日本では、2007年に65歳以上の人口が総人口の21%超を占める「超高齢社会」に突入しました。
内閣府によると2025年以降は日本の総人口のうち約3人に1人が65歳以上、約5人に1人が75歳以上となり、毎年150万人以上が亡くなるといわれています。*1
これまでも超高齢社会におけるさまざまな社会問題がニュースになっていますが、2025年以降は医療や福祉に関する問題はさらに深刻化するだけでなく、死亡者数が増加していく多死社会による空き家の増加と住宅価格への影響も想定されます。*2
本記事では、超高齢社会における「2025年問題」についての解説と不動産市場に与える影響について解説します。
2025年問題とは、 2025年以降に団塊の世代が後期高齢者(75歳以上)となる超高齢社会において、医療や福祉などに生ずる問題のことをいいます。
内閣府によれば、2023年10月1日現在における日本の総人口は、1億2,435万人です。 総人口のうち、29.1%を65歳以上が占めています。
また、75歳以上が総人口に占める割合は16.1%であり、2025年には約17%になると予測しています。*1
2025年には、人口の多い団塊の世代がすべて後期高齢者となるため、福祉や医療、雇用における社会問題がさらに深刻になることが予測されます。
主にいわれているのは以下のような問題です。
65歳以上の高齢者人口が増加すると医療や介護などで支払われる社会保障費も増大するため、現役世代の負担増加に繋がります。
また、医療や介護を受ける人がふえることで、医療・介護体制を維持することも難しくなります。
増大する医療・介護ニーズを支えるためには働き手をふやしていく必要がありますが、国立社会保障・人口問題研究所の将来推計によれば、労働力の中核となる生産年齢人口(15歳以上65歳未満)は2015年の7,728万人から2025年に7,170 万人へ減少することが見込まれています。*4
今後、労働力不足も深刻になっていくことを考えれば、医療・介護体制を見直し効率化を図ることが重要になるでしょう。
医療や福祉に関する問題以外にも、2025年問題に派生して住宅価格が下落するのではないかという懸念が広がっています。
高齢者人口がふえると長期入院や施設への入所などで留守宅になる、あるいは住宅物件を売却するなど、空き家数が増加していくことが背景にあります。
総務省の「令和5年住宅・土地統計調査」によれば、2023年度は空き家数・空き家率ともに過去最大となりました。
空き家数は900万戸で、2018年から51万戸の増加です。空き家率も13.6%から13.8%に上がりました。
空き家率は1978年から増加する一方で、2023年までの45年間でおよそ2倍にもなっています。
出典)総務省「令和5年住宅・土地統計調査 」
高齢者人口の増加や生産年齢人口の減少が進んでいくことを踏まえると、空き家数はさらにふえていくことでしょう。
2025年には毎年150万人以上が亡くなるといわれており、死亡者数が増加すれば相続件数もふえます。
政府統計ポータルサイト「e-Stat」の調査によれば、「土地に関する登記の件数及び個数」における 「相続その他一般承継による所有権の移転」は、2023年には125万2,245件となりました。10年前の2013年には85万8,740件であり、年々増加しています。*5
今後も相続件数はふえていくことが見込まれますが、近年の家族形態は親子別居が多いため、相続した住宅物件は売却するケースが多くなることが予測されます。
その一方で、買い手となる生産年齢人口は減少していくため、市場に出回る住宅物件の数はふえても肝心の買い手が少ないという状況になります。
これが住宅価格は下落するのではないかという懸念が広がっている要因です。
では本当に住宅価格は下落するのかについて考察してみましょう。
近年、住宅物件の価格は上昇しています。
国土交通省の調査によると、住宅地、戸建て住宅、マンションのいずれにおいても価格が上昇していることがわかります。
特にマンション価格は2013年ごろから上昇傾向にあります。
出典)国土交通省「不動産価格指数 (令和6年5月・令和6年 第1四半期分 )を公表 」
また、 東日本不動産流通機構の「首都圏不動産流通市場の動向(2023年)」によれば、2023年における首都圏中古マンションの成約件数は35,987件(前年比1.6%増)と2年ぶりに前年を上回りました。*6
住宅価格の上昇や首都圏における成約件数の上昇を踏まえると、条件の良い住宅物件や首都圏においては2025年に住宅価格がいきなり下落する可能性は低いでしょう。
中古マンションの成約件数からみても首都圏における住宅物件の需要はありそうですが、それ以外の地域ではどうでしょうか。
国立社会保障・人口問題研究所の調査によると、高齢者人口の割合が高い都道府県上位5県は以下と推計しています。
出典)国立社会保障人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口」
首都圏含む都市部への移住者がふえるなど、高齢者人口の割合が大きくなる地域では、さらに空き家はふえ、買い手は減っていくことになります。
このため、高齢者人口が多くを占める地域では、住宅物件の需要と供給のバランスが崩れることで住宅価格は下落する可能性もあります。
2025年に入ると団塊の世代が後期高齢者になることにより、社会保障費や医療・介護体制などの社会問題がより浮き彫りになりますが、不動産市場にも影響をおよぼします。
住宅物件の価格は、種類や立地条件により変動するため、条件の良い住宅物件や首都圏では下落する可能性が低いといえます。
一方で、地域によっては空き家問題の深刻化や相続した住宅物件の売却増加などにより、需要と供給のバランスが崩れ、住宅価格は下落する可能性もあります。
これから住宅物件を購入する際は、不動産市場の動向を踏まえて検討すると良いでしょう。
本コラム執筆時点における情報に基づいて作成しておりますので、最新情報との乖離にご注意ください。
出典
*1 内閣府「令和6年版高齢社会白書(全体版)(PDF版)高齢化の現状と将来像」
*2 独立行政法人国民生活センター「空き家問題の現状と対策」
*3 NTTコミュニケーションズ「2025年問題とは」
*4 日本の将来推計人口「日本の将来推計人口(令和5年推計)」
*5 e-Stat「登記統計 総括・不動産・その他」相続その他一般承継による所有権の移転
*6 東日本不動産流通機構「首都圏不動産流通市場の動向(2023年)」