達しにくくなり、消費行動や購入意欲が抑えられるためです。
物価は、商品・サービスの「需要」と「供給」のバランスに左右されますが、利上げで「需要」が抑制され「供給」を下回る状態が続くと、物価が下落します。
利上げによって、住宅ローンの返済額が上がる可能性があります。
住宅ローンの変動金利は、短期プライムレートと連動して上下します。*1
この短期プライムレートは、政策金利をもとに決められているため、利上げと連動して変動金利も上昇することが一般的です。多くの金融機関では、半年に一度金利の見直しが行われ、新たな金利が適用されます。
変動金利型の住宅ローンを組んでいる家庭では、家計への負担感が増すことが懸念されます。
利上げはその国の通貨高をもたらす可能性が高いです。*1
これには、金利が高い国の国債を買ったり、その国の通貨で資産運用をしたりして、より多くの利息収入を得ようとする投資家の動きが関わっています。
日本で利上げが行われると、日本円を買う人がふえるため、円高が進むことが予想されます。
ただし、為替の変動には他国との金利差や経済状況、貿易収支など、他の要因も複雑に絡んでくることに注意が必要です。
日銀が利上げを行うと、金融機関の預金金利が引き上げられることがあります。
2025年1月に日銀が利上げを発表した際にも、大手メガバンクを筆頭とする複数の銀行が普通預金の金利引き上げを発表しました。*5
今後は、地方銀行などにも波及するとみられています。
日銀は、2025年1月の金融政策決定会合にて、政策金利を従来の0.25%から0.5%に引き上げることを決定しました。*4
政策金利0.5%は、2008年以来17年ぶりの高水準です。
今回日銀が実施した利上げは、物価上昇を加味した実質金利を調整し、「金融政策の正常化」を継続させることが主な目的です。
日銀は、2013年にデフレからの脱却と安定的な経済成長を目指すことを目的に「消費者物価の前年比上昇率2%」という数値を掲げ、長期間に亘る金融緩和政策を実施してきました。*7
この政策は、景気の下支えとなってデフレ脱却に貢献した一方で、消費の縮小や金融機関の収益悪化といった副作用も指摘されていました。*6
2024年に入り、賃上げの動向などから2%の物価上昇目標の実現に見通しがついたと判断し、2024年3月のマイナス金利政策の解除、2024年7月の利上げを実施しています。
2025年1月の追加利上げの背景には、企業が引き続き賃上げに積極的な姿勢であること、物価上昇率が日銀の見通しどおりに推移していることに加え、アメリカのトランプ政権発足後も金融市場に目立った混乱がみられなかったことなどが決め手となりました。*4
日銀の氷見野良三副総裁は「金利のある世界」の理想像として、「成長と分配の好循環が進み、緩やかな物価上昇が定着していく」ことを挙げ、日銀もそこを目指しているという認識を示しています。*8
今後も、日銀は経済や物価上昇の状況に応じて政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくとみられます。
中央銀行による「利上げ」は、過度なインフレを抑制し、物価の安定を図るために行われるものです。
しかし、2024年から実施されている日本銀行の利上げは、極めて低い状態にある実質金利の調整が主な目的で、実質金利はいまだ大幅なマイナス圏内にあり、金融緩和状態が続いています。*9
経済を引き締める水準の利上げにはいたっていないため、日本経済はゆるやかなインフレによる回復・成長局面が継続するという見方が優勢です。
一方で、住宅ローンや預金金利など、暮らしに身近なお金に「変化」が生じているのも事実です。この数十年、日本経済はデフレが続いていたため、現役世代で「金利のある世界」を経験した人はそれほど多くなく、利上げ後の社会は「未知の世界」と捉えることもできます。
家計の負担を軽減し、資産を賢く活用していくためにも、利上げが経済や暮らしに与える影響をよく理解しておくことが大切です。
本コラム執筆時点における情報に基づいて作成しておりますので、最新情報との乖離にご注意ください。
本コラムの内容は、特定の金融商品やサービスを推奨あるいは勧誘を目的とするものではありません。
最終的な投資判断、金融商品のご選択に際しては、お客さまご自身の判断でお取り組みをお願いいたします。
出典
*1 三菱UFJ銀行「利上げとは?住宅ローンや為替・株価・物価に与える影響をわかりやすく解説」
*2 日経4946「中央銀行の役割を知る」
*3 日本銀行「日本銀行の概要」
*4 日本経済新聞「日銀、0.5%に利上げへ 17年ぶり金利水準に」
*5 日本経済新聞「3メガバンク、普通預金金利0.2%に 日銀利上げ受け」
*6 NHK政治マガジン「金融緩和の副作用」
*7 日本銀行「2%の「物価安定の目標」」
*8 Bloomberg「経済・物価見通し実現なら利上げ、正常化継続の方針-氷見野日銀副総裁」
*9 日本銀行「金融市場調節方針の変更について」