
2025年10月13日、大阪・関西万博(大阪万博)がついにその幕を閉じました。
会期中は建設費の議論や準備の遅れなどが報じられましたが、週末や大型連休には会場の夢洲(ゆめしま)が多くの人でにぎわいました。
約半年間にわたる世界的な祭典は果たして日本経済や地域にもたらした効果はどれほどだったのでしょうか。
本記事では、大阪万博の概要と成果を振り返り、終了後の展望まで詳しく解説します。
大阪万博は、 2025年4月13日から10月13日までの184日間、大阪湾の人工島・夢洲で開催された国際博覧会です。
テーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」。
医療・健康、脱炭素、先端技術、文化・アートなど、幅広い分野の展示・実証が行われました。
150を超える国・地域および国際機関が参加し、日本企業や自治体、スタートアップなども多数パビリオンを出展。*1
夢洲には、会場をぐるりと囲む「大屋根リング」や、未来モビリティの実証、デジタル技術を活用したインタラクティブ展示など、これまでの万博と比べても「社会実験」の色彩が強い会場が整備されました。*1
会場の整備や運営には、国・大阪府市だけでなく、経済界や府民・市民ボランティアも深く関わっており、「オールジャパン・オール関西」で世界に向けて情報発信する場としての役割を担ってきたといえます。
どう定義するかによって評価は変わりますが、客観的な指標として重要な「来場者数」「国際的な注目度」「コスト対効果」の3つの視点から振り返ります。
大阪万博は、関係者を含む総来場者数は約2,900万人(29,017,924人)となりました。
ただし、当初掲げていた「一般来場者 数2,820万人」という目標に対し、実績は約2,558万人にとどまり、目標には届きませんでした。*1
一方で、ビジネス的な視点で見ると成果といえる側面があります。
累計のチケット販売数が約2,200万枚に達したことなどから、懸念されていた運営収支は200億円台の大幅な黒字となる見通しです。*1
目標人数には届きませんでしたが、愛知万博(約2,205万人)を超える集客を実現し、採算面でも結果を残した形となりました。
「世界との連携」という点でも、一定の成果を残しました。
会期中は 各国の首脳・閣僚級が相次いで来日し、国際機関やグローバル企業によるイベントが多数開催されました。
博覧会国際事務局(BIE)も、この万博を通じて気候変動・健康・格差といった地球規模の課題に対し、日本発のソリューションが共有されたことを評価しています。*3
「課題解決先進国」としての日本の立ち位置を、あらためて世界にアピールできた点は大きな意義があるといえるでしょう。
一方で、手放しで称賛されるばかりではありません。
来場者アンケートでは7割以上が「満足」と回答しているものの、 会期中は猛暑の中での長い待ち時間や、パビリオン予約の困難さなどが来場者の負担となりました。
また、資材高騰による建設費の増額や、一部で報じられた工事費の未払い問題など、運営・建設プロセスにおける課題も浮き彫りになりました。
「黒字」という結果は出ましたが、費用対効果や運営の透明性については、今後も冷静な検証が求められます。
大阪万博がもたらした経済的なインパクトは、どうだったのでしょうか。
経済産業省などの事前試算では、万博全体で約2.9兆円規模の経済波及効果が見込まれていました。*2
現時点(2025年11月)では、万博単体の最終的な経済効果はまだ精査の途中です。
ここでは、特に影響が大きかったと考えられる「観光需要」と「インフラ・IR関連投資」の2つの側面から整理します。
日本政府観光局(JNTO)の統計によると、 2025年春以降の訪日外国人旅行者数は、新型コロナウイルス感染症拡大前の2019年を上回る月も出るなど、高水準で推移しました。*4
大阪万博は、こうした訪日需要の受け皿として機能し、欧米・アジアを中心に、万博をきっかけに初めて関西を訪れた旅行者も少なくありません。
また、会期中は大阪市内のホテル稼働率が高止まりし、関西国際空港・伊丹空港・新大阪駅周辺など、主要な交通結節点の人流も大きく増加しました。
これにともない、宿泊・飲食・小売・交通など観光関連産業の売上は、例年に比べて大きく伸びたと報告されています。*4
一過性の消費だけでなく、将来の成長に向けた投資も動きました。
万博開催に合わせて、大阪メトロ中央線の延伸や道路網の整備といったインフラ開発が前倒しで進められたことで、大阪のベイエリアへのアクセスは飛躍的に向上しています。
さらに、この流れは次の大型プロジェクトへと接続されています。
大阪府・大阪市が進めるIR(統合型リゾート)構想では、 建設・開業時を合わせて約2兆円規模の経済効果と、十数万人の雇用創出が試算されています。*5
