
いま、米中関税交渉の大きな鍵になっているのが「レアアース」です。
いまやあらゆる製造の現場に欠かせない「産業のビタミン」と呼ばれる元素でありながら、埋蔵量が少なかったり産出地域が偏在していたりするために、世界で争奪戦が起きる存在でもあります。
そして産出量の大半を握っているのが中国であり、これが米中関税交渉を複雑化させています。中国はレアアースの輸出規制などをちらつかせながら交渉に当たっています。
レアアースとはどのようなものか、株式市場にどのような影響を与えるのかについて解説していきます。
トランプ米大統領は2025年10月30日に中国の習近平国家主席と直接会談し、対中関税についてひとつの合意事項を発表しました。*1
「レアアース」に関するものです。
中国はトランプ氏の就任後、2025年4月にレアアースの一部輸出禁止に踏み切りました。
その結果、米自動車大手フォード・モーターが工場の一部稼働停止に追い込まれるなど混乱を招いています。*2
中国はレアアースについて2025年12月から新たな輸出規制を設ける予定でしたが、今回の会談ではそれを1年延長することで合意したとしています。
一方でトランプ氏も大きな譲歩を見せています。市中に違法に出回り米国内で大きな問題となっている医療用麻薬「フェンタニル」の中国からの輸入関税を10%引き下げることなどを約束しています。中国船からの入港料の徴収措置も1年延期するとしています。
中国は今回の会談で、「レアアース」を大きな武器に使ったと考えられます。
ただ、2025年11月14日時点で、レアアース輸出規制緩和についてはまだ詰めの協議が続いていることも明らかになっています。*3
それほどまでにインパクトを持つレアアースとは何でしょうか。
日本語では「希土類」ともいわれ、元素周期表ではマニアックなところに位置しています。
出典)国立研究開発法人物質・材料研究機構「元素界のウルトラ兄弟!?レアメタル・レアアース」
日本では、上の表でいう「ランタノイド系」15元素にスカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)を加えた17元素をレアアースと位置付けています。*4
これらレアアースの使い道は、実に多岐に渡ります。*5
ライターの火打ち石という身近なところにも使われていますし、EV生産にも欠かせません。
しかし、埋蔵量が極端に偏っているという事情もあります。
出典)独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構「レアアースの供給と課題」
上のグラフのように、埋蔵量では中国が40%を占めています。さらに、産出量となると中国はさらに大きなシェアを握っています。
出典)独立行政法人エネルギー・金属好物資源機構「レアアースの供給と課題」
レアアースの世界生産量が右肩上がりとなる中で、中国の生産量は2023年の段階で6割近くにのぼっているのです。
一方で中国は世界最大のレアアース消費国でもあり、高度に加工されたものについてはむしろアメリカは中国に対して大幅な黒字になっているという指摘もあります。*6
しかし中国の素材産出あってのことですから、中国の優位性は、すぐにそう大きく崩れるものではないでしょう。
米中交渉については先も述べたとおりまだ明確な内容が見えてきていませんが、レアアースをめぐる最近の大きなニュースとしては、2025年6月、日本の南鳥島近辺に高濃度のレアアース泥が発見されたことがあります。*7
埋蔵量は世界3位の規模とみられています。日本政府は2025年に入ってレアアース泥の開発に注力する方針を打ち出し、4月には深海6,000メートルからレアアース泥を引き揚げる「揚泥管」の接続試験を開始すると表明しました。
こうした大きなニュースに反応した関連銘柄をいくつかご紹介していきましょう。*8
ひとつは東洋エンジニアリングです。
出典)三菱UFJe-スマート証券「期待感が高まるレアアース関連銘柄をピックアップ!」
東洋エンジニアリングは石油・ガス系のプラントエンジニアリング業界大手で、独自に培ってきた資源開発技術、サブシー技術を活用して海底6,000メートルからレアアース泥を回収するシステムの技術開発に携わっています。
粘性が高くスムーズに流れない海底面のレアアース泥をスラリー(液状)に変えて船上に汲み上げるシステムの基本設計などを完了し、2022年度に採鉱に成功しています。
次に、三井海洋開発です。
出典)三菱UFJe-スマート証券「期待感が高まるレアアース関連銘柄をピックアップ!」
三井海洋開発は浮体式の原油生産貯蔵設備(FPSO)を設計・建造する企業で、東京大学の教授が主導する「東京大学レアアース泥・マンガンノジュール開発推進コンソーシアム」では実際に南鳥島周辺のレアアースの開発国などと進めています。
他には東亜建設工業があります。
出典)三菱UFJe-スマート証券「期待感が高まるレアアース関連銘柄をピックアップ!」
マリコン(=マリン・コントラクター)大手で、南鳥島EEZのレアアース資源開発に資する各種の技術開発に取り組んでいます。
レアアース泥採取のために適切な「解泥」技術について、同社の開発した技術を基に、JAMSTEC(= 海洋研究開発機構)の委託を受けて2020年に大型実証試験を実施した実績もあります。
南鳥島に関連する銘柄として他には、石油資源開発、建設環境調査コンサルタント大手で官庁向け売上高が8割超のいであ、古河機械金属、大平洋金属があります。
上記の銘柄は「海底からの引き上げ」という点で海洋技術への注目も関係銘柄の上昇を招いたと要素と考えられます。
そしていまレアアースをめぐる協議では、米中交渉の行方は大きなものになるでしょう。
市場が期待する結果が得られなければ、米国で生産を行っている製造業の株価には大きな影響を与えることでしょうし、良い形でことが進めば、製造業の株価には良い材料となりそうです。
またここのところ、日本はレアアース調達先の多角化の一環として、オーストラリアからの輸入を試みています。*9
こうした動きも株価に直結する可能性がありますので、チェックしておきたいものです。
本コラム執筆時点における情報に基づいて作成しておりますので、最新情報との乖離にご注意ください。
本コラムの内容は、特定の金融商品やサービスを推奨あるいは勧誘を目的とするものではありません。
最終的な投資判断、金融商品のご選択に際しては、お客さまご自身の判断でお取り組みをお願いいたします。
出典
*1 ロイター通信「米大統領、対中関税10%下げ表明 レアアース輸出継続や合成麻薬対策で」
*2 日本経済新聞「トランプ氏、習氏と「1年延期」合意の損得 米中間選挙へ危うい賭け」
*3 ブルームバーグ「米中、レアアースでなお合意に至らず-貿易「休戦」の成果に不透明感」
*4 国立研究開発法人物質・材料研究機構「元素界のウルトラ兄弟!?レアメタル・レアアース」
*5 国立研究開発法人産業技術総合研究所「希土類元素って?」
*6 ニューズウィーク日本版「レアアースを武器にした中国...実は米国への依存度が拡大していた」
*7 日本経済新聞「南鳥島に眠るレアアース、世界3位の量 中国輸出規制の資源も豊富」
*8 三菱UFJe-スマート証券「期待感が高まるレアアース関連銘柄をピックアップ!」
*9 日本経済新聞「双日、オーストラリア産レアアース初輸入 中国依存脱却へ一歩」