万博によるインフラ整備と知名度向上は、こうした次の経済エンジンを動かすための「呼び水」としての役割を果たしました。
会場では現在、パビリオンや仮設施設の撤去が順次進んでおり、民間パビリオンの多くは2026年頃までに解体されるスケジュールが組まれています。
一方、道路・上下水道・電力・通信などのインフラや、駅・基盤造成といった「土台部分」は、そのまま将来のまちづくりに活用される計画です。*1
大阪市が示す「夢洲まちづくり構想」などによれば、夢洲は今後、以下を兼ね備えたエリアとして再開発が進められる見通しです。*6
大阪メトロ中央線の夢洲延伸や、新しい道路・橋梁といったインフラも、万博終了後のまちづくりを前提に整備されています。*6
つまり、 万博は「終点」ではなく、夢洲を大阪の新しいフロントエリアとして育てていくためのスタート地点という位置づけなのです。
もっとも、IRの開業時期や具体的な事業計画は、規制手続き・資金調達・建設スケジュールなど、さまざまな要素に左右されます。
地元住民の理解や、防災・環境面のリスク評価も含め、慎重に議論が続けられている段階です。*5 *6
万博が終わったあと、私たちの生活や投資環境にはどのような影響が残るのでしょうか。
ここではよくある疑問を3つピックアップして解説します。
会場跡地となった夢洲は、 パビリオンや仮設施設の撤去が完了したあと、本格的な再開発フェーズに移行します。
大阪市・大阪府の計画では、以下のように段階的に整備していく方針が示されています。*5 *6
ただし、すべての開発が一気に進むわけではありません。
土壌・液状化・津波などのリスク評価や、災害時の交通・避難計画もあらためて検証しながら、長期的なスパンでまちづくりが進められます。
大阪万博の「レガシー(遺産)」は、建物だけではありません。
政府や大阪府市、万博協会は、以下のような 目に見えにくい蓄積も、重要な遺産と位置づけています。*3 *6
たとえば、会場で実証された自動運転モビリティや水素エネルギーの活用は、今後の都市交通や脱炭素政策に生かされる可能性があります。*3
また、スタートアップ企業や研究機関が万博をきっかけに国内外のパートナーと連携を深めた事例も報告されており、「新しいビジネスの種」という形でレガシーが残る面もあります。
市民レベルでは、ボランティア参加や学校教育を通じて、次世代の人材に国際感覚や多様性への理解が広がったという効果も見逃せません。
こうしたソフト面のレガシーは、将来の大阪・日本経済の競争力にも間接的につながっていくと考えられます。
会場の象徴的存在だった木造の「大屋根リング」は、世界最大の木造建築としてギネス世界記録にも認定された施設です。*1
当初は閉幕後に全面解体する計画でしたが、建築的価値や人気の高さを受けて方針が見直され、 北東側の約200メートルは現在の形のまま保存し、公園・緑地として大阪市が管理する方針が固まりました。*7
一方で、それ以外の区間については2025年12月末から順次解体が始まる予定で、撤去した木材の一部は、能登半島地震で被災した石川県珠洲市の復興公営住宅の資材として再利用される見通しです。*7
このように、大屋根リングは「一部を現地保存し、残りは全国各地で再活用する」というかたちで、万博閉幕後もレガシーとして生かされていくことになります。
大阪万博は幕を閉じましたが、イベントの終了は経済活動の終わりを意味しません。
今後注目すべきは、万博によって整備された「インフラ」と、そこから生まれる「次の成長ストーリー」です。
短期的な観光ブームが落ち着いた後も、高度な交通網や都市機能を持つ夢洲エリアには、引き続き人や投資が集まる可能性があります。
IR計画の進捗や、インバウンド需要の定着度合いを見極めることが、今後の関西経済、ひいては日本経済の行方を占うカギになるでしょう。
本コラム執筆時点における情報に基づいて作成しておりますので、最新情報との乖離にご注意ください。
出典
*1 日本国際博覧会協会「2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)公式サイト」
*2 経済産業省「大阪・関西万博経済波及効果再試算結果について」
*3 博覧会国際事務局(BIE)「Closing Ceremony of Expo 2025 Osaka, Kansai, Japan」
*4 日本政府観光局(JNTO)「訪日外客数」
*5 大阪府「大阪・夢洲地区特定複合観光施設区域の整備に関する計画」
*6 大阪市「夢洲地区まちづくり構想」
*7 産経新聞「搬出や解体進むパビリオン、威容残す大屋根リングは12月末から本格工事 万博閉幕1カ月」
